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悶絶的フルコース

 ………ところが。
 そういう我々の心配はなんだったのか、というくらいに夕食の量はすさまじかったのである。
 写真は3日目の料理だが、とくとご覧じろ。

 いうまでもなく毎日ワインも頼んでいる。
 このワイン、その名をニセコワインという。ニセコワインといいつつ、余市で作られているものだ。
 余市?
 あ!、列車からうちの奥さんが見たという例の木々はやっぱりブドウだったんだ!!
 勝ち誇る我妻マサエ。
 北海道でブドウを作っていたのかぁ……。
 聞けば、余市ではリンゴやサクランボも作っているそうな。

 さて、ワインで乾杯して、前菜をいただく。初日はラザニア、翌日はチーズフォンデュー(生まれて初めて食った)そしてこの日の前菜は真たちのポアレ。
 ポアレってなに?って感じだが、その前に「真たち」ってなんね?
 真タラの白子なんだって。
 これがもう、絶品………。
 その次に出てくるスープが、これまたクセになる味なのだ。
 初日がカボチャのポタージュ、2日目は牡蠣のクリームスープ、そしてこの日はクラムチャウダー……。普段スープといえば「クノールカップスープ」かアヒル汁しか飲めない我が身としては、この上なくゼイタクな………。コンソメ系よりもクリームスープが好きな僕としては大満足なのであります。

 パンかライスか、ということでパンを選ぶと、出てきたのはナンだった。
 僕、ナン大好き。
 スープにつけ、他のソースをつけ、ムシャムシャ食った。
 この日の魚料理は、カワイイ人参玉入りさやえんどうの皮が添えられた、ニシンのアーモンドソースかけだった。この料理によって、我々はニシンの底知れぬ実力を思い知った次第である。
 ニシンなんて、沖縄では買おうにも身欠きニシンしかないというのに、北海道ではごくありふれたスーパーポピュラー魚なのだ。沖縄で売られているグルクンよりも安かった。
 そしてメインディッシュの肉料理。これ単品だけで普通の一食分くらいはありますぜ。しかもその味は、ちょっと前に沖縄の北谷で食ったステーキ屋のものよりも圧倒的に美味いときたもんだ。
 すでにこの時点で、腹一杯120パーセントである。
 それに追い討ちをかけるように、デザートの登場。この日は抹茶アイスクレープ包みだった。

 もう、毎晩のように腹一杯である。
 これまでの半生で、何日も続けてフルコース料理なんて日々があったろうか。
 2日目なんて、前菜のチーズフォンデューを食べ過ぎると後が大変ですよ、と女将さんにアドバイスしてもらっていたというのに、あまりの美味さに二人してつい我を忘れ、ほとんど平らげてしまった。そのため、うちの奥さんが食べきれずに残した分まで食ってしまった頃、我が腹はお盆の帰省ラッシュの新幹線なみに160パーセント状態になっていた。
 量が足りなくて空腹のあまり悶絶したらどうしよう……などと心配していたのに、フタを開けてみれば食べ過ぎのあまり死にそうなほどに悶えていたのである<大バカ。

 行きのニセコスキーEXの車内でもしビールが売られていたら………。
 つまみを食いすぎて、とてもじゃないけど夕食を平らげることはできなかったろう。
 そのつまみ、すなわちニシンの切れ込みをいたく気に入ったうちの奥さんは、残ったものを宿にそのまま持って来たのだけれど、暖房の部屋に置いておくといたむから、袋に入れたまま窓の外に吊るしていた。そして、夕食後部屋に戻ってからしばらく経つと、やおらそれを取り出した。
 食いすぎたぁ、と僕が悶絶している横で、チビチビと日本酒を飲みつつ、つまみを食おうとする我妻マサエ。でもニシンの切り込みの瓶は、これでもかというくらいにガッチガチに凍っていたのだった。

 飲み会続きになるからと念のため持って来ていた胃薬は、飲み会の日程をすべてクリアしてから連日の大活躍。その逆に、「おばあちゃんのぽたぽた焼き」と乾パンは、いつのまにか荷物の下に埋もれていった………。

 まさかそこまで満腹になるとは知る由もない到着早々の我々は、いまだ食事の量に逆の意味で一抹の不安を抱きつつ部屋でお茶を一服し、一息ついたので洗濯をさせてもらった。
 いきなり洗濯かいっ!!
 ………って言われそうだが、すでに島を離れてから4日経っているのだ。
 この日の洗濯は予定通りで、あらかじめ洗濯機の使用が可能かどうかは確認してあった。だが、まさかそれがプライベートスペースにあるご家庭用のものとは思いも寄らなかった。
 おまけに、洗濯が終わってうちの奥さんが取りに行くと、
 「部屋には干すところがないだろうから私の部屋に干しなさい」
 と、ペンション風みどり雪かき担当(夏は草むしり担当)のおばあちゃんが言ってくれた。
 こういううれしい人情は小さな宿ならではであろう。