エビカニ倶楽部

サムネイル画像をクリック(タップ)すると、
大きな画像でご覧いただけます。

キクメイシヤドリガニの仲間

甲幅 5mm前後

 サンゴの枝間など、庇を借りる…程度に済ませているサンゴガニの仲間たちとは違い、庇を借りた勢いで母屋に侵入する宿り方をするサンゴヤドリガニたち。

 サンゴヤドリガニアシビロサンゴヤドリガニのような宿り方なら、サンゴのほうも気づいているんだかいないんだか…ってな感じに見えるけど、なかには虫歯のような穴をサンゴに穿って棲んでいるものたちもいる。

 それが、冒頭にズラリとラインナップしているヤドリガニたちだ。

 サンゴに何かいはせぬか…とサーチしていた際、なんとも不思議的な異物があるのでじっくり見てみたらカニだった、ということがあったのは前世紀のことで、その後も見かけるたびに撮り続けてはいたものの、長らく名前の手掛かりがまったく無いままだった。

 このたびエビカニ倶楽部に登場させるにあたってちょっとばかり調べてみたところでは、どうやらこのあたりのカニさんたちは「キクメイシヤドリガニの仲間」であるらしい。

 キクメイシというのは被覆状、塊状に成長するイシサンゴ類で、「キクメイシ科」が網羅する種数はやたらと多いから、どれが何キクメイシなんだかさっぱりわからない。

 でもおおむねキクメイシ科のサンゴだろう…と見当をつけてみると、冒頭の写真のうち、1番から6番までがキクメイシ系と思われるサンゴに暮らしていたものたちだ。

 このようにトリミングしてカニをクローズアップしてしまうとサンゴの種類がわからなくなるから、それぞれサンゴがわかるよう、元の写真も見てみよう。

 1番。

 2番。

 3番。

 4番。

 5番。

 6番。

 ホントに全部が全部キクメイシ科のサンゴなのかどうかはさておき(自信がないので…)、こうして見てみると、巣穴の周辺部分のサンゴは随分傷んでいることがわかる。

 やはりこのカニさんたち、サンゴにとっては虫歯菌のような存在なのかも。

 では、そもそもどのようにしてこのカニさんたちはサンゴに「宿る」のだろうか。

 これまで撮りためていた写真から察するところ、最初は↓このように生きているサンゴのポリプに侵入するのかもしれない。

 そしてムシャムシャとポリプを食べて、ポリプ用のスペースを占拠しているからこそ、ポリプがかつてあった場所にカニが住んでいるのではなかろうか(キクメイシ類の場合)。

 となるとサンゴにとってカニは完全無欠の「異物」なわけで、攻撃用触手を伸ばすなどして、これを撃退しようと努力はしているのだろう。

 でもその努力も…

 …カニに食われているっぽい。

 ↓この写真もよく観てみると…

 サンゴが出している触手をいじくっているようだ。

 このようにカニの周辺から繰り出す「努力」が次々に食べられてしまえば、カニ周辺が傷んでいるのも当然、ということなのだろう。

 そんなサンゴの虫歯的ヤドリガニたちが並んでいる冒頭の写真のうち、1番から4番までは色味の違いだけでおそらく同じ種類なのかもしれない。

 続く5番と6番はそれぞれ他と異なって見える。

 特に6番はどちらかというとアシビロサンゴヤドリガニのようなフォルムに見えるものの、住処にしているサンゴはアシビロ…とは全然異なる。

 一方7番のカニさんは、キクメイシ科のサンゴではなくてハナヤサイサンゴで観られるもの。

 1番から6番までとはまったく異なるタイプのサンゴだから、おそらくカニの種類も違うのだろうと類推できるのとは別に、このハナヤサイサンゴに住んでいるカニさんは、他のカニでは観たことがないアクティブな様子を1度だけ見せてくれたことがある。

 ハサミ脚を穴の外に出して、なにやらモゾモゾしているところ。

 キクメイシ類に比べるとハナヤサイサンゴのポリプは小さい分カニの周りのポリプの数は多く、カニは多方面から攻撃を受けるから防御に余念がない、ということなのだろうか。

 それとも、サンゴが死んだ部分に生える藻をセッセと食べているだけなんだろうか。

 いずれにせよこのカニが住んでいる部分は…

 やはり傷んでいる。

 ハナヤサイサンゴにとっては、カニさんの巣穴が虫歯状態であることに変わりはないようだ。

 1番から7番までのどれにも似ていないように見える8番のカニは、宿っているサンゴの種類も随分異なるように見える。

 サンゴの種類ごとにある程度カニさんたちの種類も異なっているのだとすれば、このカニさんは7番以前のものたちはまた別の種類ということなのだろう。

 …と思っていたら、このサンゴはハナヤサイサンゴの仲間ですよ、なんてことになるかもしれないけど。

 ところでキクメイシヤドリガニ属というグループ名は80年代前半には新称として論文が世に出ており、〇〇キクメイシヤドリガニなる和名も当時からいろいろ出ているというのに、いまだかつてこれらのカニたちを一般向け図鑑類で目にしたことはなく、したがって古くからある和名についても図鑑で見ることはまったくできない(2022年時点)。

 学名を手掛かりに記載論文などをチェックすれば、それなりの情報を得ることができるんだろうけど、精密な図やグラフとともにデータがいくら記述されていたところで、彼らの海での様子をビジュアル的に知るすべがない(標本写真や標本をもとに描かれた精密な図で見る彼らのメスの腹部の異様さには目を瞠るものがあった)。

 ひょっとすると超テキトーなこの稿は、現時点において他に類を見ないほどの豊富なビジュアル情報…

 …かもしれない。