水納島の野鳥たち

ズアカアオバト

(リュウキュウズアカアオバト)

全長 35cmほど

 我々が水納島に越してきた95年2月から2011年夏まで暮らしていた旧我が家は裏浜入口のすぐ近くにあった。

 島の集落がある中心地から随分離れた辺鄙なところということもあり、(ハブを含めた)野生動物がより身近だった。

 昼も夜も聴こえるいろんな動物の声も集落内に比べればいっそう近く、越してきた当初最も気になっていたのが、まるで覚えの悪い小学生がヘタクソなリコーダーを繰り返し練習しているような、不思議な鳴き声だった。

 最初は本気でリコーダーと思ったくらいで、あまりにも不思議だから島のヒトに訊ねてみたところ、

 「ああ、クイナだはずよ」

 とのこと。

 なるほどクイナかぁ…と納得した我々は、その後誰に訊かれても「クイナです。(キッパリ)」と応えるようになっていた。

 沖縄の辺鄙な島に越した我々を陣中見舞い(?)に来てくれた学生時代の友人にも、「声の主はクイナだよ」と教えると、彼はその姿を見るべく声のする場所に駆けていった。

 声はすれども姿は見えず…で終わるだろうと予想していた我々は、キョトンとしながら帰ってきた彼の言葉を聞いて驚いた。

 「ハトしかいなかったよ?」

 ん?ハト??

 当時は完全にクイナであると信じていたものだから(なにしろ島のヒトが言うんだもの)、ハトなわけないじゃん!とその友人をからかった我々だった。

 ところが!

 なんとなんとこのヘタクソなリコーダーのような声の主は、ホントにハトだったのだ。

 それも島内では一般的にアオバトと呼ばれている、リュウキュウズアカアオバトだ。

 ずっとクイナだと信じていたものが、ハトだったことを知ったオドロキをご想像されたい…。

 というか、ちゃんと声の主を突き止めたにもかかわらず、我々からダメ出しされてしまった友人よ、すまぬすまぬ。

 同じ個体かどうかは不明ながら、リュウキュウズアカアオバトは我々が越してきた当時から少なくとも20年以上島に常駐していて、ときには旧我が家のシンボルツリーだったモモタマナの枝に止まっていることもあった。

 当初は「アオバト」という名前だと思っていたから不思議には思わなかったものの、頭のどこも赤くないのになぜに「頭赤」アオバト?

 実はリュウキュウズアカアオバトというのは沖縄本島以北で見られるタイプの亜種名で、ズアカアオバトというのが本種の名前なのだそうな。

 その命名の基になったのは台湾産で、その台湾産ザ・ズアカアオバトは頭部が赤いらしい。

 頭部は赤くなくとも、全体的に鮮やかな緑色で、けっこうトロピカルな趣もあるリュウキュウズアカアオバト。

 そのため当時小学生だった元気な島の子が、うちのインコが逃げていた!と勘違いして(アオボウシインコ)、我が家に通報すべく駆けつけてくれたこともあったっけ…。

 ところでリュウキュウズアカアオバト(…いちいち長いから以後はアオバトにします)の特徴的なリコーダーソング、島のナリコさんによると、アオバトが鳴くと天気が崩れるという。

 その後お天気を意識しながら声を聴いてみたところ、100パーセントではないにせよ、たしかに高確率で雨が降り始める前に「ポー…ペポー…ペポー…」と鳴いているっぽい。

 アオバト、なにげに雨告げ鳥だったのか。

 そんなアオバトとの暮らしが当たり前だったのは2016年までのことで、その後はプッツリと消息を絶ってしまった。

 変わりゆく島での暮らしに、とうとう嫌気がさしたのだろうか。

 姿が消えてから5年経ち、ヘタクソなリコーダーソングもすっかり「懐かしい昔話」になりかけていた頃のこと。

 聞き間違いようのない「ポー…ペポー…」の声が、春から島内で聴こえるようになった!

 5月には、現我が家すぐそばの電線で、美麗な姿を惜しげもなく披露してくれた。

 この少し前にヘンテコソングを歌っていた彼は(オスか?)、すっかりくつろいでいたらしく、羽をビヨ~ンと延ばしてもいた。

 かつて旧我が家のモモタマナの枝上にいるところを撮ったのは2010年のことだから、実に12年ぶりにその姿を撮ることができた。

 なんとなく、このままずっと滞在してくれそうな雰囲気を醸し出しているアオバト。

 かつてのように、「雨降り前にはリコーダー」がまた定番になるかも…。

 この年(2022年)から今年(2023年)にかけて、結局島に常駐というわけではなく、居たりいなかったりしていて、居なくなってしまったか…と諦めていたらまたリコーダーソングが聴こえてくる、というパターンになっている。

 おそらく本島と行き来しているのだろう。

 いろんな方々にその声を聴いて不思議に思ってもらいたい、アオバトのリコーダーソング。

 その声を島でいつでもどこでも聴けるようにするためには、やはりまずはハトがのんびり羽を休めることができるよう、大きく育っている木々を大事にする心が必要なのだろう。