水納島の魚たち

アブラヤッコ

全長 10cm

 アカハラヤッコナメラヤッコソメワケヤッコといった小型のキンチャクダイは、アブラヤッコ属というグループに含まれる。

 小型ヤッコとも呼ばれるグループで、ほぼほぼ例外なく、近寄るとチョコマカと岩陰に逃げ隠れする。

 とりわけこのアブラヤッコときたらかなりの照れ屋さんで、ゆったり餌を啄んでいるのに、ちょっと目線を向けただけで岩陰に隠れてしまう。

 すっかりオトナになると少しは付き合いやすくなってくれるものの、それでも警戒心の強さは相変わらずだ。 

 ところが、亀の甲より年の劫なのだろうか、老成してくるとだんだんモノに動じなくなるのか、成熟しきった個体(老成魚?)には、お近づきになれることが多い。

 上の写真の子のように体側に黄色味がにじむように入ってくるのは、老成ゆえの色味なのだろうか。

 この老成(?)黄染みヤッコはけっこう長い間同じところで出会っていたのだけれど、いつしか姿を観なくなった。

 その後同じ場所で姿が観られるようになったのが冒頭の写真の子で、まだ黄染みは観られないもののアブラヤッコとは思えないほどフレンドリーで、レンズの前に自ら何度も何度もやって来る。

 このフレンドリーさは、年齢的な何かが醸し出すものではなく、この場所に住まうアブラヤッコに代々受け継がれている伝統なのだろうか……。

 オトナになるとそんなフレンドリーさも見せてくれるモノがいるとはいえ、幼魚の頃は警戒心は相当強い。

 「おっ!」と思った頃にはもう逃げているくらいの超絶シャイマシーンなのだ。

 初夏には小さな小さなアブラヤッコがそこかしこに出現してくるというのに、気づいたら逃げているからなかなか記録には残せない。

 そんななか、海の中で出会える最小級であろうサイズはこれくらい。

 もう少し成長するとクッキリ出てくる腹ビレや尻ビレの黄色すらまだうすらぼんやりしている超チビだ。

 真っ黒すぎてわかりづらいけど、その顔はアカハラヤッコなどと同じく、とってもプリティ。

 チビターレの頃は、こうして見ると白と黒しかない。

 老成すると体側すら黄色く染みてくるアブラヤッコにとって、黄色は加齢の証なのかもしれない。

 追記(2020年11月)

 アブラヤッコは、英名ではキーホールエンジェルフィッシュと呼ばれる。

 体側の白い模様が、シャーロック・ホームズの時代の鍵穴に似ていることに由来しているらしい。

 ところでこの鍵穴、チビターレの頃はキーホールというよりも白線に近い形をしている。

 それが成長するにつれ形状変化していくようで、白い模様部分に注目してみると、個体ごとにけっこう違いがある。

 この2匹のキーホール部分はやたらとでっかく、これが鍵穴だとすればピッキングの技術などまったくなくとも忍び込めること間違いなしってところだろう。

 彼らとは逆に、やたらと鍵穴が小さいものもいる。

 左右で模様の大小に極端な差はないようで、↑この子の右側はこんな感じ。

 やっぱり小さい。

 この小さな鍵穴君と一緒にいた子はさらに小さなキーホールだった。

 これだとキーホールというよりはピンホールに近いかも…。

 キーホール模様の大小と雌雄は関係ないようで、産卵シーンを見事に捉えたネット上の写真を拝見する限りでは、模様が小さなオスでもちゃんとメスに卵を産ませているようだから、オスの優劣ともかんけいないらしい。

 いずれにせよこのキーホール模様で個体識別できそうだから、同一個体の行動を追い続ける方にとっては便利かもしれない。

 そんなヒトはそうそういないだろうけど……。