エビカニ倶楽部

ツマキヤドリエビ

体長 10mm

 メクリストなどという呼称まである今でこそ、小さなエビカニたちをサーチするためのノウハウが一般的になっているけれど、まだエビカニ好きなんてヒトたちがマイノリティ中のマイノリティだった前世紀は、種類によっては標本写真しか載っていないこともある図鑑しかなく、それぞれをどういうふうに探せばいいのかなどという情報は皆無に近かった。

 その当時から、海中にあっては「エビエビ・カニカニ…」と絶えず目を血走らせ、陸上にあっては穴があくほどエビ・カニ図鑑を眺めていた私は、やがて経験的に、魅惑的なエビ・カニは、刺胞動物(サンゴやイソギンチャクなど)および棘皮動物(ウニ、ヒトデ、ナマコなど)の表面・内部・付近をなめるように探すことにつきる、ということに気がついた(今や変態社会では常識ですけどね…)。

 情報を得る方法がほとんど無かったかわりに、今に比べれば当時の水納島にはそのようなエビカニの宿主になりうる生き物は数多くいて、水納島のリーフの中ではナガウニはもちろん、ガンガゼ、ガンガゼモドキ、トックリガンガゼモドキのガンガゼ3兄弟が多く見られ、シラヒゲウニやラッパウニも割合多かった。

 宿主が多ければ、そこに住まうエビだって多かったのだろう、インリーフにエントリーして、最初に出会ったラッパウニをチェックした途端、一発ツモでなにやら黒くて小さいものがゴソゴソ動き回っているのが見えた。

 それが↓このエビ。

 ビジュアル的に大興奮とまでいかなかったとはいえ初遭遇は間違いなかったので、パシパシ撮ってからさっそく手持ちの中で唯一エビ情報が多い図鑑「沖縄生物図鑑 甲殻類編」のページをめくってみた。

 現像が上がってくるまでひと月くらいかかるのがフツーだった頃だからまずは記憶を頼りに調べるしかないのだけれど、ともすれば朧になる私の記憶でも、まさにビンゴ!なエビの姿を図鑑の中に見つけた。

 そこには、クロヤドリエビとあった。

 以来このエビのことは、クロヤドリエビと信じて生きてきた。

 ところが2000年に刊行されたファン待望の「海の甲殻類」では、このエビは学名はそのままに「ムラサキヤドリエビ」という名前に変わっていた。

 生物分類学の世界では命名のルールにもキビシイ掟があるために、その掟に従うことによって、慣れ親しまれていた名前が変更されるということがよくある(そのためにブロントサウルスはアパトサウルスになった)。

 きっとこのエビもそういうことだったのだろう…と納得し、以後このエビのことはムラサキヤドリエビと信じて生きていくことにした。

 ところが。

 2013年に世に出た「サンゴ礁のエビハンドブック」では、ムラサキヤドリエビとは別に、これまで存在していなかった新たな種類が掲載されていた。

 その名もツマキヤドリエビ。

 その解説で述べられていることといい、掲載されている写真といい、私がラッパウニで初めて出会ったエビも、今世紀になってやはりビーチで出会ったナガウニの棘間にいたこれ↓も、どうやらツマキヤドリエビということになるらしい。

 ところで、フィルムをルーペでチェックしても気づけなかったのだけど、デジタル画像をPC画面で見てみたら、このエビちゃんはハサミ脚以外の脚がけっこうカラフルなことに気がついた(冒頭の写真)。

 それはそうと、かつてラッパウニの上で見つけたものは、間違いなくツマキヤドリエビと自信をもって言えるものの、冒頭の写真やすぐ上の写真の子とは、ハサミ脚の形が少々異なる。

 これは成長段階とか雌雄の差によるもの…と勝手に解釈していたんだけど、ホントにツマキヤドリエビなんですかね?

 違ってたら、そっとご教示くださいませ。