ハワイ紀行

〜またの名を暴飲暴食日記〜

12月3日(金)

クーポン券をむだにするな2

 目覚めると、なんだかおなかが空いているような気がした。昔から私は、酒を飲んだ翌日、胃がもたれているのか腹が減っているのかよくわからない、ということが多く、今日も一体どちらなのか区別がつかなかった。でも朝食のクーポン券があるので、腹が減っているのだと強引に判断することにし、地下のレストランへ向かった。ホテルにとっては招かれざる客の二人は1800円も朝飯にかけられない、と部屋でお留守番。でも、一晩の飲み会のために新幹線に乗って鳥羽から来るやつが1800円けちってどうするねん。

 ビュッフェのメニューを目にした途端、腹が減っている、という判断が正しかったことを確信した。昨日果たせなかったガシガシ食うぞ、という夢を今日こそ果たそう!しかしこの時、学生時代に焼き肉食い放題に出撃する際に、ヨッシャ、店を食いつぶしたる!と意気込んでメチャ食いし、肉はおろかスパゲティまで豚のようにバクバク食ったあげく、帰ってきたら駐車場の片隅で内臓ごと吐き出しているかのようなゲロをして、みんなから「おまえが食いつぶれてるやないか!!」とつっこまれていたミスター黒真珠のことを思い出しておくべきであった。

 そのときの彼ほど愚かではないものの、それでもやはりたくさん食ってしまい、食っている最中からだんだん気分が悪くなってきた。皿に盛ったプレーンヨーグルトはもうとても食えない、という事態になったとき、ようやく私は、やはり胃はもたれていたのだ、という事実に気づいたのであった。

 部屋に戻ってもしばらくグロッキー状態で、「ああ、このまま一生寝ていたい、ベッドに埋もれていたい」と悶絶していた。しかしチェックアウトは11時である。しかもT村氏とN氏は上野動物園に行くという。

 鳥羽からやってきたT村氏は鳥羽水族館の奴隷スタッフ、もとい、飼育スタッフで、先頃できた上野動物園の両生爬虫類館を見てみたいというのだ。自費で来ているのに仕事熱心である。給料もっと上げてやってくれよ鳥羽水族館。しかしちょっと待て、それはわかるが動物園に男二人で行くのか?しかもN氏といえば、江頭2:50を少し知的にしたような、見た目100%怪しげな男である。かたやハギチブル、かたや人相悪男……私が警官なら迷わず職務質問するぞ。

 そんな絵だけは想像したくないので、阻止するため仕方なく我々二人も付き合うことにした。もっともそのためにはチェックアウトぎりぎりまで寝て胃を休めねばならない。

上野動物園に行こう!

 今回の上京では初電車である山手線で上野までたどり着いた。4人のうち誰一人上野に詳しい人間はいなかったが、路頭に迷うことなく上野公園に入れた。すると突然T村氏が、

 「西郷どんを見たい」

 と言いだした。聞けば彼は上野に来ること自体初めてなのだそうだ。しょうがないなあ、と言いつつ本来なら登らなくていい階段を上り、愛犬ツンと一緒に立っている西郷どんを見上げた。真っ黄色に色づいたイチョウをバックにして立つ西郷どんは、スモッグでかすむ東京の空を悲しげに眺めていた……が、見れば見るほど武蔵丸だなぁ。

 そのまま寛永寺の前を通って動物園を目指した。寛永寺といえば明治維新前後にその名がたびたび出てくる由緒正しい寺なのに、なんだか俗な幟があちこちに立っていてとっても安っぽく見える。なんの御利益があるのか知らないが、そんなものを幟で宣伝してどうするんだ。日本全国の寺社仏閣は観光地になると決まって幟をはためかす。どうして景観というものの価値を考えないのだろう。

 ようやく上野動物園が見えてきた。上野動物園と聞くだけでなんだか特別な感慨が胸をよぎるのは、きっと子供の頃、混雑の中並んで見たカンカン・ランランのせいだろう。ぎゅうぎゅう詰めの中ようやく目にしたパンダ2頭は、グテッとしいて1ミリも動かなかった記憶がある。

 今日のパンダは活発だった。トントンしか名前を知らなかったが、とにかく元気だ。もしかしてCGか?と一瞬思ったが、肉眼なのだからきっと本物だろう。ファスナーもなかったし。

