23・タオルミーナ散歩

 波見のひとときを終え、街に戻ることにした。
 とはいえ、下りてきた階段を再び登る気はさらさらない。
 帰りはケーブルカー♪

 地図で見るとケーブルカーステーションまでけっこう距離があるようにも見えたのに、歩いてみるとイゾラ・ベッラからすぐのところにあった。
 日本で例えるなら周りがすべて飛騨高山のような街並みの中にあって、このケーブルカーステーションだけが近代建築だから、たとえ上に伸びるケーブルが見えなくともすぐにそれとわかる。

 ひと気のない駅で切符を購入。
 こういう場合、往復とか片道という言い方も知っておくと便利だったりする。

 ケーブルカーは15分ごとに運行しているというから、それほど待つ必要はない。乗り場に若者がいたので、あとどれくらい?と尋ねてみると、

 「……イタリア語わかりません」

 あ、みんながみんなイタリア人じゃないよなぁ、そりゃ。

 イタリア語よりもさらに拙い英語で聞くと、ほどなく来ると教えてくれた。
 ホントにほどなくして到着。
 さあ、乗り込もう!!

 このケーブルカーは、4台1組になっていて、仲良く手を繋いでゆっくり動く。
 眺めはさすがに壮観で、登っていくにつれて本土側のイオニア海を一望。
 反対側は、素敵な家々が並ぶ山の斜面だ。

 でも……。

 動いているケーブルカー自体を外から観たいッ!!

 …という願いは、右手で唯一持てないものな〜んだ?の答えが右手であるのと同じく、乗っていると当然ながら、4台揃って仲良く進むケーブルカーを観ることはできない。

 でも!!

 その後立ち寄った土産物屋で見〜つけた♪

 

 少し季節は違うけど、こんな風にケーブルカー・カルテットは進みます。

 そんな楽しい乗り物、ケーブルカーは、残念ながらものの2、3分で終了。
 再び街に戻ってきた。
 あれ?ここは?

 昨日夕方、初めてイタリア本土を見たあたりだ。
 ここがケーブルカー乗り場だったのか……。
 ちなみに今宵の予約をした店はこのすぐ近くにある。

 ここはメッシーナ門の外からちょこっと海側に回ってきたところ。そのメッシーナ門の外を逆側にほんの少し行くと、ヒロセさんが車内で教えてくれた、カンノーロが美味しいというお店がある。

 カンノーロというのはシチリアの伝統菓子で、パンを固くしたような生地を丸く筒状にして、その中にリコッタチーズを詰めたお菓子。

 そう、ゴッドファーザーPartVで、コニーがドン・アルトベロ暗殺のために渡した毒入りお菓子、あれがまさにそのカンノーロ。

 
カンノーロを食べるドン・アルトベロ@イーライ・ウォラック
ゴッドファーザー
PartVより

 ヒロセさんオススメのお店はD'Amore(ダモーレ)という店で、カンノーロ自体はショーケースに並んでいないけど、オーダーするとその場でリコッタチーズを詰めてくれるという。

 聞いただけで美味そう!!

 テケテケ歩いていくとすぐ到着。
 たしかにショーケースにカンノーロは並んでいない。知らなかったら絶対に買えないところ、ツウぶってドゥエカンノーリって頼んでみると……

 おお、たしかに奥で作業開始!!
 そうして出てきたものが、これだ!!

 で………でかッ!!
 聞きしに勝るボリューム。
 これ2つでたったの4ユーロ。
 これをお持ち帰りにして、すぐ近くの広場もどきで食べてみる。

 これが実に…………………美味い。
 店によっては、脳天直撃系の甘さに体が痺れるほどになることもある、という話を読んでいたので、半分くらいは恐る恐るだったものの、これがことのほか美味しい。

 たしかにチーズの上に載っていたオレンジのお菓子のようなものはもんのすごく甘かったものの、リコッタチーズ自体はかなり上品な味わいで、様々な場所で体験した多くの旅行者が述べている感想で想像していたよりも、よっぽど美味しいものだった。

 やっぱ、地元の人オススメだけのことはあるってことか。

 でも。
 これが平均的な味ではないのだとしたら、やはり甘いものはとことん甘いのだろう。
 それを、鬼のようにバクバク食べていたドン・アルトベロ。
 コニーがプレゼントしたあの箱には、カンノーロが少なくとも5、6本は入っていたように見えた。
 あれほど食べたら、たとえ毒入りじゃなくとも死んでしまうのは間違いない………。

 
カンノーロを食べ過ぎて(?)死んじゃうドン・アルトベロ。
ゴッドファーザー
PartVより

 こうして、

 シチリアでカンノーロを食べる!

 という大きな目標の一つを果たした我々。
 しかし!
 異変はその直後に起きた。
 うちの奥さんの腹の調子が悪いという。

 もしかして、ドン・アルトベロに!?

 いや、誤解のないように申し添えておくけれど、けっしてカンノーロのせいではない。多すぎて食べきれないと言って半分以上残した彼女に対し、美味い美味いと丸ごと食べた僕はまったくなんのモンダイもないのだから。

 さて困った。
 ここからホテルまでは4〜500m。歩けば6、7分ってところだろう。
 も………もつか??

