全長 40cmほど
他のアジサシたちと同じく、夏になると沖縄に渡ってくるクロアジサシ。
ただし沖縄県内における主生息域は先島諸島が北限で、それ以北では数が少なく、水納島では「ついうっかり来ちゃいました…テヘッ!」的に、1~2羽が他のアジサシたちに混じっているという程度でしかない。
1~2羽しかいなくても、他のアジサシ類の体が白いだけによく目立つため、居れば遠目でもその存在には気がつく。
とはいえそれを間近で観る機会はまずない。
ところが、前世紀末の夏に奇跡が起こった。
夏とはいえまだのどかに過ごせていた時代だったから、のんきに船上待機という名の居眠りをこいていると、軽くバサッという音がした。
なんじゃらほい?と音がした方に目を向けてみれば、そこには…
…クロアジサシが舞い降りていた。
年にせいぜい1~2羽しか観られないクロアジサシが、よりにもよって船べりに飛来するなんて!
スマホだコンデジだと様々な記録メディアを誰もが携帯している今の世とは違い、身の回りでカメラといえば水中写真器材だった当時のこと、この千載一遇のチャンスに、記録に残す手段など何ひとつないはずだった。
ところがどういうわけだかこの時は、ポジフィルムを装填してあるカメラが傍らにあった。
このチャンスを逃すまじ!とばかりに慌てて鼻息荒く撮ったわりには大した写真はないものの、今じゃとうてい考えられない準備の良さ&チャンスは最大限に生かす当時の自分に乾杯。
デジタル画像にするためにスキャンしたあと、そのポジフィルムがどこに行ってしまったのかさっぱり記憶に無いため、カメラ目線になってくれている上の写真は、かつてギャラリーコーナーで利用したロゴ入り画像しか無い…。
自身の整理整頓能力には、乾杯ではなく完敗し続けているワタシである。
その後も毎年1~2羽くらいは姿を見かける…という存在だったクロアジサシが、なぜだか2020年8月に突如フィーバー状態になった。
防波堤に群れているベニアジサシたちが、いつになく落ち着きがない状態で飛んだり降りたりを繰り返していたのが気になり、飛び交うアジサシたちを見てみたらば…
…そこにはクロアジサシたちの姿もあった。
ベニアジサシやエリグロアジサシより2周りほど大きなクロアジサシだから、羽休めの場に居られると目障りなのかもしれない。
でも毎年1~2羽クロアジサシが混じっているのだから、なにもそんなに騒ぎ立てなくても…
…と思いきや、実はクロアジサシたちはこんなにたくさんいたのだった。
さらに倍。
↑ここに写っているだけで17羽、そして飛び交っているものも5羽くらいいたから、実に20羽以上ものクロアジサシが大集合!
あまりにたくさんいるので、ホントにクロアジサシなのかどうか疑問に思い、ズーム能力が著しく衰えていたジョニーで無理矢理ズームインしてみたところ…
しっかりクロアジサシだった。
後にも先にもこの時かぎり、前代未聞驚天動地ビックリ魂消たモンザエモン級のクロアジサシフィーバーである。
その後昨年までの2シーズンは通常どおりだったことを考え合わせると、この時は直前の台風に乗っかってしまい、集団で迷子になっちゃったんだろうか。
いずれにせよ、防波堤を羽休め場所にしている他のアジサシたちには、相当迷惑だったようだ。
クロアジサシたちがジッとしていれば、他のみんなも落ち着いているんだけど、何がどうしたのかクロアジサシが数羽飛び立つと、白いアジサシたちはビックリして慌てて舞い上がり…
するとジッとし続けていたクロアジサシたちもビックリして舞い上がり、アジサシたちが全部舞い上がる…
で、ビックリした原因がクロアジサシだったことがわかると、再び防波堤にみんな舞い降りる。
そしてまたしばらく経つと、また一部のクロアジサシが飛び立ち…
…ということを繰り返していたため、全体的に落ち着きなく見えていたようだ。
クロアジサシたちが恒常的にたくさん島にやって来るようになるということは、それだけ温暖化が進んだということの証かもしれないから、あらゆる面での「平和」のためには、いつまでも1~2羽くらいのままでいてくれたほうがいいのかもしれない。
もっとも、クロアジサシがふと船べりに降り立つような、のんびりした「平和」な夏を過ごしたい…というのは、この先最凶ウィルスが蔓延でもしない限り、二度と実現不可能な「夢の20世紀」の暮らしになってしまっているのかもしれない。