写真・文/植田正恵 |
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172.閑さや…? 月刊アクアネット2017年9月号 |
今年の夏は地域による気候の差が激しかったようで、これが毎年のことになると、夏といって思い浮かべる季語的なものも随分様変わりするのかもしれない。
おおむね気候が安定していた子供の頃、夏と聞いてすぐさま思い浮かべたのは、海、スイカ、朝顔、花火。 …とことさら力を込めずとも、昔から蝉は夏の季語だったっけ。 水納島では例年6月の下旬頃、リュウキュウクマゼミが鳴き始める。沖縄はこの時期に梅雨が明けるので、それにあわせてセミがほぼ一斉に羽化するのだ。
それから始まるシャアシャアシャア…というセミの大合唱は、雨の時期の終わりを告げるうれしい声である。
なにしろリュウキュウクマゼミが軽く百匹以上止まっている木の下でその大合唱を聴けば、かつて「しずけさや…」などとセミの声を描写した芭蕉など、きっと頭がおかしいに違いないとさえ思えるほど。
セミの数が圧倒的過ぎると、声以外にも困った事態が起こる場合もある。
なんと、セミが犯人だというのである。 人間の暮らしにセミが物理的な害をもたらすことになろうとは、岩にしみいる…と詠った芭蕉も夢にも思わなかったことだろう
そんなリュウキュウクマゼミの季節が終盤に差しかかる8月下旬になると、クロイワツクツクがジーワジーワと鳴き始める。
ところで、名作映画「男はつらいよ」シリーズ第25作「寅次郎ハイビスカスの花」の舞台は、ほかでもない沖縄県は本部半島で、もちろん現地でロケも行われている。 ちょっぴりセンチな夏の夕暮れのイメージに、ヒグラシがピッタリなのはわかるけれど…… すみません、沖縄本島にヒグラシはいないんですけど、山田洋次監督。 水納島で生まれ育った子供たちであれば、将来どこか遠くで暮らすようになったとき、ふとしたときにきっとセミの声の違いに気づき、遠いふるさとを思い出すに違いない。でも、ヒグラシの声に郷愁を誘われることはないだろうなぁ…。 |