エビカニ倶楽部

クマドリテッポウエビ

体長 40mm

 下手の横好きながらも水中写真を撮ってきた年月はわりと長いので、昔撮った写真のフィルムマウントなんぞを見ていると、被写体に対して現在の知見とは大幅に異なる名前をつけていることがよくある。

 このクマドリテッポウエビも、私は長い間トウゾクテッポウエビと信じて生きていた。

 両者はたしかに似ているとはいえ、クマドリテッポウエビのほうが遥かに美しいのに、なんで間違えてたんだろう……

 …と不思議に思い、個人的手持ち図鑑の系譜をたどってみたところ、これは私が間違えていたというよりも、みんなが知らなかったのだ。

 というのも、昔はクマドリテッポウエビという名など存在せず、このエビとザ・トウゾクテッポウエビは同じ種類とみなされていたようで、図鑑によってはクマドリテッポウエビの写真に「トウゾクテッポウエビ」と記しているものもあった。

 一度記憶してしまったらなかなかリセットできない私だもの、そりゃ最初にインプットした名前のままで生きてしまうのも無理はない。

 その後アカデミック変態社会では両者は異なるエビのようだぞ…ということになったのか、2003年に出た「エビカニガイドブック2久米島編」にてテッポウエビ属の1種として登場したかと思えば、同年には和名がつけられ、翌2004年に登場したハゼ変態社会待望の図鑑「日本のハゼ」において、「クマドリテッポウエビ」の名で堂々登場(あくまでも当家で所有している図鑑限定の系譜です)。

 そして世の中はこのエビのことをクマドリテッポウエビと呼ぶようになったのだけど、私の脳は相変わらずリセットされないままでいた。

 近年だんながお魚コーナーをリニューアル&リライトする際に、クロホシハゼのパートナーはトウゾクテッポウエビではなくなっているという衝撃のジジツを知るにおよび、ようやく私も時代に追いつくことができた次第。

 でもまた2年ほどすると、このエビのことを再び「トウゾクテッポウエビ」と呼んでいるかもしれない…。

 さて、クマドリテッポウエビがパートナーによく選んでいるクロホシハゼは、オドリハゼ以上に警戒心が強い。

 内湾環境に近くなるような、入り組んだリーフの奥でリーフ際をサーチすれば見かける頻度もそれなりにあるのだけれど、なにしろハゼの警戒心が強いものだから、通りすがりにチラッと…くらいのノリではエビの姿をなかなか拝めない。

 それでも同じクロホシハゼでもなかにはおりこうさん(あくまでもダイバー本意ですが)もいて、エビが外に出てくるほどに心を許してくれることもある。

 せっかくエビが出てきてくれたのに、このように砂運搬中だといささかザンネンなことになる。

 というのも、一緒に暮らしているハゼは地味系なのに、クマドリテッポウエビはわりとビューティホーで、特にハサミ脚がカラフルなのだ。

 ね、カラフルでしょ?ちゃんと撮れてないけど…。

 この美しいハサミ脚をちゃんと撮るなら、巣穴から砂を運び出すところではなく、砂を外に出して巣穴に引っ込む時がチャンス。

 ところがこのクマドリテッポウエビにかぎらず、共生エビと呼ばれるテッポウエビたちはほぼみんな、砂を外に出すときはじっくりゆっくり前に進んでくるのだけれど、砂を押し出した途端、ピューッ…という速さで巣穴に戻ってしまう。

 なので戻りかけのところ、というのは意外に難しい(※個人の感想です)。

 ところで、クマドリテッポウエビといえばクロホシハゼ、と思っていたところ、リーフ内で観られるシロオビハゼのパートナーになっていたことがあった(冒頭の写真も)。

 水納島のリーフ内、それもビーチといったら水深は浅く、窒素無制限エアーもある意味無制限のエンドレス撮影環境。これならクマドリテッポウエビの美しいハサミ脚のチャンスも…。

 しかしこれを撮っていたのはだんなで、そもそもシロオビハゼ目的で潜っていたものだから、クマドリテッポウエビのハサミ脚へのこだわりはまったくなかったのだった…。