1・プロローグ・そもそもごっくん隊とは…?

 当サイトをご覧になっている方々は、特にシーズン中、しばしば「ごっくん隊」なる名称が登場することにお気づきであろう。
 いうまでもなく彼らはクロワッサンのゲストである。
 ただし、もともとそのような名称をひっさげて水納島に来襲してきたわけではない。

 何を隠そう、ごっくん隊という名は僕がつけたのである。

 何故?

 それは彼らの飲みっぷりによる。
 ご存知のとおり、クロワッサンにはロギングタイムと称する「飲む時間」がある。
 いや、もちろん無理にお飲みいただく必要はまったくないのだけれど、いい大人が夜中に雁首そろえてお茶でもどうぞ……というわけにもいかないので、まぁたしなむ程度なら翌日に問題はあるまい、という程度のものである………はずだった。

 それがいつしか、海よりもそちらが優先、という人たちが増えているというのが、ここ数年のクロワッサンの悩みのタネではあるのだが、その先鞭をつけた人たちといってもいいのがこのごっくん隊だ。

 当初は男性二人でのご来島だった。
 今で言うところのリーダーT沢さんと隊長H田さんのお二人だ。
 このお二人、ホモ説も飛び交うほどに仲がよく、パプアニューギニアへ行ったかと思えば、モルディブにも行っている。男二人で。

 モルディブに男二人で!!

 ベッドメーキングの際には、ご丁寧にもわざわざベッドを二つくっつけられ、お花でデコレーションされてしまったらしい……。身の毛もよだつおぞましさだ。

 そんなお二人が仲良くやってきたのが2000年の秋のこと。
 当然ながら夜はゆんたくタイム。飲む。

 その量が!!

 ハンパではなかった。
 なにしろ二人とも泡盛をロックで、しかもそのピッチは、まるで全速力で走るD51に石炭をくべているかのような速さなのだ。

 ま、まじっすか!?

 人数的にこれくらいあれば充分だろうと思われた一升瓶が、日を追うごとに一本、また一本と消費されていくにつれ、青ざめていく我々。そしてついに、それまで誰も手をつけたことがなかった、当時民宿で売られていた泡盛「珊瑚礁」の4合瓶を導入することとなったのだった。

 以来、彼らが次回来るときには、泡盛を大量に用意しておこうと決めた。

 そして月日は流れ……

 なんとホモ説が流れていたお二人が、女性を一人伴ってやってくるということになった。
 ブク嬢である。
 いくらお酒が好きといっても、そこはそれ、女性連れともなれば酔っ払ってばかりもいられまい。二人の酒量はそれなりに落ち着いて、女性へのトーク的ケアのほうに力を注いでくれるに違いない。

 ……と思いきや。
 この女、やたらと飲む!!
 というか、3人の中で最も強いんじゃあるまいか。

 「氷入れたら薄まるからイヤ!!」

 泡盛のロックを作ろうとすると、そんなセリフが……。こんな女性に、僕は今まで会ったことがなかった。

 3人揃って泡盛をごっくんごっくん飲みつくす……。

 あなた方3人はごっくん隊だ!!

 ……とまぁ、これがごっくん隊という名の由来である。
 ちなみに、この時点ではすでに彼らは手土産代わりに大量の、そして我々が見たこともないようなレアものの高価なお酒を持参してくださるようになっていた。おかげで、それまでは「足りるのか?」という心配をしていたのが、「これを飲みつくすのか……?」という不安に変わっていたのは言うまでもない。

 このごっくん隊は、すでに触れたとおり3人で構成されている。


右から、隊長、リーダー、ブク嬢(撮影:2005年)

 リーダーのT沢さん
 隊長のH田さん
 そして、平構成員でありながら絶大なる権力を誇るブク嬢

 の3人だ。
 リーダーと隊長とどちらが偉いのかという疑問を誰しも抱くだろうが、それはまぁ、選手会長とチームキャプテンのようなもので、優劣はないらしい。

 とはいえ、ダイビングの場合はリーダーが文字通りリーダーとなる。
 リーダーT沢さんは、知る人ぞ知る、かの有名な法政大学アクアダイビングクラブのご出身(現在栄えあるOB会長!!)で、そのダイビング本数は優に1000本を超えている。
 よく言うのだが、どこぞのショップでのスタッフ経験もなしに、レジャーダイビングのみで1000本を超えるというのはよほどのことだ。

