水納島の魚たち

ドクウツボ

全長 150cm(最大で3mになるという)

 英名ではジャイアントモレイと言われるだけあって、老成すると3mにも達するというドクウツボ。

 でも水納島ではそこまで老成した巨大サイズを目にすることはない(記憶にない)。

 ゴマウツボとは違って砂地の根にいることは少なく、リーフ際やインリーフ、もしくは岩場のポイントで目にすることのほうが多い。

 いずれにしても水納島で出会うサイズはせいぜいゴマウツボくらいなので、それほど圧力を感じることはないけれど、3mもの巨大なドクウツボがいたとしたら、そこに近づく勇気はワタシにはない(ゲストに先に行ってもらう)。

 サイズがゴマウツボくらいだと、パッと見はゴマウツボに似ているけれど、上の写真のような比較的若い子が鰓穴あたりまで身を乗り出していれば、体の模様でドクウツボだとわかる(鰓穴の黒斑をドクウツボの特徴に挙げられても、ゴマウツボにもやや小型の黒斑があるからややこしい)。

 ではもう少し成長していて模様が細かくなり、おまけにほぼ顔だけしか見えない↓こういう場合は?

 こんな時は目にご注目あれ。

 ゴマウツボの黒目の周りは金色に輝いている。

 それに対しドクウツボは……

 …濁っている(※個人の感想です)。

 ま、なにぶん自然界のこと、そう綺麗にピシッと線を引けるわけじゃないけれど、ほぼほぼこれで見分けて間違うことはない。

 3mとはいかずとも、大きく育っているドクウツボときたら、目は濁っているしその目つきは凶悪そうだし、歴戦の傷が顔にあったりすると、ほとんどそのスジの方にしか見えなくなる。

 ゴマウツボは大きくなると人の好さそうなおじいちゃんといった顔つきになるから、見分けるのはさらに容易だ。

 ところで、ゴマウツボに比べるとそもそも出会う機会が少ないからか、ドクウツボが他の生き物にクリーニングしてもらっているのをあまり見かけない。

 せいぜいホンソメワケベラにケアしてもらっている程度だ。

 ネット上にはドクウツボがエビたちにクリーニングしてもらっている写真も転がっているから、けっして彼らがエビ嫌いというわけではないのだろう。

 でも記憶をたどっても、水納島でドクウツボがエビ類にクリーニングしてもらっているシーンは観た覚えがない。

 ゴマウツボの頻度を思えば、これはもうドクウツボが各種エビたちの仕事場(?)がある砂地の根にいることがほとんどないから、ということなのだろう。

 途中で追記(2023年11月)

 今年(2023年)9月に、水納島にしてはかなり大きめの砂底の根で、人生最大級といっていい大きなドクウツボに遭遇した。

 ただジッとしているだけかと思いきや、ホンソメワケベラの幼魚にクリーニングされていた。

 信頼関係にある両者のこと、もちろんのこと間違ってもウツボがホンソメヤングをパクッとすることはない…

 …ということはわかっていても、こんな巨大ウツボの口の中に平然と入っていくホンソメワケベラのあまりの無防備さがスゴイ。

 でもケアしてもらっているドクウツボの様子を見るかぎりでは、まだ幼魚だからかホンソメの施術は未熟なようで、あと少しでドクウツボの堪忍袋の緒が切れてしまいそうにも見えるのだった。

 ドクウツボ、怒ったらうっかりホンソメを喰っちゃうのかな?

 途中追記終わり

 ところで、ドクウツボの「毒」とはそもそもなんの毒なのかというと、実はドクウツボはシガテラ毒キャリアーなのだ。

 場合によっては死に至ることもあり、そうでなくとも完治に至るまでは長い月日を要するといわれるシガテラ中毒は、けっして侮るわけにはいかない。

 ところが台湾や沖縄では昔から、そんな毒の危険性などものともせず、このドクウツボを食用にしている。

 シガテラ毒は食物連鎖の末に後天的に蓄積されるものだから、同じ種類では大型のものほど危険性は高くなる。

 なので、けっしてものともしないわけではなく、大型のモノを避けるようにしているのだろう。

 シガテラ毒は他の様々な魚からも報告されているけれど、同じ種類でも食性が異なるなどの理由で、海域によって危険性が無いということもある。

 だからシガテラ毒が報告されている種類だからといって、一概にすべてのモノがアウトというわけではなく、その地域地域で受け継がれている注意事項というものがちゃんとある。

 そうはいっても、シガテラ毒の代表格的シガトキシンは熱によって性質が失われることがないので、煮ても焼いても「もしも」は起こりうる。

 後悔先に立たずということにならないようにするためには、君子危うきに近寄らず、でいるに越したことはない。

 となると、同様に食用とされている無毒のゴマウツボとドクウツボを見分けられなければ、勘違いしてしまう場合があるかも。

 魚の見分け方は、場合によっては命にかかわるかもしれないのである。

 < だったらウツボなんてそもそも食べなきゃいいんじゃ??

 なにをおっしゃるウサギさん、土佐の高知でウツボのたたきをご賞味あれ、どんだけ美味しいことか……あ、ヨダレガが。

 ちなみに土佐で食べているのは「ウツボ」という種類だから、まったく危険性はありません(地球温暖化で、将来ドクウツボがやたらと水揚げされるようにならないかぎり……)。