水納島の野鳥たち

イソヒヨドリ

全長 23cmほど

 本来はその名のとおり海辺を暮らしの場にしているイソヒヨドリは、本土でも海辺に住んでおられる方にはお馴染みの鳥さんだ。

 でも海無し県埼玉など内陸にお住いの方々には珍しいようで、島にご滞在中にオスの青い色をご覧になり、「あの鳥は何?」と訊ねる方が以前は多かった。

 テレビの自然番組などによると、最近のイソヒヨドリは内陸部にも進出しているそうだから、ひょっとすると最近の埼玉にはイソヒヨドリがいるのかも?

 水納島でも海岸を散歩すると、海辺に佇むイソヒヨドリをよく見かける。

 彼は彼でこのあたりを縄張りにしているのだろうけれど、小さな島の場合どこでも海辺だから、イソヒヨドリは島内の随所で幅を利かせている。

 夜明けとともにオスが美しい声で囀り始めるから、島での朝はイソヒヨドリの声で目覚めたという方も多いことだろう。

 通年島にいる留鳥だから、島に渡ってきた冬鳥がイソヒヨドリの縄張り内で好き勝手にしていると、すぐに追い払う。

 それは一見イジワルに見えるのだけど、先住者の特権というもの。

 ツグミほどの大きさのイソヒヨドリをじっくり観てみると、特にオスは美しい。

 このように頭、胸、背側が綺麗な青色をしているのがオス。

 イソヒヨドリは小動物を主食にしているので、オタマサが庭でなにかゴソゴソやっていると、そこからきっと好物の昆虫類が出てくるだろうと期待して、目をキラキラさせている。

 もう付き合いも随分長いものだから、ゴソゴソ=エサ、しかも大した危険は伴わない、と理解しているイソヒヨドリ。

 なので彼は、こんなに近くまで寄ってくる。

 このようにヒトに接近してくるのはもっぱらオスで、おそらく縄張り内で主導権を持っているのは自分である、という感覚もあるのだろう。

 一方メスはオスのようにゴソゴソのおこぼれを期待することはなく、いつも自力でハンティングしている。

 オスもメスも、獲物をハンティングする際には高所から下界を見渡していて…

 小動物の気配を察知するとそこからサッと舞い降り、素早くゲットする。

 カナヘビなどの大物も、草むらから飛び出す虫たちも、各種イモムシたちも、イソヒヨドリたちの格好のターゲットだ。

 沿道の草刈りをしている際には、草を刈り払われて住処を奪われた虫たちがパニックになってピョンピョン飛び跳ねることも、イソヒヨドリたちはよく知っている。

 なので沿道の草刈りをしていると、エンジン音などものともせずすぐそばに3羽くらいやってきては、獲物ゲットに精を出すほどだ。

 だからといって100パーセント肉食というわけではなく、ときにはトマトも食べたりする。

 我が家の庭で幼鳥時代を過ごしたイソヒヨドリは、インコのケージを日中は屋外に置いていることもあってか、その後若鳥になっても警戒心がゆるくなる傾向があって、やけに近くまで寄って来ることがある。

 ある年我が家の庭を縄張りにしていた若鳥はその「近くまで」がホントに至近で、デッキの上にヒトが何名もいる状況下にもかかわらず、デッキの上にやってきては、何か美味しそうなものはいただけはしまいかと、期待に満ちた目をウルウルさせていたものだった。

 その若鳥が無事育ってオトナになってからも、引き続き我が家の庭を縄張りにしていた。

 ヒトがいるデッキの上に平気で来るくらいだから、カメさんたちにあげてあるプチトマトをインターセプトしていくなんてことはお手のもの。

 そして我々がデッキの上のテーブルでお茶をしているときも、期待に胸を膨らませてすぐ傍で様子を伺っていた。

 写真では一見遠そうに見えても、実際はカメラから2mほどしか離れていない。

 ほぼ間違いなくそれ以前の若鳥と同一個体だから、そうするとこの時点で付き合いも半年くらいになっている。

 その付き合いの長さに免じ、ワタシのとっておきのつまみ食い用プチトマトを進呈してみることにした。

 フツーだったらイソヒヨドリは絶対に近寄ってくるはずがない我々がお茶をしているテーブルの端に、プチトマトをひとかけら置いてみた。

 すでにして当店観測史上最接近記録保持者のイソヒヨドリ、はたしてその記録更新なるか?

 記録更新。

 プチトマトは細かく分けてあったので、何度か続けざまにやってみたところ、動画のほか写真も撮ることができた。

 2度目はいささかの躊躇もなくテーブルの上まで来て、トマトをゲットするイソヒヨドリ。

 このプチトマトゲッターはそれから9ヵ月経ってすっかりオトナのオスになっていたのだけど、他のオスたちに比べると、どことなく馴れ馴れしさが残っている気がした。

 翌年、これまでずっと芝生だった庭の一部を昨年から畑にしたところ、イソヒヨドリが砂浴びをするのを初めて目にした。

 砂場があれば近くにヒトがいようとどこでもフツーにやっていることなのか、それとも警戒心がゆるいからこそ目と鼻の先でこんなことをしているのか…。

 そんなイソヒヨドリたちが最も忙しくなるのが、子育ての季節。

 毎年春になると幼鳥が巣立つ。

 親に比べて尾羽が短く、嘴が黄色くて、ずんぐりむっくりしている姿がいかにも幼げだ。

 写真のように口を大きく開けているのは、ジョージョーと鳴いて近くにいる親とコミュニケーションをとりつつ餌をねだっているためで、この季節には幼鳥のおねだりボイスをいつも耳にする。

 成長すると、もう少しイソヒヨドリチックになる(別個体です)。

 クチバシの両サイドが黄色くなっているのが、幼さの証。

 これくらいまで育っていてもまだ親にエサをねだっていて、ジョージョーと鳴いていると、エサをゲットしてきた親がやってくる。

 ただしもっと小さかった頃と違って、親はこっちまで来なさいという感じで、少し離れたところでエサを見せつける。

 すると幼鳥は…

 親の近くまで行って、エサをもらう。

 エサを与えるのも1度や2度ではまったく足りず、ジョージョーはほとんど四六時中おねだりしているから、ひっきりなしに次なるエサをゲットしに行っては、すぐに戻って来る父ちゃんなのである(ママとかわりばんこだそうです)。

 幼鳥にエサを与えていたこの父ちゃんは、ひょっとすると2年前にテーブルの上からトマトをゲットしていたあの記録更新君かもしれない。