エビカニ倶楽部

バルタンシャコ(通称)

体長 15cm(推定)

 今でこそバルタンシャコなる通称で変態社会にとどまらず広く知られているけれど、水納島に越してきたばかりの頃(95年)に初めて出会ったときには、一瞬我が目を疑ったものだった。

 もっとも第一発見者は私ではなく、「水深25mほどの根で黄金に輝くシャコを見た」というだんなの話を聞いた時には、当然ながらにわかには信じられなかった。

 ところがその場所を訪れてみて実際に目にすると、なるほどたしかに、水中で妖しく黄金色に輝いているではないか(写真を見て「なんだ黄色(橙色)じゃん」と言ってはいけない)。

 当時の国内の図鑑ではその姿を目にしたことはなく(今も載っていないかも)、かろうじて洋書の図鑑に載っていたくらいだったのだけど、それが発見時すでに所有していた図鑑だったのか、後年購入したものに載っていて、世間的には既知のシャコであることを知ったのだったか、今となっては思い出すすべがない。

 いずれにせよ和名も学名もなかったから、初遭遇以来我々は、「黄金のシャコ」と呼びならわすことにした。

 彼らの巣穴がまたおもしろい。

 小礫を積み重ねて巣穴入口を形成しているモンハナシャコの巣と全然違い、細かい砂を粘液か何かでうまくドーム状に成形して巣の入り口が作られているのだ。

 まるである種の粘膜のような薄い出入口はすぐにでも崩れ去ってしまいそうに見えるのに、砂を固めている粘液はかなり丈夫かつ弾性があるのだろうか、主が顔を出しているときは体のサイズに合わせて開き、主が不在中だったり(穴の奥にいるのかもしれないけど見えない)身を少々引っ込めたりしても、口径は小さめになりつつもしっかり巣穴の形を保ったままでいる。

 黄金のシャコは、この巣穴から顔だけ外に出し、眼をアンテナのようにキョロキョロさせている。

 遭遇する際はほぼほぼこの状態で、眼の外側にあるピロピロ(触角鱗片)を広げて外に出している姿は、撮影したことはおろか目にしたことすらない(と思う)。

 遥かな昔に一度だけ、根に群れているスカテンが何かに追われたのか、底近くまで集団で逃げてきたときに、そのスカテンをハントするかのように、黄金のシャコが巣穴から腰より先まで外に出るほど身を乗り出しているシーンを観た…と某有名海洋写真家が言っていたことがあった。

 ということは、巣穴から目をキョロキョロさせつつ顔を出している彼らは、近くを通りかかる小魚やエビを狙っているのだろうか。

 でも巣穴のすぐそばに、イソギンチャクエビonミノイソギンチャクの姿があってもまったく無視している。

 彼らのターゲットはやはり、小魚あたりなのかもしれない。

 となるとやはり、普段の彼らは虎視眈々といったところなのだろう。

 ただ、彼らの眼はモンハナシャコとは違って角張った台形をしていて、それが2つ揃うとハの字になるものだから…

 「虎視眈々」といってもそのアイオブザタイガーは、なんだか大変困っているヒト…のような表情になってしまうのが笑える。

 そういったことを楽しみつつ、初遭遇から今世紀初頭くらいまでは、砂地のポイントや岩場のポイントに関係なく(岩場のポイントでは砂礫が溜まっているところ)、けっこうコンスタントに会えていた黄金のシャコだった。

 ときにはこういうシーンもあったほど。

 こんな近いところに2匹いるなんて。

 当時はこんなこともあったというのに、2013年から5年ほどの間は、なぜだかまったく黄金のシャコに出会えなくなってしまった(我々が出会えていなかっただけかもしれないけど)。

 近年はとあるポイントでおそらく同一と思われる個体がほぼ同じ場所に居続けてくれているおかげでコンスタントに会えてはいるものの、それ以外の場所ではまったく会えていない。

 ちなみに初遭遇から27年経った今もなお、依然として彼らには、和名はおろか学名もついていない。

 そもそもバルタンシャコは、「そこらじゅうにいる」というシャコではないってことなのかもしれない。