水納島の魚たち

ゴイシサンカクハゼ

全長 10cm

 これまでたびたび「通行人A」に例えてきたサンカクハゼの仲間たちにも、ツマグロサンカクハゼハタタテサンカクハゼのように、そのフォルムや色柄、そしてヒレの動かし方などが印象深い種類もいる。

 このゴイシサンカクハゼも、サンカクハゼの仲間の中では相当な印象派だ。

 砂地の根の暗がりにポッと開けた砂底ではたいてい単独でいるゴイシサンカクハゼは、写真を見るだけだと、どちらかというと「通行人A」的色形。

 いったいどこが印象派なの?と不思議に思われるのも無理はない。

 けれど、時代劇で江戸の町(という名の太秦スタジオ)を歩く通行人Aが、ジャイアント馬場だったらどうだろう。

 そう、ゴイシサンカクハゼはデカい。

 とにかくデカい。

 もちろん他の大きな魚たちに比べると、せいぜい10cmちょいほどの体はとりたてて騒ぐほど大きいわけではない。

 しかしゴイシサンカクハゼが暮らすような環境でチョロチョロしている他のハゼたちに比べればずば抜けてでっかいから、不意に暗がりから登場するとかなりインパクトがあるのだ。

 背ビレが長くなくても、色柄が際立って美しくなくても、動きが特徴的ではなくても、このデカさのインパクトで存在感を出しまくるゴイシサンカクハゼ。

 ただし今は亡き馬場正平にも小学生時代があったように、ゴイシサンカクハゼにだって小さい頃はある。

 すでに5cmくらいになっている若魚とはいえ、このサイズでゴイシサンカクハゼだと見栄を切ったところで、フツーの通行人A扱いになってしまうことだろう。

 追記(2021年6月)

 すぐ上でゴイシサンカクハゼの若魚を紹介しているというのにこれまで勘違いしていたことが、このたびひとつ判明してしまった。

 2020年の年末に、「カペラサンカクハゼ発見!」と勝手に一人で盛り上がり、このハゼの仲間にもさっそく1種加えていた。

 ところが今年(2021年)2月に刊行された、「日本のハゼ」新訂増補版をよぉ〜く読んでみると、カペラサンカクハゼの特徴として、背ビレのお星さま印のほか、もうひとつ、尾ビレ付け根に短い黒色横線があるから他種との見分けは容易、と記されている。

 それを踏まえつつ、カペラサンカクハゼで間違いなしと信じていた手持ちの写真をあらためて見てみると……

 背ビレにお星さま印はあるものの、尾ビレ付け根の短い黒線が見当たらない。

 あれ?どーゆーこと??

 不安に駆られつつ、本稿のゴイシサンカクハゼの若魚の写真を見てみたら……

 ありゃ、背ビレにお星さま印あるじゃん、ゴイシサンカクハゼの若魚。

 図鑑に掲載されているゴイシサンカクハゼの若魚を見ても、やはりお星さま印がある。

 ってことはつまり……「カペラだ!」と騒いでいたサンカクハゼは、ゴイシサンカクハゼの若魚だったのか!

 お騒がせして申し訳ございませぬ…。

 それにしても、背ビレのお星さま印ほどではないにしろ、短いながらも明確に見える黒線というわかりやすい特徴に、なぜ目が届かなかったのだろう?

 あ。

 発見時はまだ旧版しか世に無かった「日本のハゼ」に「サンカクハゼ属の1種」として掲載されていたこのハゼのページは……

 2011年に台風に被災した際にずぶ濡れになったため、多くのページで張り付いたまま剥がれない状態になってしまっているのだけれど、この大事な大事な特徴を記してある部分もまた、まったく判読不能状態になっていたのだった…。

 新版の購入、個人的にはこれだけでも価値があったかも…。

 追記(2022年5月)

 サンカクハゼにも引き続き目を配っていたところ、春先(2022年)に見慣れないサンカクハゼと遭遇した。

 今度こそ正真正銘のカペラサンカクハゼか?

 と色めき立ちつつも、初見時はチラ見だけで姿が暗闇に消えてしまった。

 後日同じ場所を再訪したところ、今度は気安げに全身をさらしてくれていた。

 3pほどの若魚っぽい子で、観た感じハタタテサンカクハゼの若者のように見えるけれど、ハタタテサンカクハゼも3cmほどとなるとさすがに背ビレがピヨンと伸びているはず。

 ではいったい誰?

 …と、いろいろ探ってみた結果、たどり着いた結論は「ゴイシサンカクハゼのヤング」。

 特徴的な背ビレの斑紋やオトナとは似ても似つかない背ビレ全体の形を除くと、ゴイシサンカクハゼとそっくりなんだけどなぁ…といまひとつ決めてに欠いていたところ、ハタと気がついた。

 そういえば、ゴイシサンカクハゼの3cmほどの姿って、これまで観たことないじゃん。

 ↑これがもう少し成長すると、↓こうなるのだろう。

 成長とともに、背ビレの形が三角形から四角に変わっていくようだ。

 となると、このひと月ほど前に別の場所で撮った、2cmほどの↓これも…

 ゴイシサンカクハゼのチビってことか。

 えらいこっちゃ、ハタタテサンカクハゼのチビターレってことで追記してしまっていた…(追記は慌てて削除しました)。

 普段よく会っているつもりでいて、幼い頃の姿は全然知らなかったゴイシサンカクハゼ。

 ごく少数の画像がネット上にも観られるものの、多くの方が別の魚だと勘違いしているようだ。

 みなさん、騙されてはいけません、これはゴイシサンカクハゼのチビです。

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