CBar KOSHI

 前回北のマスターのお店にお邪魔したときは、1次会の牛タン屋さんから、C嬢(当時)O嬢の美女コンビに文字通り手を引かれるまま、タクシーにて辿り着いたものだった。

 そのため、

 とっても素敵なお店だった!!

 …と声を大にしてヒト様に紹介することはできても、いったいそのお店がどこにあるのか、まったくもって五里霧中、はたして仙台駅の東なのか西なのか、駅からいったいどれほどの距離なのか、皆目わからないまま今日に至っていた。

 ところが今回は、1次会の伊達藩長屋酒場からBar KOSHIまで目と鼻の先なのだという。
 少なくとも伊達藩長屋酒場の場所はボヤヤ〜ンながらある程度わかっているから、僕はこの先、いつでも北のマスターのお店に辿り着くことができる(……はず)。

 とはいえ、北のマスターはさきほどお店の準備のために一足早く1次会の場を発たれたばかり。
 そのため我々の案内役Tさんは、準備時間を考慮して時間調整をすべく、わざと遠回りして街を散策するルートで我々を案内してくださり、ようやくBar KOSHIが入居しているビルに到着。

 皆様、ここがBar KOSHIが入居しているFUJIビルです。

 そしてその3階に、北のマスターの店はある。
 建物にも外の道にも、看板の「か」の字もないけれど、ビルの入り口にはささやかなサイズのネームプレートが。

 北のマスターの店はもちろんのこと、仙台探訪すら今回が初めてというすかてんポチ1さん、期待に胸をときめかせる乙女のような満面の笑み。

 そしてエレベーターで3階へ。
 そこにはこのマットが。

 ここまで来れば、いかな酔っ払いであろうと道を違えるはずもない。

 いよいよ北のマスターの店である。
 ワクワクしつつ扉を開けると………

 「ステキ〜〜〜〜!!」

 レディース・フィフティーズの面々が、少なく見積もっても40年くらいの時を遡って少女のような嘆声を上げた。

 その気持ち、わかります。
 だって、ホントにステキなんですもの。

 そんな我々に、北のマスターがマグナムボトルのシャンパンを振舞ってくださった。

 これがまた、カッコイイんだわ。

 島でバケーションをエンジョイされている北のマスターは、どこから見ても飲み疲れたおとっつぁんにしか見えないというのに、仙台の地でお会いすると、長身痩躯がピシッと決まったオシャレな紳士になり、ひとたびカウンターという「聖域」に入られるやいなや、たちまち「プロ」の世界の住人に。

 サナギマンから劇的に変身するイナズマンもビックリの変貌ぶりである。
 ああ、島のナリコさんやジュンコさんに見せてあげたい……。

 暖色照明が心に優しいこのお店では、普段、何人、何組かのお客様が、静かにグラスを傾けておられるという。
 そんな雰囲気を少しでも味わってもらおうと、仙台チームの皆さんが配慮してくださった。

 すなわち、大挙して全員押し寄せるのではなく、まずは我々遠来のゲストだけを入店させるべく、時間差を設けてくださったのだ。

 その細やかな配慮にただただ感謝。

 が。

 ゾウの時間とネズミの時間ならぬ、シラフの時間と酔っ払いの時間のこと。時間差攻撃になるはずだった作戦は、ほぼAクイック状態に。

 そんなわけで、たちまち店内はこういう状態に。


撮影:北のマスター

 もちろんカウンターの奥のテーブルにも、仙台チームZが陣取っている。
 普段ではありえないという、店内すべて一団体の図。

 この日この時このタイミングで、ステキなデートをしようとしていたかもしれない常連の方々、まことに申し訳ございません……。

 ふるまっていただいたシャンパンのあと、僕はガラにもなくシングルモルトをお願いしてみた。
 なんとなく聞き覚えのある、アードベックというお酒。
 このあたりのお酒には特有の香りがあるということはかろうじて知っていた僕は、グラスが出てくる前に、居並ぶ即席乙女のみなさんにこう紹介していた。

 正露丸とかヨードチンキの匂いがするんですよぉ!!

 ……だから、そういうお店じゃないんだってば。
 そしていただいたアードベックのグラスは、やはり正露丸。
 ほら、こういう香りなんですよ。

 「ホントだぁ、正露丸だぁ〜〜」 by すかてんポチ1さん

 ……だから、そういうお店じゃないんですってば。

 そこへ、北のマスターが用意してくださった酒のアテが。

 まるで池坊家元の手による生け花かと見まがうような、フレッシュ&ドライフルーツの盛り合わせ。
 こんなステキな酒のアテが、10代の乙女に戻ってしまっているフィフティーズのハートをつかまないはずはない。

 その後我ながらガラにもないお酒をいくつかお願いしたあと、カクテルを頼んでみた。
 僕の愛読書のひとつ、ススキノ探偵シリーズの主人公が、ケラーオオハタでたまに飲んでいるギムレット。

 素人目にはテキトーにシェイカーに注いでいるようにしか見えないのに、出来上がったものをいざグラスに注いでいただくと、最後の一滴がグラスに落ちてちょうどスジきり一杯。

 スゴイッ!!ピッタリなんですねぇ!!

 「これで飯食ってますから(笑)」

 ああ、言ってみたいぜそのセリフ……。
 カウンターの向こうは 匠の世界なのである。

 さすがにみなさんが何を頼んでおられたのかまでは覚えていないけれど、途中、十数年ぶりにお会いする仙台在のゲストがイチゴを抱えてお越しくださったりしつつ、カウンターのあちこちには楽しげな会話が溢れ、実にシアワセな時間が過ぎていった。

 そして。
 最後の最後には、ついに自分が飲んだものすら記憶がおぼつかないようになっていた。

 実際はもっと美しいカクテルだったというのに、何の工夫もなくストロボベタ当てで撮ってしまっている時点で、僕は相当酔っていたのは間違いない。

 このカクテル、名付けて「タオルミーナ」。
 先年我々夫婦がイタリア旅行をした際に立ち寄ったタオルミーナは、北のマスターとの会話がキッカケで訪問先の一つに選んだということは記憶に新しい。

 そんな縁をふまえて、北のマスターが作ってくださったのだ。
 ああそれなのに。

 すみません、PM2.5の霧に覆われた北京の空のごとく、モヤヤ〜ンと霞んだ記憶の彼方に浮かんで……

 ……やがてうたかたの夢のごとく、淡く儚くフェードアウトしていった。

 気がつけば午前3時のホテルの部屋。
 目を閉じて記憶をまさぐりつつ、途中コンビニに寄ったような気がするなぁ……とモヤモヤ思いながら再び目を開けると、午前9時の日差しが新たな1日の始まりを告げていたのだった。

 もっとシッポリゆっくり、ジンワリじっくりステキなバーで過ごそうと思っていたのに、なんだか大切な部分の記憶だけがすっかり抜け落ちているような気がする……。

 うちの奥さんに聞いたところによると、終盤の僕は何がキッカケだったのか、アルプスの少女について熱く語っていたらしい。
 それも、2児の父でもあるMさん相手に……。

 Mさんにとっては甚だ迷惑だったことだろう。前回の金縛り話から、なんの成長もしていない自分に愕然とする。 

 北のマスター、さらなる反省を活かすべく、また必ずお邪魔させていただきます!