全長 30cmほど
その昔旧我が家で暮らしていた頃には、チャボを皮切りに、庭で様々な生き物を飼っていた。
チャボは日中庭で放し飼いにしていたのだけれど、それが可能だったのは、水納島に野犬も野良猫もいないおかげ。
ただし陸上のプレデターは不在でも、上空で目を光らせている者たちがいた。
旧我が家は木製電柱の廃材を利用した丸太小屋で、上限無視で良く言えばいわゆる「ログハウス」だったのだけど、屋根は平トタンだったため、越してきた当初から、経年劣化のために随所で雨漏りするようになっていた。
その雨漏り箇所を補修すべく、ちょくちょく屋根に上ることがあって、その日も該当箇所っぽいを補修していたところ、屋根から突き出している梁の先に、見慣れない猛禽が止まっていることに気がついた。
猛禽とはいえかなり小型で、イメージはハヤブサのようにも見えた。
背側の色が青味がかっていて、なかなかシャープな戦闘的イメージだ。
ジー…ッと凝視しているその猛禽の視線の先には、チャボたちの姿が。
格好のエサになりうるかどうか、まるでターミネーターの脳内のように、サイズの検証をしていたに違いない。
幸いチャボはその猛禽と同サイズくらいということもあって事なきを得て、猛禽はサッと遠くへ飛び立っていった。
はてさて、この猛禽はいったい誰?
当時はネット環境など微塵も無かったものの、被災前の我が家には「日本の野鳥」なる大部の図鑑があったのでさっそく調べてみたところ、どうやらこの猛禽はツミという種類らしい。
水納島に常駐しているのかどうかは不明ながら、沖縄本島では留鳥ということになっている。
その後何度か姿を見かけることがあったツミ、ときには見上げた梢の先にペアがいたことも。
残念ながらその姿を撮影するチャンスには恵まれないまま、時は流れた。
で、2020年10月下旬のこと。
我が家の庭から見える電線に、猛禽が止まっているのが見えた。
先ごろ島に渡ってきていたサシバかな?と思ったものの、サシバにしては小さすぎる気がする。
ときおり上空を行き交う小鳥の群れを見上げたりしつつ、口を大きく開けて甲高くキキキキーッ!と鳴いていた。
色柄はサシバに似てはいるけれど、サイズといい鳴き方といい、別の猛禽に違いない。
島でそれまでに観たことがある小型の猛禽といえば、ツミ、そしてチョウゲンボウ。
しかしどちらにも該当しそうにない。
電線下の路上を軽トラが通り過ぎた際に体の向きを変えてくれたから、お腹側もよく見えた。
こうして見るとますますサシバに似ているように見えるけれど、島の電柱から電柱へと伝っている同じ電話線に同じように止まっているサシバと比較してみると…
どちらも同じ太さの電話線設備に止まっているので、その太さに比した体のサイズの違いがよくわかる。
嘴や目のあたり、そしてお腹の模様や尾羽の裏を見ても、まったく別の鳥であることは間違いなさそうだ。
はてさて、このサイズの猛禽でこのような色合いといえば…
ハイタカ?
ハイタカを画像検索してみたところ、どうやら違うことが判明。
けれどそれと同時に、ハイタカと見間違えやすい猛禽としてツミの名が挙げられているというジジツが浮上してきた。
え?
でもこれまで島内で何度か観たツミといえば、もっと頭部から背側にかけて青っぽい色をしてたんじゃなかったっけ?
と思ったら、その色を呈しているのはオスで、オスよりも一回り大きいオトナのメスは褐色だという。
そしてメスの若鳥は、ここで紹介している色をしているのだそうだ。
サシバと違ってツミは通年沖縄にいる猛禽類だから(八重山あたりはリュウキュウツミという亜種になるらしい)、島内でも繁殖しているのかもしれず、若鳥がいてもおかしくはない。
YouTubeにはツミの鳴き声なんてのも公開されていたので聴いてみると、おお、この日の朝聞いた甲高い鳴き声と同じだ。
というわけでナゾの猛禽は、ツミの(おそらくメスの)若鳥ということに決定。
観たことはあったけれど撮ったことはなかったツミの写真を、初めて記録に残せたツミ作りな日になったのだった。
この勢いでブルーグレーなオスの写真も撮りたいところながら、あいにくその後、ツミとは再会を果たせていない。