 にわかにオタマサ化したうちの奥さん。ともかく行動開始。
 最短距離でホテルを目指す。
 途中、昨日寄った
BAMBARの横を通りかかった。
 すると、ガラス越しに店のあのきれいなオネーチャンが、手を振って笑いかけてくれた。

 覚えてくれていた!!(赤い上着が目立つから)

 それをきっかけに店に入って、楽しい楽しいカフェタイム♪

 ………のはずだったのに、約1名緊急事態出来のために、僕のリトルロマンスはあっけなく消え去ったのだった。

 緊急事態はレッドゾーンに差し掛かりつつあったものの、どうにかこうにかホテルに帰着。
 地獄から天国に生還したオタマサなのだった。

 火急の自体はクリアされ、まだ時間もたっぷりあったので、散歩を再開することに。

 こうしてまた、ホテルからメインストリートの道のりを、無駄に1往復プラスする羽目になってしまった……。

 途中、こんなBSアンテナを見つけた。

 これって、BAMBARを彩っていた絵柄にそっくり。
 あそこの絵は近所に住むアーティストの手によるってことだったけど、ひょっとしてそのアーティストのお家かな??

 なんだかパーラー・ティーダに採用できそうなデザイン。

 こういう「手を抜かない遊び心」が、街全体にある気がするタオルミーナ。
 そんな街に滞在するのも今宵が最後なので、自分用のお土産を探してみよう。

 幸い、コルソ・ウンベルトは国際通りみたいなものだから、ちょっとしたお土産を買うのに事欠かない。
 一応、目星はつけていた。
 このお店。

 有名な、足が3本突き出ているシチリアのシンボルマーク、そのちっちゃいヤツをひとつ買っておこうかなぁ……と。
 で、物色していると、中からオネーサンが出てきた。
 触っていいですか?と断ると、

 「中にもっとたくさんあるわよ!」

 と誘ってくれた。
 そして彼女が教えてくれたものがこれ。

 エトナの溶岩製だという。
 おお、まさにツボ!
 ホントにエトナの溶岩なのか、そもそもホントに溶岩なのか、そのあたりは定かではないけれど………
 思わず買っちゃいました。
 だって、オネーチャンが優しくてかわいかったので。

 記念にオネーチャンと。

 その後ポストカードなどを買い、これにてお買い物終了!!

 テケテケ歩いていると、大聖堂に来た。
 そういえば、ここの噴水のてっぺんにある像は、女性版ケンタウロスとかで、このタオルミーナの街のシンボルなのだそうだ。

 せっかくだから、このケンタウロス(♀)が入るようにうちの奥さんを撮ろうとしていると………

 「撮ってあげますよ!」

 へ?
 昨日のオネーチャンたちに続き、今度はシニョーレが。
 この大聖堂前って……………
 他人の写真を撮るとご利益がある、とか??

 そんな話があるはずはなし、それにしてはあまりにもみなさん気さくにお声掛けしてくださるのがありがたい。
 お言葉に甘えて撮ってもらった。
 すると…

 ケンタウロス(♀)入ってないしッ!!

 ま、旅は道連れ、世は情け。
 情けをたっぷり味わえる、人情たっぷり大聖堂前なのだった。

 そのあと、青果店を冷やかしつつ……

 この道からコルソ・ウンベルトの一筋裏手に行くと…。

 ナウマキエ。
 ローマが共和政から帝政に移る端境期、つまり内乱期に、シチリアの諸勢力は、ローマに反旗を翻していたポンペイウスの息子セクストゥスに加担した。

 が、勝利はオクタヴィアヌスの手に。
 後に初代皇帝アウグストゥスとなる彼は、反旗を翻したみせしめにとばかり、タオルミーナの住民すべてを流刑に処したという。
 その際の戦勝記念の遺構がこのナウマキエなのだそうな。
 当時の海戦の模様を物語る彫刻などがズラリと飾られていた、というのが、現代考古・歴史学者のもっぱらの見解だ。

 そんな歴史的真実がどうかはともかく、この遺構が紀元前に造られたのは間違いない。
 その紀元前の遺構の上に………

 普通に建物が建っている!!
 ってこの建物、メインストリートに並ぶ店舗なんですぜ。

 お金がないから再利用するしかないのか、残すべきものは残すという観点で無理矢理残しているのか、いずれであれ、僕はただた、その有りように感動してしまった。

 このナウマキエを出て通りに出ると……

 そこはBAMBARの目の前なのだった。
 おお、ここに出てくるのか。
 この道をもっと前から知っていれば、いろいろと便利だったのに。

 BARの店先では、あのオネーチャンが立っていた。
 たしかにこの子が店先に立っていたら、誘蛾灯に引き寄せられる蛾のように男どもが集まることだろう。

 俺も集まりたい!!
 でももう時間が……。
 前を通りかかると、オネーチャンが僕たちに声を掛けてくれた(何度も言うけど、赤い上着は目立つのだ)。

 なのですかさず、

 Mandorra!!

 と言うと、オネーチャンはOKサインを出しながら笑ってくれたのだった。

 うーん、タオルミーナ。いい街だ………。