 子供の頃はとにかく広大な動物園、というイメージがあった上野動物園だけど、回ってみると、あれ、こんなものだったかなあ、という感じである。たしかに500円という入場料は考えてみればタクシーの初乗り料金よりも安いわけで、それで文句を言っちゃあ申し訳ない、という気もする。けれどあえて言わせてもらうなら、物足りなく感じる理由は、やはり民間じゃない分、展示の方法の工夫が少し足りないんじゃないの、ということに尽きるのだろう。

 サンシャイン水族館や鳥羽水族館などのように民間の場合、客の入りが直接スタッフの給料に関わってくるから、飼育スタッフたちもほんの小さな生き物に至るまでその展示方法に関しては工夫を凝らす。その結果がどうであれ、よりおもしろくなるよう、注意を引くようみんなで考えている。というのが伝わってくるものがあるのだ。

 それに対し公営の場合、たしかに生き物に対する愛情や、しっかり世話をしている、ということに関してはひけを取らないに違いないが、園自体の客への愛が足りない気がするのだ。なんだかケージの中、園内、それぞれが殺風景に見えてしまうのは、けっして吹き荒れている木枯らしのせいだけではないはずだ。ものによっては、ほんとに見せる気があるの?と思えるような展示の仕方もあったもの。

 もちろんこれは飼育スタッフのせいだけではない。モロモロの諸経費は役所的考えに基づくのだろうから、その下で働く彼らだって大変なのに違いない。

 さて、広い園内をくまなく歩いてようやく目当ての両生爬虫類館にたどり着いた。エントランスを抜けると一気に湿気ムンムンの熱帯ワールドである。おかげで私の眼鏡は一気に曇り、なんにも見えなくなってしまった。曇った眼鏡で見た限りでは、建物の大きさから受ける期待とは裏腹に、工夫という面(もちろん客から見て)で特に目を引くものはなかった。上野動物園よ頑張ってくれ!!

 さてさて、我々はこのあと京成上野駅までスカイライナーの時刻表をとりにいくのでここでT村、N両氏とはお別れである。時刻は午後2時。彼が鳥羽に帰り着くのはいったい何時になるのだろう。明日はもう仕事だろうに、ご苦労なことだねぇ。僕たちはこの後ハワイだよ、ハハハ。

里帰り

 我々の次の行き先は埼玉である。西武池袋線で元加治駅まで行く。いつの間にか電車賃は鰻登りに上がり、今では450円もかかるので驚いた。車内はさいわいラッシュ前なので空いていて、落ち着いて電車に乗れたのでよかった。

 元加治駅で降りると、また例の事実を思い知らされた。冬の西武地方は、東京よりも気温が3度は低いのだ。それまでそんなに寒くないね、と言っていたのがウソのように身の回りはすっかり冬になってしまった。

 今うちの奥さんの実家には、弟夫婦と父ちゃんが住んでいる。けれど弟夫婦はおめでたのため奥さんが実家に帰っていて、父ちゃんは職場の同僚と泊まりがけで秩父夜祭りに行っているからこの日は帰ってこない。年末で弟自身も忙しいから帰りが遅い。久しぶりに実家に帰ってきたとはいえ、迎えてくれるものといえばヒャフンヒャフンと鳴いて、いや、泣いて喜ぶ老犬ムサシしかおらず、火の入っていない家はとっても寒かった。さっそくうちの奥さんはいつもの仕事に戻り、家事にとりかかったのであった。

 晩ご飯は、このところの暴飲暴食を反省して、とびきり豪華に素うどんである。このうどんの胃に優しいこと。今日は一滴も酒を飲まないぞ、と二人で心に誓い、優しい優しいうどんをツルツルツルといただいたのであった。

 そうこうするうちに当家の若様がご帰還し、久しぶりの再会を祝ってまあ、ビールでもと……あれ?さっきの誓いはどこへ行ったのだ?しかし目の前のビンビールを前にしては、ウスバカゲロウのようにはかなく消える私の意志では抗えようはずもなく、一瞬の迷いもなくコップを差し出していた。もちろんうちの奥さんも。う〜ん、うまい!!

 がんばれ太田胃散!!

 さあて、我々はいつになったらハワイへ行くのか?旅はまだまだ始まらない。

12月4日(土)へ