写真・文/植田正恵

85.塩害対策あれこれ
月刊アクアネット2010年6月号

 日に日に日差しが強くなり、今年もまた海の季節がやってきた。

 海水浴、ダイビング、スノーケリング、マリンジェットなどを楽しむ大勢の観光客が島を訪れるようになる。それもこれもきれいな海あってのモノダネなわけだが、そこに住んでいる島民は、実は日々海水と戦っていたりする。

 ダイビングを本業にしている我々が、一日の仕事の終わりにまずやらねばならないのは、使った器材を真水で洗うことだ。
 これをやらないと、塩がみしてボタンが動かなくなったり、金属部分が錆びるなどして、それらの器材に頼らなければならない海中で生命に関わる危険な状態になる。

 もちろんその器材を運んだ車も洗わなければならない。
 夏ともなれば毎日、軽トラックの荷台部分はいうに及ばず、海水まみれの体が触れた部分を真水で流す。
 本島に置いてあるマイカーはかれこれ数台目だけれど、15年間まったく洗車をしたことがないというのに。

 島へ運んでくる軽トラックは、錆びるのを見越して特別に足回りに防錆塗装をしてもらい、荷台部分は亜鉛やFRPで補強をしておくのだが、そこまでしていても、軽トラックは保って4年。
 たいていどこかが錆びて、使い物にならなくなってしまう。

 洗い流さなければならないのは車だけではなく、時には家さえも真水で洗い流す。
 その光景を初めて見たときは、みんななんてきれい好きなんだろう、と思ったものだけれど、それにはちゃんと理由があった。

 台風の強い風で海水やら砂やらが海辺から集落の中心まで飛んでくるので、それを真水で流しているのだ。
 それを怠ると、潮潮のパァになってしまった見栄えもさることながら、アルミのサッシがあっという間に腐食してしまうのである。

 海辺でもないのに海水の害に遭うのは、車や家に限らない。
 風だけ強くて雨があまり降らない台風が過ぎ去ったあとは、塩分に弱い樹木の葉がすべて枯れ落ちてしまうし、芝生ですら枯れて冴えない色になってしまうこともある。

 そんな海水との戦いにもすっかり慣れ、今では日常のひとつという感覚になってきた。
 それに、この海のおかげで観光客が来てくれるわけだし、海水をにがりとして作った豆腐は美味しいし。

 一説には、土壌のミネラル補給のためにわざと海水を撒くとよい、ということもあるらしいから、水納島の野菜が美味しいのは、時々台風で運ばれてくる海水の賜物なのだろう。

 ………と海水に感謝するようになったそんなおり、島内でバイクの事故が起こってしまった(乗っていた人は無事なので笑い話です。念のため)。

 ウワサは瞬く間に島内に広まり、誰もがすぐさま事故現場を訪れた。
 そこには……ありえない形にひしゃげたバイクが。

 腐食のためにヘタっていた車軸が、乗っている最中にひしゃげてしまい、転倒するしか道はなかったそうだ。
 どれほど毎日使用していても、手入れを怠ると水納島では大変なことになりますよ、とひしゃげたバイクは哀しげに物語っていた。

 まさか腐食のためにバイクが真中から折れてしまうなんて……。
 この事故で我々島民は、海水対策をいっそう念入りにしようと、改めて思ったのだった。