 1000本も潜れば、海中の大方のものと出会っているだろう。ヨロコビも感動も、たくさん味わいつくしているに違いない。
 にもかかわらず、そんな彼が水納島を、そしてクロワッサンを気に入ってくださっているのだから、我々としては大いにありがたく思っている次第である。

 そして。
 全国3000万人にものぼるクロワッサンのゲストの中で(一部脚色あり)、このリーダーT沢さんほど海に浸かっているときの顔が幸せそうな人は他にいない。
 それは何も、目の前でマンタが群れているとか、イソマグロの大群が泳いでいるとか、そういう状況下での話ではない。ただ単に、桟橋脇に停めてあるミスクロワッサンからドボンと飛び込み、ウェットスーツを着ようとするときのお顔だ。
 トトロのようなお姿のそんなに幸せそうな顔を見たらあなた……。
 もう、とことん好きなように潜り倒してくださいッ!!って気になるもの、我々は。

 そんなリーダーT沢さんにダイビングの世界に誘われたのが、隊長H田さんである。
 若かりし頃…というか入社時に会社の同僚として出会った彼らは、いつしか意気投合し(そりゃ、あれだけ飲む人は他にいないだろうから、誰もついていけなかったに違いない)、酒の海だけじゃなく本当の海でも遊ぶようになった。
 ときには、まだ経験本数30本程度だったにもかかわらず、
 「大丈夫だって!!」
 とリーダーT沢さんに説得され、100本以上のダイバー限定というパラオのショップを利用したという荒業もあったらしい。

 それでもやはり、週末ごとに伊豆に通うリーダーT沢さんとは違い、彼のダイビングはマイペースで積み重ねられていった。
 そのマイペースは、ダイビング旅行の滞在先でも変わらない。
 当初こそ、リーダーとの二人旅行だったので、バディがいなきゃ悪いからという遠慮があったものの、やがて構成員が3名となり、彼の使命は解き放たれた。
 解き放たれた彼の必殺武器となったのが、

 「パスッ!!」

 である。
 何それって??
 ある晩のこと。いつものようにゆんたくタイムでたらふく飲んでいるときだった。もちろん明日もダイビングの予定である。
 気持ちよく飲んですでに酩酊状態に移ろうとしていた隊長は、唐突に挙手をした。

 「ハイッハ〜イッ!!」

 唖然としつつも、挙手をしているので僕たちは指名してあげる、「はい、隊長?」と。その後に出た言葉こそが、伝説の、そして今では実用新案申請中の名言である。

 「明日パスッ!!」

 最初に聞いたときはなんのことやらまったくわからなかった。
 が、すぐさまそれが、明日のダイビングの一本目をパスするということであることが判明した。
 彼にとっては、明日のダイビングよりも今日この日今宵の酒のほうが大事なのである。

 以来、隊長にはパスがつきものとなった。
 7並べではないけれど、隊長、パスは3回までですからね!!などとからかいつつ、なんとか2回や3回でパスが終わっていた。
 ところが今年(2006年)のゴールデンウィークのこと……。

 ご到着は夕刻だったので、ダイビングなしでその夜のゆんたくタイムとなった。
 隊長、久しぶりの島でのお酒にゴキゲンである。
 そしてしばらく飲むうちに飛び出した。

 「ハイッ!!」

 ハイ、隊長?

 「明日パスッ!!」

 へ?パスも何も、まだ着いたばっかりですぜ隊長、それにまだ飲み始めたばかりじゃないですか。
 そう、いつもは酩酊状態になってから飛び出すパス発言なのに、このときはまだ宵の口も宵の口、飲み始めたばかりだったのだ。

 「だって楽しいんだもん。今日は飲むよ、俺!!」

 ついに到着日早々の翌日パスまで飛び出してしまった。ゴールデンウィークの真っ只中に。
 おそらく他の繁忙サービスでは直ちに外にたたき出されてしまうのだろう。でも我々は、どういうわけかこの隊長には、気持ちよく潜ってもらうよりも気持ちよく飲んでもらうことに力を注ぐという傾向にあるのだった。
 ちなみにこの翌日は、1本目だけパスするつもりだったのに2本目もパスを余儀なくされ、3本目こそしっかり出動するぞ!と気合を入れていたら珍しくリーダーT沢さんたちが2本でやめてしまったため、隊長はウェットスーツで海水浴をするにとどまってしまったのだった…。

