水納島の野鳥たち

サシバ

全長 50cmほど

 水納島で観られる数少ない猛禽のひとつが、このサシバだ。

 冬に南下してくる渡り鳥で、毎年秋半ばに姿を現し、春になると去っていく。

 大陸や日本本土で夏を過ごしたあと、冬を過ごすためにサシバが渡る本来の場所は、もっと南の東南アジア方面だそうな。

 その「渡り」のために彼らは集団になって、冬型の気圧配置になると吹く北風に乗って南下を開始するという。

 東南アジアに至るまでの渡りルートには「休息場所」があり、沖縄県内では宮古島がつとに有名だ。

 あくまでもそれは羽休めの一時滞在なんだけど、なかには休息ではなくてそのままいついてしまうモノがいる。

 それを県内ではウティダカ、すなわち「落ち鷹」と呼びならわしている。

 けっして名誉ある呼称ではなく、東南アジアまで行くべきところ、気力体力の限界で途中で脱落した落ちこぼれ、という意味なのだろう。

 水納島で毎冬観ることができる数羽のサシバも、いわゆるこの「落ち鷹」に該当するはず。

 でも、冬場の彼らの様子を観ていると、彼らに落ちこぼれ的卑屈感はまったくうかがえず、むしろその姿は猛禽らしく凛々しい。

 島での様子も、ちゃんとこの島で人生を謳歌しているように見えるんだけど…。

 わざわざ遥か東南アジアまで行くまでもなく途中の島でOK、と思っても、キャパシティの小さな島のこと、その権利を得られるものは極わずかにすぎない。

 そう考えると、落ちこぼれというよりは選ばれし者なんじゃなかろうか。

 サシバが水納島に渡ってくるのは毎年10月の半ばで、空高くから「ピーッ、クイーッ!」というサシバの声が聴こえてくると、すでに夏が遥か遠くに去っていることをしみじみ実感できる。

 高く通る声を発しはするけれどサシバは基本的に警戒心が強いので、木に止まっていても、こちらが気付く前にサッと逃げ出してしまうことのほうが多い。

 ところが場合によっては木や電柱に止まっているときに「ピーッ、クイーッ!」と鳴いていることもあって、そういうときはあまり目立たないようにして気をつければ姿を拝見しやすい。

 この鳴き声、「ピーッ、クイーッ!」と表記してもご存知じゃない方は実感できないだろうから、この機会にサシバの声を動画でどうぞ(風の音や手ブレはご容赦ください)。

 静かな冬場、2~3羽が優雅に空を舞いながら鳴いていると、なんとものどかで素敵な時間を過ごすことができる。

 そうやって空高く舞っている様子を観る機会は多くとも、とっても高いところを飛んでいることが多いからコンデジごときで撮るのはなかなかつらく、かといって飛び立つ瞬間を撮るのもまたムツカシイ。

 そのためなかなか羽を広げた姿を画像に残せないでいるのだけれど、ごくたまに偶然がある。

 やっぱかっこいいなぁ、猛禽。