写真・文/植田正恵

28.みんな動植物学者
月刊アクアネット2005年9月号

 最近私はとんぼ玉というガラス細工を作るのに夢中になっている。溶けたガラスを一人静かに見ながら作っていくのは、なかなか心落ち着くものだ。
 ある程度作品と呼べるようなものが出来てくると、人にも見せて批評してもらわなければ、という気になってくる。そこで、まずはそういったものと縁遠そうで、しかも何かにつけ遠慮なく批評してくれる船員さんに白羽の矢を立ててみた。一応自信作の、花のモチーフが入った物を見せ、何に見えますか?と聞いてみたのだ。
 すると、いつもはポンポンと言葉を返してくるはずの船員さんが、とんぼ玉を見つめたまましばし黙っている。
 もしかして花に見えないのか…?
 ちょっとがっかりしていると、ようやく一言
 「さしぐさか?」
 という返事が。さしぐさとはタチアワユキセンダングサという白い花をつける雑草のことで、つまり船員さんは花に見えるかどうかではなく、何の花かで悩んでいたのだった。
 この一言で私はホッとするとともに、水納島の人は動植物に詳しいことを改めて認識した。

 たとえば、畑や花壇に生える雑草についても、「雑草」とひとからげにするのではなく、それぞれ種類を判別している。もちろん名前は方言なのだけれど、それぞれの生える季節や性質などをよ〜く知っている。
 庭仕事をしている際に散歩がてら集まってくるおばあやおじいたちと話をしているとき、あのコウブシはとってもとってもたくさん生えてきて、根絶やしにすることができない、などと誰かが言いだせば、あれは芋(球根状のもの)が地中深くまであるから上だけ抜いても無理だ、と言う。芝生に生える黄色い花の咲く草はこの季節にだけ出てくる、と誰かが言うと、種ができる前にドライバーを刺して引っこ抜くといいよ、と返す人がいる。

 また、作物や花の品種にも詳しいし、こだわる。我が家の庭に植えたバナナが豊作だったとき、島中に配ったことがあるのだが、するとあちこちから「なんというバナナなのか?」という質問が相次いだ。いわゆる島バナナよりも大きくて、台湾バナナより味がいいというのである。当時の私にとって、それはバナナ以上でも以下でもなかったので、答えに困ってしまった。
 畑のプチトマトも好評で、なんという種類なのか、肥料は何をやっているのかという質問責めによくあったものだ。ブーゲンビリアを庭先に植えたときも、この色はどこどこの家のとおんなじだ、一年に何回咲く、花をたくさん咲かせるには剪定をまめにしたほうがいい、などなどいろいろな人がウンチクを語っていった。
 もちろん動物にも詳しくて、畑のトマトが何者かに食い散らかされていたと言えば、それはスーサーという鳥で、秋にやってきて、今年は多いはずよと教えてくれる。今年はティラジャー(マガキガイという食用の巻貝)が多いねえというと、カモメ岩のあたりは粒が大きい、いつ頃食べるのが美味しい、うまく殻から身を出すには…などなど枚挙に暇がない。

 これはつまり、生活に必要な知識であるとともに、趣味としても興味の対象なのである。世の中の人がみんなそうなるといいとは言わないけれど、水納島の場合は、少なくともそれが生活に潤いをもたらしているのはたしかだろう。