 さて、最後に控えしはブク嬢である。
 ブク嬢、フルネームはブクブクやなちゃんという。
 彼女もまた、リーダーT沢さんにダイビングの世界へと誘われた一人だ。
 それもつい最近。
 ところが、ダイビングへのはまり方が隊長とは違った。
 経験年数では圧倒的に隊長のほうが長いにもかかわらず、リーダーT沢さんに連れられながらあっという間に経験本数を積み重ね、異常な速さで300本ダイバーに。週末には伊豆に行き、モルディブのクルーズやパラオでも揉まれ、ものすごい勢いでベテランダイバーと化していった。

 そんな彼女も、まだ経験本数が少なかった頃は、その華奢な体格に似合わずエアーの減りが早かった。
 ベテランダイバーのリーダーT沢さんも首をひねる。僕たちも?マーク。そのとき、ガイドを担当していた違いのわかる男が、その理由をついに発見した。

 泡がブクブク出てる!!

 そうなのである。
 海中で呼吸をする際、慣れている人は普通は呼吸をすべて口で行う。
 ところが慣れていないと、常時鼻から息を吐き出してしまうのだ。
 それがブク嬢の場合、息を吸っているときも吐いているときも、絶えずおでこから泡がまるでエアレーションのようにブクブクブクブクブクブクブクブクブクブク……………………と出ていたのである。
 そりゃエアーがもたないわけだ。
 違いのわかる男に指摘され、意識して口だけで呼吸をするようにした結果、彼女のエアーのもちは格段に長くなっていったのだった。

 そして彼女は、先にも触れたとおりの大酒飲みである。
 焼酎ともなれば、氷はいらぬという。ストレートで、小さいとはいえないグラスにナミナミナミと注ぎ、それを美味そうに空けてしまう。
 隊長が前夜の飲みすぎを反省して酒量を控えて過ごすと、宿に帰ってからローキックを浴びせまくり、「わたしはマサエさんのガイドのファン!!」という話になったら必ず僕のマニアックなガイドに批判の雨あられを浴びせ倒す(リーダーT沢さん向けであるということは自覚しているので、彼女の抗議はもっともなのだが…)。
 ま、早い話が、押しも押されもしない、それでいて度は越さない(?)酒乱である。

 一人ずつでもそれぞれとんでもない人たちなのに、それが3人揃ったらどういうことになるか、容易にご想像いただけよう。
 今年のお盆に居合わせた海中漫談家古菅さんなんて、序盤にごっくん隊の洗礼に遭ってしまったものだから、その後すっかり調子が狂ってしまい、ついに一度は朝の修行をパスされたくらいである。
 「ダメだ、楽しいからついつい飲んでしまう……」
 古菅さんは力なくそう語った。誰もが味わう試練なのだ。
 彼らが島に来るたびに、我々はその試練とともに生きているのである………。

 そんなごっくん隊が晴れてこのたびご入籍。

 エエッ!!ついに隊長とリーダーが!?

 そう驚かれた方も少なからずいたかもしれないが、いくらなんでもそこまでの仲ではない。
 リーダーT沢さんとブク嬢である。
 その結婚式を、11月に催すというお話を伺ったのがゴールデンウィークのこと。是非クロワッサンの皆々様にもご出席を……とおっしゃってくださった。
 とはいえそのときはシーズン初頭のGW。結婚式はオフに入って早々の11月。行きたいのはやまやまなれど、この先のシーズンまだまだ何がどうなるかわからないから、即答できる状態ではなかった。台風で吹き飛んでしまってるかもしれないしね……。

 そんなごっくん隊が、重ねてお盆にも来てくれることに。
 当然話題は11月の結婚式である。
 2回も足をお運びいただいて出席を熱望していただくなんて、単なるダイビングサービスとしては冥利に尽きる以上のありがたさだ。まるで三顧の礼で迎えられた諸葛孔明のようではないか。
 もうかくなるうえは、この先台風で店が吹き飛ぼうとも、売り上げが伸びずに旅行どころではなくなろうとも、ともかく結婚式にだけは出席させていただこう!ということで、スタッフ会議全会一致で決定したのであった(3人だけだけど)。

 こうして我々の、今オフ初頭の旅行が企画されたのだった。