水納島の野鳥たち

コゲラ

全長 15cmほど

 コゲラと初めて出会ったのは、2017年のバレンタインデーのことだった。

 真冬とはいえ風がおさまり青空が広がると、太陽がいかんなくその力を発揮してくれるおかげで、屋外にいても快適そのもの。

 3時のお茶タイムも、デッキのテーブルで楽しめる。

 オタマサセレクトのチョコを食べつつ、コーヒーを飲んでいると、チョコの美味しさとはまったく関係ないところでオタマサが素っ頓狂な声をあげた。

 「コゲラだ!!」

 コゲラとはスズメほどの小さなキツツキの仲間の野鳥で、当時すでに本島では間近で目にしたことがあったけれど、水納島ではこれまで観たことがなかった鳥さんである(オタマサは過去に1度あり)。

 留鳥だから県内ではお馴染みでも、水納島ではレア。そんなコゲラが、すぐそばのタカシさんの家のカニステルの木の天辺で、コンコンコンコンコン…とリズミカルにキツツキ作業をしているではないか。

 チャンス!!

 すぐさまジョニーを取ってきて、パシャッ…と撮ったのが冒頭の写真だ。

 県内では通年観られても水納島に定住しているとは思えないから、このコゲラも、束の間の滞在で終わるような気がする。

 そんな鳥さんが、お茶を飲んでいるところから見えるお向かいの木に止まってコンコンコンコンしていたってのは、やはり千載一遇のチャンスだったのだ。

 案の定、その時のコゲラは、束の間の滞在でその後姿を消した。

 ところがその3年後(2020年)の梅雨時に、コゲラ、カニステルにリターンズ。

 前回とは違い島に長居してくれて、島内のいろんな場所で会うことができた。

 これは旧校長住宅の敷地内の木で、枯れている部分だからだろうか、ドラミングの音がやたらと響き渡っていた。

 キツツキ類が木をつついているのは、穴をあけてその中にいる虫を食べるためだけと思われがちながら、彼らのドラミング音には囀りの代用という意味合いもあって、縄張り主張のために木をつついて音を鳴らすのだそうな。

 ドラミング中の様子を撮ると、頭がまったく静止しない画像になるほどのピッチの速さだ。

 コゲラの尾はかなり強靭だそうで、この尾と脚の3点でしっかり足場を固めているからこそ、頭部を好きなだけ高速に動かせるらしい。

 とはいえこんなに小さな鳥が、よくもまぁこんなに音を響かせるものだ。

 このドラミングの音、みなさんにもお聴きいただけたらなぁ…

 あ!

 動画で撮ればいいんだ。

 不思議なことに、あれほど高らかに聴こえていたドラミングの音なのに、動画を再生すると風の音のほうが大きく聞こえる。

 やはり海中の色合い同様ヒトの聴覚も脳内変換されるのか、そもそもカメラ内蔵マイクよりも指向性能が高いのか、ドラミングはその場で実際に聴いているほうが遥かに大きな音のようだ。

 この年5月に楽しませてくれたコゲラもやがて姿を消し、またコゲラ不在の年が続いていた。

 それがこの冬(2022年12月)、再び登場。

 しかも年が明けて3月末になってもいまだ健在で、これまでの最長滞在記録を日々更新し続けている。

 滞在期間の長さもさることながら、今季滞在中のコゲラには、これまでと違って際立った特徴がある。

 それは…

 金属ラブ♪

 電柱の天辺あたりにある金属パーツでドラミングするのをマイブームにしているようなのだ。

 姿を観るよりも先に異音に気がついたほどで、当初は遠目からしか眺めさせてくれなかったものが、近頃では電柱の真下から見上げても逃げないこともある。

 毎日電柱から電柱へ飛び回っては、金属をつついてその音の違いを楽しんでいるコゲラ。

 まさか金属からエサをゲットできるはずはない、ということなどコゲラも百も承知だろうから、やはりドラミングの目的は「音」にあることがわかる。

 で、なまじ滞在期間が長いものだから、春にはもう島の誰もがコゲラが奏でる音に気がついていて、実際に姿を目にして「あれ、なんね?」と尋ねてくる島の方も増えている。

 水納島ではこれまで知られざる野鳥だったコゲラが、おそらく過去最高レベルでメジャー化しているのだ。

 ドラミングは、同種に己の縄張りを主張するだけではなく、ヒトにその存在を知らしめるうえでも威力を発揮しているのだった。

 もっとも、ドラミングが同時に複数個所から聴こえたことはないので、おそらく島内にはこの1羽だけと思われる。

 縄張りを主張する相手がいないということが、コゲラにとっていいことなのか悪いことなのか。

 はてさて今回のコゲラ、この先いつまで滞在してくれるだろう?