写真・文/植田正恵

95.こだわりの獲物入れ
月刊アクアネット2011年4月号

 

 一般的に、島なら当然ウミンチュ(漁師)さんがいると思われている。
 けれど水納島には、実は一人もウミンチュはいない。もともとが農家の島で、今はそれが観光業にとって変わっているからだ。

 そのため島のおばあは、潮干狩りはできるけれど腰のあたりまで水がきたらもうだめだったりするし、本島から水納島までの連絡船に乗っているたった15分で船酔いしてしまう人もいる。

 それに比べると男性陣は、船員さんやビーチスタッフや民宿のオーナーといった本業にかかわらず、さすがに泳げないという人はいない。むしろ趣味半分で肴を獲るため、海に行ったら3〜4時間は帰ってこない、という人がほとんどだ。

 私たちも時々海幸が食べたくなると、得物を手に海に行くことがある。最も気軽にゲットできる獲物といえば、サザエやシャコガイなどの貝だ。
 さすがに3〜4時間も泳ぎ回りはしないものの、1時間ほどリーフの上を泳げば、その日食べる分としばらくの間のストックが獲れてしまう。

 そういうときの我々は、自分たちの船を出して獲りに行く。
 ところが島の男性陣は、基本的に浜から海に入って縦横無尽に泳ぎ回る。やがて3〜4時間もすれば、その重さで帰ってこられないくらいの獲物をゲットすることになる。
 獲物の束をただ引っ張って泳ぐのは、担いで歩くのと変わらないくらいの相当の重労働なのだ。

 そんなとき大活躍するのが、写真の獲物入れ。
 これをロープで体に繋ぎ、牽引しつつモリを片手に島を半周ほど泳ぎ周る。そしてゲットした貝類やタコ、ブダイ、ハリセンボン、イセエビその他、獲物をガシガシ入れていくわけだ。

 この獲物入れはこだわりの一品らしく、各人が工夫を凝らして手作りしている。私が引っ越してきた当初は、まだ形や大きさ、素材など様々で、個性が出ていておもしろかった。

 最近では使い勝手の面で規格が統一されてきたようだ。
 みんなが使っている獲物入れば、写真のものと大体同じ形で同じくらいの大きさになっている。

 この獲物入れは、島にゴミとしてよく流れ着く防舷材もしくはフロートとして使われている大きな発砲スチロールをくり抜き、その中に網を張って容れ物にしてある。
 発泡スチロールが浮き代わりになるから、20キロくらいの漁獲量(?)だったら、浮いた状態で楽に引っ張って泳げる。
 網は底が平たくなるように張ってあるから、引いて泳いでも抵抗が大きくなることはない。また、体から離れたところに獲物入れがあるため、網に猛毒のオニダルマオコゼ(高級食用魚)を入れても毒針が体に刺さる心配もない。

 水納島には漁師さんはいないけれど、この獲物入れがモリやマスクと一緒にさりげなく玄関そばに置いてある家が多い。
 その手作り感ともあいまって、海が身近な生活なんだなあ、としみじみ思わずにはいられない。

 暇な時期でお天気がいいと、誰かしらがこの獲物入れを引っ張って海に出て行く。獲物入れが目立つので、遠くからでも誰かが出漁しているのがわかっておもしろい。

 こだわりの獲物入れが海にプカプカ浮いているのが見える……いつまでもそんな島であり続けてほしいと思うのだった。