写真・文/植田正恵

208回.耕作放棄地の利用法
月刊アクアネット2020年9月号

 水納島を訪れる海水浴客のなかには、島内を散策される方々もいる。

 そしてときおり、草むらをバックにして笑顔で写真を撮っていることがある。

 そこに生えているのは、島内では牛草と通称されているネピアグラスだ。背丈は軽く3mを越えるイネ科の植物で、写真を撮っている観光客は、その姿形からどうやらサトウキビと勘違いしているらしい。  

 サトウキビもそれなりに放置プレイでスクスク育つ植物だけど、この牛草はそれどころではない雑草魂の塊のような植物で、刈り取って倒した茎をそのまま放置しておくと、節から根を出して再び成長するほど逞しい。

 条件が良ければ1日に20cmども成長し、成長しきると茎がめっぽう固くなり、草刈り機を使っていてさえ刈り払うには骨が折れる。

 島に越してきた当初の我が家の周りはそんな強力な牛草だらけで、格闘すること数年、ようやく牛草の繁茂を鎮静化させることができた。

 そしてその戦いの果てに、この草の対処法を学んだ。

 すなわち普段からこまめに草むしりをして、牛草がたとえ他所から入り込んできても、育たぬ前の小さなうちに除去する。

 とにかく絶えず人の手が入っていることが重要だ。

 牛草は島に自生していた植物ではなく、島内で牛を飼い始めた頃、飼料を島内で賄えるようにと導入されたものらしい。

 島内で酪農が盛んだった頃は牛草の旺盛な繁殖力が都合よかったのだろうけれど、現在の水納島には牛は1頭もおらず、需要が無くなった牛草がワサワサと生い茂っている。

 誰も立ち入らない藪の中ならともかく、道路脇で茂っている牛草たちは、放っておけばあっという間に道が草で埋もれてしまう。  

 私が島に引っ越してきたころは、おじいやおばあたちがまだ現役で畑仕事をやっていたから、畑の周囲や主だった道沿いは常に人の手が入っており、牛草の繁茂もある程度抑え込まれていた。

 ところが高齢過疎化が加速度的に進む今では畑が次々に耕作放棄地になっている。

 冬枯れの無い亜熱帯のこと、ほんの2〜3年前まできれいに耕されていた畑がいったん放棄されると、あっという間に牛草やギンネムなど厄介な草木が繁茂する藪になる。

 かつて体得した牛草対処法からすれば、そうなる前に手を打っておかなければならないところなのだけど、小中学校すら休校になる島のこと、今さら農業人口が増えるはずもなく、沿道の草刈り整備までが精一杯。

 増えていく一方の耕作放棄地は、おいそれと手をつけられないほどの藪になってしまっている。

 現在私が借りている畑はもともと70代のおばぁが趣味で畑をしていたところで、年々手が回らなくなってきて、この先数年で耕作放棄地になってしまうことが歴然としていた。

 手が回らないために藪になってしまうくらいなら、畑として利用してもらった方がいいということでおばぁと話がまとまり、百坪ほどを貸してもらうことになった。

 そのときすでに牛草が数株入り込んでいて、あと1年ほったらかしにしたら、重機でも使わない限り二度と畑として日の目を観ることはなかっただろう。

 その後頑張った甲斐あって今では50坪ほどが「畑」になって、島中に配っても消費しきれないほどの野菜たちを生み出し続けている。

 私と同じ趣味のヒトがあと10人ほどいれば、畑の数もそれなりに増えるに違いない。

 しかしほとんど趣味の域を超えている作業を「趣味」にするヒトはそうそういないし、そもそも60代を含めてさえ現役世代が10人もいない島では、望むべくもない夢物語なのだった。