水納島の魚たち

アヤメエビス

全長 18cm

 昨シーズン(2019年)は、その前のオフの間に夜の帝王たちに注目していたこともあって、それまでは

 「はい、夜の帝王たちね…」

 で済ませていた魚たちに注目する機会が増えた。

 なので、とある岩場のポイントの、夜の帝王たちが蠢いている岩陰を覗いてみたときに、これまで認識したことがない魚がアカマツカサたちに混じって数匹泳いでいることに気がついた。

 その姿はニジエビスに似ているけれど、昼間からフツーに表で群れているニジエビスに比べ、明らかに夜行性モードの暗闇ラブな魚に見える。

 体の模様もニジエビスに比べるとなんだかおおざっぱに見えるところをみても、こりゃきっとニジエビスではない…

 …と確信しつつ撮ったはいいけれど。

 はてさて、これは誰エビス?

 〇〇エビスと名のつく夜の帝王の種類は多いのに、ネット上で観られる写真といえば、水槽で撮られたものや水揚げ後の写真ばかり。

 なかなか海中で「生きている」様子がわからないから結論をペンディング状態にしていたところ、このたび明瞭なる識別点を知った。

 アヤメエビスには、他の〇〇エビスやイットウダイには無い模様があるのだ。

 背ビレと尻ビレそれぞれつけ根後端にご注目。

 アヤメエビスのその部分には、うっすらと黒い斑点があるのである。

 これを目印にすると、どうやらこのさほど広くもない岩陰にはアヤメエビスが3匹ほどいて、アカマツカサやヨゴレマツカサたちとともに、ウロウロウロウロ落ち着きなく動き回っていた。

 どうやらこれまで単にワタシが存在に気がついていなかっただけで、水納島にもフツーにいるエビスらしい…。

 となると。

 この年の5月に出会ったナゾのエビスは……

 よく観るニジエビスよりも2周りほど大きく、体の色が随分黄ばんでいたからこれまた正体がわからなかったのだけど、コイツもよく見ると背ビレ尻ビレのつけ根後端に、うっすらと黒い斑紋がある。

 とすると、これはアヤメエビスの老成魚ってことだろうか。

 砂地のポイントのリーフエッジの、テーブルサンゴの下程度のスペースで、ひたすらジッと夜の訪れを待っているようだった。

 いずれにせよ、岩陰であれば他は特に環境を選ばないようだから、実はこれまでもしょっちゅう出会っていた可能性が高い。

 アヤメエビス、今さらながらでゴメンナサイ…。