写真・文/植田正恵

166.大発生

月刊アクアネット2017年3月号

 毎年3月になると、島でシーベーと呼ばれている虫が大発生する、という話は以前紹介した。

 また梅雨時の蒸し暑い日には、翅を付けたシロアリのオスたちが宵の口に繁殖のため巣から飛び立ち、新天地を求めて大飛翔する。
 シロアリにそういう習性があるのは知ってはいたけれど、初めて目にした時は想像以上の凄まじさに驚いたものだった。

 そのような毎年恒例行事(?)とは異なり、たまたまその頃だけ観られた大発生もある。

 水納島に越してきてしばらくの数年、夏になるとトノサマバッタがやたらと多くなり、道を歩けば沿道の草むらから、まるで激戦地の流れ弾のようにバッタが眼前を飛び交っていた。
 いわゆる蝗害になるほどの密度ではないけれど、香川照之に勝るとも劣らぬ昆虫少女だった私が「尋常ではない…」と思ったほどだから、虫嫌いの方にとっては、島中どこを歩いても拷問地帯だったことだろう。

 それがこの島では普通のことなのかとばかり思いきや、大発生は最初の数年間くらいのもので、不思議なことにその後現在に至るまで20年近く、トノサマバッタの大発生はまったく起こっていない。

 海における大発生といえば、赤潮を発生させるプランクトンとか、サンゴを食べまくるオニヒトデやシロレイガイダマシのように、いわゆる「害」になるものを思い浮かべる方が多いかもしれない。

 けれどなかには歓迎すべき大発生もある。
 島でティラジャーと呼ばれているマガキガイが、通常ではありえない密度で大発生したことがあったのだ。

 ティラジャーはひとつひとつは小さな貝だけど、塩茹でした身は和風洋風なんでもござれのかなり上品な味で、パック詰めされた数百グラムくらいのものがスーパーではバカにならない価格で売られている。
 そんな貝が大発生となれば、男も女も老いも若きも、島の皆さんはこぞって海を歩く。

 サザエが異常増殖したこともある。
 大潮の干潮時ならリーフの上を歩きながら採れる貝だから、これまた島民は我れ先にと海に繰り出し採っても採っても、採りきれないほどの大漁が続いた。
 おじぃおばぁも目を輝かせながら大潮ごとに海に繰り出した挙句、連日大量過ぎる獲物を抱えていたせいで、腰を痛めて病院の世話になるおばぁもいたほどだ。

 日本全国に目を向けてみると、そのようなヒトの暮らしにとって有益な大発生はさほど多くはなく、ヤスデ、ガ、カメムシといった昆虫や、ボラやヒトデ、エチゼンクラゲといった海の生き物などなど、害をもたらす様々な生き物が大発生しているようだ。

 それら異常な大発生は、自然界のバランスが崩れたことに原因があるのだろうけれど、漁獲、駆除など人の手が加わる場合も含め、最終的にはやがて終息する。
 大発生もまた自然界のバランスを崩しているわけだから、おのずと元に戻るようになっているに違いない。

 地球史的に見れば、イエス・キリストが誕生した頃には2億人程度だった世界人口が、たった2千年余で70億人になっているという事実もやはり、生物学的に異常な「大発生」といえるのかもしれない。

 大発生により崩れたバランスはやがて元に戻るのが自然の摂理だとすると、この先我々人類に待っているのははたして……??