水納島の野鳥たち

エリグロアジサシ

全長 35cmほど

 ベニアジサシとともに夏の水納島を代表する鳥、エリグロアジサシ。

 毎年GW頃に姿を見せる彼らは、近年こそベニアジサシとエリグロアジサシが同着って感じながら、少し前まではいつもエリグロアジサシが先着していたように思う。

 ベニアジサシと同じく、偵察隊が羽を休めるのはたいていここだ。

 航路脇の赤灯台の踊り場(?)。

 島に渡って来るタイミングはベニアジサシとほぼ同じでも、飛来してくるエリグロアジサシの個体数は、昔からベニアジサシに比べ随分少ない。

 少ないからか、アジサシたちが多数群れているときには、両者が混在していることも多い。

 両者とも生活スタイルはほぼ同じだから、普段から一緒に居ても特に困ったことにはならないのだろう。

 ただ、砂浜でベニアジサシたちをフツーに観ることができた当時でも、エリグロアジサシをそういう場所で目にした覚えがない(気がする)。

 もともとエリグロアジサシは、地上にいるときは岩場を好むのだろうか。

 となると、島を取り巻く岩場地帯にいけば、自然下の姿を観ることができるのだろうけど、仕事柄夏場になかなかそのようなところに足を踏み入れる機会がない。

 畢竟、ワタシがエリグロアジサシが止まっている様子を目にするのは、もっぱら桟橋や赤灯台など人工物になってしまうのだった。

 最も観察しやすいのは洋上からボートで近寄ることができる赤灯台だから、その年の初飛来で姿を見せた子たちを、チャンスがあれば撮っている。

 昨年(2022年)5月に撮った画像を見ていたところ、ベニアジサシと同じく足環をつけている子がいることに気がついた。

 脚の部分を拡大。

 よく見ると、右脚の銀色のほか、左脚には青色の足環がついている。

 ベニアジサシの稿で紹介したチービシでの個体識別調査はエリグロアジサシでも同様に行われており、ベニアジサシと同じく23年11ヵ月という最長寿記録を更新したそうな。

 この足環がいったいどこで付けられたものなのか詳細は不明ながら、実はチービシで生まれた子…ってことはないのかなぁ?

 アジサシが観られる人工物といえば、赤灯台、防波堤、そして桟橋と相場は決まっている。

 ところが人工物は人工物でも、なかには洋上に浮かぶボートで羽を休める勇者もいる。

 ダイビングを終えて海から上がってきたところ、やけにボートの近くで風に乗っている2羽のエリグロアジサシがいたので、ボートの後ろ側からその様子を観ていた時のこと。

 すると…

 ありゃ、舳先に舞い降りちゃった。

 勢い余ってたまたま降りたというよりも、なんだか居心地よさげにくつろいでいる様子。

 すると1羽が、巻いてあるアンカーロープのあたりの居心地を気に入ったのか、満足そうな顔になってきた。

 あのぉ、そこをおうちにされても困るんですけど…。

 それにしても、大昔にクロアジサシが船べりに舞い降りたことはあったけど、ベニであれエリグロであれ、白いアジサシがボート上で羽を休めるのは初めてのことだ。

 よほど居心地がよかったのか、このあと海から上がってきたオタマサが船べりから姿を現しても、ただちに逃げたりはしなかった2羽のアジサシたち。

 この年(2021年)は、初夏になってから始めるという正気の沙汰ではない港の浚渫工事のためにアジサシたちも神経を尖らせている…

 …かと思いきや、コロナ禍のおかげで例年に比べれば圧倒的に少ない夏の人出という島の環境に、なにげにリラックスしまくっていたのかもしれない。

 オタマサが船べりからデッキ上に移ると、さすがに警戒して2羽のエリグロは舳先から飛び立っていった。

 2羽のうち1羽はずっとジョージョー言っていたところからすると、親と若鳥の組み合わせだったのかもしれない。

 それまでにもボートのすぐそばをアジサシたちがのんびり通過していくことはあったけれど、ここまで気を許すことはなかったから、なんだかテキィと触れ合うラナになったような気分だった。

 このままコロナが世界中で頑張り続けてくれれば、やがて指の先にアジサシが舞い降りる日が来るかもしれない?

 いやホント、インバウンドでごった返すよりも、手の先にアジサシが舞い降りる世界のほうがよっぽど住み心地がよさそうだ。

 止まっているシーンの画像は人工物上が多いエリグロアジサシながら、彼らのメインイベントももちろんエサゲットシーン。

 魚たちが飛び跳ねる気配を察知するや、颯爽と現地に急行。

 やはり飛行フォルムはカッコイイ。

 そして(おそらく)キビナゴの群れ上空でホバリングしながら狙いを定め…

 急降下。

 そしてダイブ!

 完全に水中に没したあと、すぐさま浮上&離脱!

 これを群れで繰り返し続けるのだから、アジサシたちの食事タイムはいつも大フィーバーだ。

 キビナゴを水面へと追いやる魚たちは随時移動していくから、それに合わせてアジサシたちの漁場も移動していく。

 そのため最初は遠くで始まったフィーバーが、だんだんボートに近づいてくることもあって、そういう場合は間近でエサ取りシーンを観ることができる。

 昔に比べればアジサシたちが随分減った感があった10年前(2013年)でさえ、↓こんなにたくさん洋上を群れ飛んでいたアジサシたち。

 その後も少しずつ減ってきている感が否めないだけに、今年もまた島に渡ってきてくれるかと、近年は心配のほうが先に立ってしまう。

 そんな心配をしているものだから、その年初飛来の姿を赤灯台に認めると、無事地球に帰還した宇宙飛行士を迎える家族のようにホッ…とするのだった。

 さっそく追記

 夏場の活動範囲が家と桟橋の行き来+洋上となると、エリグロアジサシが人工物ではないところに止まっている姿をなかなか観ることができない、というのは本文で触れたとおり。

 でもまだ夏でものんびりしていた頃に…というか、まだ我々が水納島に越してきていない頃にオタマサが島を散策して撮っていた写真を、このほどたくさん発見した。

 そのほとんどはベニアジサシだったのだけど、なかには岩の上に止まっているエリグロアジサシの写真も。

 また、砂浜にいる姿も。

 当時はたとえハイシーズンでもこんなところ(カモメ岩方面)まで回ってくるジェットスキーなどほとんどなく、アジサシたちは小さな島で我が世の春を謳歌していたのだ。

 潮が引いているときにカモメ岩まで足を延ばし、琉球石灰岩の窪みを見てみれば…

 タマタマ~♪

 ↑これは6月10日に撮ったもので、その2週間後に再訪した際には…

 こういうところに産んである卵もあった。

 ネット上の画像でしか見たことがないけれど、エリグロアジサシのヒナは頭部の模様が卵の殻の模様とそっくりなのが面白かった。

 アジサシたちは1羽のメスが1~2個卵を産むそうで、1年で1羽ずつとなると、毎年子育ての大事な時期に台風が襲来したりしたら、たちまち減少モードになってしまうのだろう。

 ただでさえリスクが高い子育て、そこへもってきて近年はジェットスキーのオンパレードともなれば、アジサシたちが子育ての場所として水納島を選ばなくなるのも当然といえば当然。

 当時はアジサシたちが営巣していたカモメ岩も、今ではアジサシの姿を確認することすら難しくなっている。

 どうすればアジサシたちが再びのどかに島で子育てできるようになるか、それは誰にでも容易にわかることながら、それを実現するために必要とされる人々の「意識の進化」は、けっして容易ではない。