水納島の野鳥たち

ヒヨドリ

全長 27cmほど

 名前が似ているため、イソヒヨドリと近い種類と勘違いされることが多いヒヨドリ。

 名前は似ていても両者が分類学的に属するグループはかなり異なり、飛び方ひとつとっても全然違っている。

 イソヒヨドリは力強い羽ばたき方で一直線に飛んでいくけれど、ヒヨドリの飛び方は羽ばたいて上昇、下降したらまた羽ばたいて上昇…ということを繰り返すことが多いから、横から見ると波線のような軌道になるので、長い尾羽と飛んでいる様子だけでもすぐにヒヨドリとわかる。

 ヒヨドリとイソヒヨドリとでは、その暮らしぶりにもけっこう違いがある。

 集団になることがないイソヒヨドリとは違い、ヒヨドリは時に群れることもある。そしてもっぱら肉食系のイソヒヨドリに対してヒヨドリは植物食のため、畑の野菜類にとってヒヨドリの群れは、ほとんど半グレ集団といっていい。

 水納島での野菜作りシーズンといえば冬から春で、ヒヨドリが好むようなトマトや葉野菜類はまさにその期間だから、その季節にはおのずとヒヨドリたちは害鳥となる。

 ちなみに島で通年観られるものは亜種リュウキュウヒヨドリだそうで、彼らだけならその数は知れているから、鳥害を防御する手間もたかが知れている。

 ところが年によってはお隣の台湾から亜種タイワンヒヨドリが、本土からはザ・ヒヨドリがそれぞれ冬に渡ってくることがあり、そうなると島内はヒヨドリだらけになってしまう。

 夏場じゃ考えられないくらいに多数のヒヨドリたちが軍団化すると、畑の葉野菜たちはたちまちホネホネロックになる。

 これはヒヨドリによる鳥害が発生していることを知りつつ、なんの対策もせず旅行に行ってしまったためで、10日間ほど不在の間に野菜の葉は見事に骨(葉脈)だけになってしまっていた。

 早春に実り始めるトマトはヒヨドリたちの大好物で、家から畑に向かうと、畑からヒヨドリたちがワッと飛び立つことがある。

 みんなトマトを食べていたのだ。

 美味しいモノを知っているヒヨドリたちはとてもめざとく、明日あたりが採り頃かな…というくらいにようやく赤くなった実をひと足先にインターセプトする。

 トマトを盗み食いしているからといって猟銃で撃たれたりするわけではないということを知ると、ヒヨドリたちはだんだん大胆になってくる。

 やがて、ヒトが畑に近づいても、すぐには逃げ出さなくなる者もいる。

 このヒヨドリが止まっているのは、トマトの蔓を這わせるための骨組みで、いちいち逃げるのが面倒とばかりに、ワタシが近寄ってもトマトの傍に留まったまま。

 食事中に邪魔すんじゃねぇ!的な視線すら感じるほどだ。

 ここでトマトが食べられる、ということを覚えると連日やってくるようになるヒヨドリたちながら、最初に赤く実ったトマトを見つけた時は、おそらく↓こんな顔をしていたと思われる。

 街をブラブラ歩いているタモリのように、頭の上にビックリマークが音付きで出ているのは間違いない。

 ヒヨドリ除けにネットでも張らないかぎり鳥害は避けようがないのだけれど、1日に採れる量が2つ3つならショックは大きいものの、ピーク時には↓こんなに採れるものだから…

 …トマト作者のオタマサは鷹揚に構えていたものだった。

 ところが諸事情あってこれまでお借りしていた畑が使えなくなり、トマトは庭先のあたいぐぁで作るものだけとなると話は別らしく、味をしめて庭先にやってくるヒヨドリに甘い顔をするのはやめたらしい。

 美味しいものがあれば庭先でもデッキの上でも平気でやってくるヒヨドリではあるけれど、さすがにヒトのすぐそばには来ないから、庭のトマトに悪さをしているのを観るのはたいてい網戸越しになる。

 畑でトマトを作る一方で、つまみ食い用にデッキ上で鉢植えにしていたトマトも、ヒヨドリの格好のターゲットになる。

 網戸越しの室内にいるものだから、近くにヒトがいることには気づかないらしく、かなり盛り上がってトマトを食べていたヒヨドリ。

 その様子が面白かったので動画も撮り始めたところ、思いがけずヒヨドリのナイスキャッチのシーンが撮れてしまった(開始18秒後くらい)。

 中玉トマトを丸々1個食べて満足したのか、やがて雨降る空の下に去っていった。

 トマトは巣立った幼鳥に与えるにもいいエサになるようで、これまた網戸越しに親がエサを与えるシーンを観ることができた。

 プチトマトくらい自分で食べろよ、という気がしなくもないけれど、幼鳥の頃からこのように味を覚えるのだもの、そりゃ好物になるわなぁ…。

 ところで、イソヒヨドリにしろヒヨドリにしろ、幼鳥が巣立つタイミングは、サシバが島を去っていった頃と相場が決まっている。

 逆に言うと、そういうタイミングで繁殖している種類だけが、こうして現代まで生き残っているということなのだろう。

 ただ、親と一緒に居てくれないと、初見の際はいったい誰なんだかわからなかった。

 ヒヨドリの幼鳥を目にしたのはこの時が初めてのことで、随分遅めの6月だったこともあって、当初は珍しい迷鳥かと思ったほど。

 夏場ともなると畑で美味しいモノを…というわけにもいかないから、島内のどこかしらで美味しい実を食べている様子だ。

 カモメ岩へと続く道沿いで姿を見かけることが多く、たくさん実をつけているセンダンの木でよく見かける。

 冬場もそういうところで天然の実を食べてくれていれば、害鳥呼ばわりされることなくのどかに暮らせていられるだろうになぁ…。

 といいつつ、警戒心が強い鳥さんだから、その姿を写真に残す機会といえば、好物のトマトを求めて庭先に来る時くらいのもの。

 ヒヨドリの画像記録は、トマトの害があってこそなのだった。