全長 15cmほど
2014年のシーズンも最終盤となり、夏をにぎわしてくれていたアジサシたちが去って、サシバの高らかな声が聴こえ始めた秋本番、台風のために欠航していた連絡船が、ようやく復旧した10月半ばのこと。
連絡船が運航できてもまだうねりが大きすぎ、ビーチはクローズ、業者は来ず…と早くもオフシーズンの様相を呈していたおかげで、のんびりカメさんたちのエサ採りをしていた夕刻、それまで観たことがない小鳥が20~30羽集まっているところに遭遇した。
冬の野菜シーズンを前に準備が始まって草が刈り取られたばかりの畑で、食事タイムを過ごしているようだ。
写真は後日撮ったものです
普段からこういった野鳥に注意を払っているつもりでいる我々が「初めて」目にする鳥だから、少なくとも水納島では珍しいといっていい。
わかりやすい模様だからすぐに判明するだろうと高をくくり、さっそく図鑑「改訂版・沖縄の野鳥」で調べてみたところ、ページをいくらめくってもこれがまったく正体不明。
ここはひとつ、写真をアップして識者のみなさんにおたずねしてみよう…と思ったものの、あいにく当時はまだジョニーを持っておらず、ズーム能力が限りなく低いコンデジで撮った写真は、溜め水の傍らで揺らめくボウフラかと見紛うほどのショボショボ写真でしかなかった。
そこで翌朝、鳥をちゃんと撮るにはまったく及ばない装備ながら、当時使っていたコンデジよりはマシであろうレンズを装着したデジイチを抱えて現場を訪れてみた。
草が刈り払われたばかりの畑=見晴らしのいい平地にいるので、カメラなど抱えて姿をさらすと、どんなにそっと近寄ってもたちまち逃げられてしまう。
しかたなく、道を隔てた草むらの陰で市原悦子化していると、群れの中の1羽がチョンチョンチョン…と近づいてきた。
どうやら草むらのこちら側にワタシがいることなど、まったく気づいていないらしい。
おかげで証拠写真としては、ちゃんとしたモノが撮れた。
スズメよりも大きくて、イソヒヨドリよりは小さな可愛い鳥さんだ。
そのまま写真を撮りながら草むらから眺めていると、あろうことかこの子は、膝立ち姿勢でジッとしているワタシの膝先50cmくらいまで接近してくるではないか。
望遠ズームレンズの望遠側にしていたから、そんなに近寄られるとまったくピントが合わない。
ではズームを最小に……
↑眼下すぐのところ。
…という動きをしたら、さすがに存在がバレてしまい、彼女(?)は慌てて10m先まで飛んで逃げてしまった。
ともかくも正体が判明しそうな写真は確保した。あらためて、件の図鑑で調べてみよう。
が。
全然ビンゴ!にたどりつかない。
体の模様だけじゃなく、後頭部だって…
こんなにわかりやすい柄なのに、なんでビンゴ!画像が見当たらないのだ?
その時、ハタと閃いた。
もしかすると図鑑に掲載されているこの鳥の写真には、肝心の羽の模様も後頭部も写っていないのではなかろうか。
そういう目で探してみたところ…
「改訂版・沖縄の野鳥」 新星出版刊 より
ひょっとしてこれ?
野鳥図鑑といいながら、お腹側からの写真1枚だけってどういうことよ…と思いつつ、地面にいるのを上から見ていた彼らを下から観たら、こういうふうに見えるんじゃなかろうか、ということに気がついたのだ。
ここに記載されていた名前で画像検索してみたところ…
ビンゴ!
この小鳥、その名をアトリという。
本土ではムクドリの群れなみにかなり普通に観られるそうなので、野鳥好きな方ならきっとご存知に違いない。
水納島では初めてながら、図鑑によると、本島では冬季に少ないながらも比較的コンスタントに観られるらしい。
連絡船に5日連続の欠航をもたらした台風の前にはいなかったことに鑑みると、いつものように本島に渡ってくる際にとてつもない台風に遭遇し、間違って水納島に漂着してしまったグループ…なのかもしれない。
きっかけは偶然の可能性大にせよ、今後彼らは水納島を冬の生活の場にしてくれる…なんてことがあるだろうか?
…と、この時は淡い期待を抱いていたのだけど、残念ながらアトリたちはこの時にしばらく島に居てくれただけで、その後9年経ってもいまだ再会の機会は訪れていない。