(Charybdis hawaiiensis)
甲幅 30mm
サンゴの枝間にはいろんな生き物が隠れ潜んでいるから、リーフ際などで過ごしているときは枝間サーチをすることが多い。
なかでもヘラジカハナヤサイサンゴは枝間を覗き見しやすく、カサイダルマハゼやダンゴオコゼなど魅惑的な魚のほか、きれいなエビカニ系にもよく会える。
冒頭の写真のカニも、そのヘラジカハナヤサイサンゴの枝間でちょくちょく出会う。
初見時は「ヨツハイシガニって、サンゴの枝間にもいるんだ…」と一瞬思いかけたものの、よく観るとその眼がなんともヘンテコだ。
縦に縞模様が入っているのだ。
こんな眼で見る世の中なんて、電波障害バリバリのアナログテレビ画像のようなのではないかといらぬ心配をしてしまう。
ヨツハイシガニの眼にはこんな縞模様は無いから、それだけでもう別の種類のカニだと思ったものの、何かの拍子で目がこういうことになるかもしれない。
では、ヨツハイシガニの稿でも触れた、4つ歯かどうかを見てみると…
このカニは「5つ歯」だから、少なくともヨツハイシガニではないことが確定。
観られるのはほぼヘラジカハナヤサイサンゴの枝間で、その付近以外では見たことがない。
サンゴを拠り所にするカニなのだろうか。
見つけやすい場所にいて、なおかつ特徴的な眼だから見分けるのは易しいのだけど、あいにく当時世に出ていた図鑑には、サンゴガニの仲間はわりと載っているのに、同じくサンゴで暮らすこのカニはどこにも見当たらなかった。
20世紀最後の年に刊行された名著「海の甲殻類」で、ようやくこのカニが図鑑に登場した。
あいにく特徴的な眼が見づらい写真ではあったけれど、ちゃんと解説文には眼の縞模様について述べられており、5つ歯であることも記載されているから、まずこのカニで間違いないだろう。
で、そのお名前は?
「イシガニ属の1種」なのだった…。
それから20年以上経ってもまだ和名はつけられていないようながら、1954年には新種として記載されており、Charybdis hawaiiensis という学名で随分昔から世にデビューしていたようだ。
ハワイエンシス!
「いわゆるガザミ」フォルムのスルークリーチャーが、まさかアロハオエ~なトロピカルネームだっただなんて。
そのまま「ハワイイシガニ」なんて名前になったら、にわかに脚光を浴びるかも。
和名はともかく図鑑の解説によると、「日中は見られないが夜間は表に出て活発に活動する…」とある。
つまりサンゴの隙間でジッとしている日中は、彼らの仮の姿なのだ。
夜になると外に出てブイブイいわせ、明るくなる前にまた同じところに戻ってくるのだろうか。
それとも海の男よマドロスよ、ギター抱えてマイトガイ、夜にまぎれて消えていく…のだろうか。
なるほど、ワタリガニとはよく言ったものだ。