写真・文/植田正恵

123.ハスノハギリと植林
月刊アクアネット2013年8月号

 

 昨年、超巨大台風3連発が水納島を席巻した。
 観測史上最大級規模の台風が、ほぼひと月の間に
3個も直撃したのだ。本来であれば1つでさえ10年に一度あるかないかというストロング台風なのに、それがたて続けに3つも。

 3個目の台風が過ぎ、暴風が少し収まってから、島の被害状況を見ようと少し歩き回ってみて驚いた。防風林が軒並み葉を落としたり枝が折れたり、ひどいものでは根こそぎ倒れていたのだ。

 そんな風景は過去に何度か見ているとはいえ、本来台風に強いはずの海岸植物であるアダンやリュウゼツランまでもが被害に遭って島全体から緑色がまったくなくなり、茶色の世界になってしまったといっても過言ではない状況だった。

 そうなると被害は植物だけではない。防風林や海岸植物が軒並みやられてしまったため、海岸の砂が大量に島の集落の中心にまで飛んできて積もり、同じように飛んできた海水由来の塩とで、集落中が靄がかかったようにくすんで見えたほどだ。

 そんな防風林壊滅が原因となる被害報告を受け、海岸防災林造成事業が水納島を舞台に計画された。
 そしてその年の冬に、県の北部農林水産振興センターおよび県から住民に対する説明会があった。どうせまた成長が早いからとか何とか理由をつけて、沖縄には本来分布していない植物を植えるって言うんじゃなかろうか…

 ……と危惧していたところ、さすが時代はエコ。行政もそういったあたりへの配慮が行き届くようになっているようで、沖縄の海岸地帯に自生している在来樹種を使用するという話だった。
 具体的にはテリハボクやオオハマボウなどのほか、事前の調査で水納島にも自生していることが判明していたハスノハギリも候補に入っていた。

 ハスノハギリは、沖縄の海岸林では比較的普通に見られる植物で、石垣島ではアンガマのお面の原料になっている。最近ではお面を作れるほどに大きな木が少なくなってきたから、石垣島では将来を見据え、このハスノハギリが植林されているそうだ。気の長い話ではあるけれど、なんとも素晴らしいことだと思う。

 水納島では、集落からビーチに降りる石畳道の傍らで、ハスノハギリを見ることができる。
 八重山のようにそれでお面を作る伝統はないものの、あるおばあによると、満足に物がなかった時代、お祝いなどで人が集まるときには、このハスノハギリの葉を皿代わりに使っていたらしい。
 葉は厚くて大きく、表面はつるつるしていて形がハート型に近い。それに食べ物が載っていたら、今風の発砲スチロールや紙製の使い捨ての皿を使うより、ずっとエコだし風情があるし料理も引き立つことだろう。
 また昔の沖縄の各地では、ハスノハギリの実が熟すると発達する袋状のものに、蛍を入れて楽しんだらしい。

 ことほどさように、本来自生している植物たちには、多かれ少なかれ昔からそこに住む人々との縁がある。
 なので、自生している植物を利用しての防風林整備というのは、住民の一人としては大賛成だ。ただ、説明会にて非常に気になった疑問がひとつ。

 整備される防風林、完成形は何年後を想定されているのでしょうか??

 「30年後です!」

 元気に応える担当スタッフ。
 こちらもまた、気の長い整備事業であるようだ……。
 (
5年くらいで今程度の防風防潮能力を有するようにはなるそうです)