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  素敵なランチを食べてすっかり満足した僕たちを乗せ、マッハKは小浜島を走る。 
 今にも零れ落ちそうなくらいの雲がどんよりと空を覆い尽くしてはいたものの、昨年のようなバケツ真っ逆さま状態にはならなそうだ。 
 小浜島はもともと農家の島らしい。 
 たしかにこれだけ平らな島だったら、耕作地に困ることはなかったろう。 
 ウミンチュが暮らす集落は海辺にあるのとは対照的に、農家の島では集落が島の中にある。 
 小浜島も小浜本集落と呼ばれる家々の集まりが、ちょうど島の真ん中にあった。 
 赤瓦や石垣が今もなお現役で、沖縄らしい家が随所にある集落だ。ひんぷんがやたらと立派な家が多い。 
 そんな集落をゆっくり車で案内してもらっていると、ひときわいい感じの四辻に雰囲気のある古民家と石垣があった。 
 へ〜と思っていたら、ガイド島Pが 
 「そこがちゅらさんでこはぐら荘になってたとこだよ」 
 へ? 
 おおっ!! 
  
 どおりでどことなく見覚えがあるような気がしたわけだ。 
 普通に人が住んでいる民家だそうだ。 
 ハブが多い水納島じゃ、こういう石垣は命取りになってしまうところだけど、毒が弱いサキシマハブだったら、どれだけ石垣の間にヘビが潜もうとも、なんのモンダイもないのだろう。 
 こんな石垣の家が他にもたくさんある。 
 となると、ここがロケ現場だなんて誰も気づけないんじゃなかろうか…… 
 と思ったら、 
  
 辻にちゃんと案内が。 
 一般民家なのであまりジロジロ観ていられないから、とりあえず写真だけ撮ってその場を去ろうとすると、後方から各員胸にバッジをつけた団体様がゾロゾロと………。 
 この集落、けっして広い道幅ではないというのに、団体客を載せたバスが巡ってきては、こうしてゾロゾロと客を降ろすらしい。 
 ちゅらさんのおかげで観光名所になった当初は、集落の道の真ん中に平気で停めるバスが続出したそうで、さすがに地元の方々も耐えかね、バスは少し離れたところに停めてもらうようになったのだとか。 
 言われなきゃわからんのか、バス……。 
 にしても、こうしてゾロゾロとやってきてはジロジロと眺めていく人たちが連日のようにやってくる家に住むってのは、どんな感じなんだろう……。 
 ひんぷんは本来魔除け(というか悪い気が通り抜けないため)の意味だけど、このおかげで観光客の視線も家まで入ってこなくて済むという効用もあるようだ。 
 人数こそ違え、シーズン中は我が家も似たようなものだから、まねしてひんぷんを作ろうかなぁ……。<どこに? 
 この集落のはずれに、こういうモノがあった。 
  
 ヘリポート!! 
 もちろん、救急搬送用である。 
 医療設備のトボシイ離島で暮らす人々にとっては、心強い存在なのは間違いない。 
 でもこれ、なにかといえばすぐさまヘリを呼んじゃう人とかいないの?? 
 「ヘリを呼ぶかどうかは医者が結論を出すようになってる」 
 なるほど……。 
 設備がたとえトボしくとも、島内に病院があるってだけでも恵まれているじゃないか、小浜島。 
 水納島の場合、いざというときは桟橋がヘリポートになるとはいえ、「ヘリを呼ぶ」という判断はいったい誰が??? 
 その後ガイド島Pは、大岳(ウフダキ)というところを案内してくれた。 
 小浜島最高峰だという。 
 それを聞いたうちの奥さんが、黙っていられるはずがない。 
 麓から続く階段を登ると、10分ほどで天辺に着くと島Pがいう。さっそく、登ってみることに。  
 上り口にあるWCで準備を整え、さあ目指せ頂上を、小浜最高峰を!! 
 ゲゲッ!! 
  
 たとえマラソン翌日の筋肉痛を引きずった体じゃなかったとしても、一瞬躊躇してしまう階段が目の前から続いていた。 
 健康体島P一家は先を行っている。 
 我々は麓に用意されてあったギンネム製らしき杖を片手に、エッホ、エッホと登山開始。 
 すると、途中こういうものがいくつも転がっていた。 
  
 見るからにナニかのフンだけど、犬でも猫でもなし、空き巣に入った泥棒ってワケでもなし、脱走した子牛がここまで逃げてきたはずもなし。 
 いったいなんのフンだろう? 
 なんとこれは、クジャクの糞らしい。 
 知る人ぞ知る、小浜島はクジャク王国。 
 飼われていたモノが野生化し、大繁殖をしてしまったという。 
 それでアヒルなみに美味しければ、増殖することなく即座に絶滅していただろう。ところがクジャクにとっては幸いなことに、 
 「クジャクは不味い」 
 のだそうな。だから彼らは増え放題。 
 ところが肉は不味くとも本人たちは大のグルメであるらしく、農作物への被害が尋常ではないらしい。そりゃあのサイズだもの、水納島の今冬のヒヨドリどころの騒ぎではないのだろう。 
 それを伝え聞いていたうちの奥さんは、是非野生化したクジャクを観たい!!と駄々をこねていたのだが、現在はなんとか増殖を抑える努力がなされているそうで、以前ほどには手軽には出会えなくなっているのだとか。 
 だから今回もここまでまったくクジャクの姿は目にしていなかったものの、ここでやっと出会えた。 
 フンに……。 
 まぁナニゴトも順序というものがある。 
 いずれ本体にも出会える日が来ることだろう。 
 そうこうするうちに、ついに到着!! 
  
 小浜島最高峰を制覇!! 
 ………って、標高99mなんですけど。 
 ここからの眺めがまた素晴らしい。なにしろ360度グルリと小浜島を見渡せるのだ。 
 が、それもこれも晴れていれば。 
 あいにくの曇天のため、脳内変換して楽しむしかない。 
 それでも、さっきまでいたはいむるぶしが見えた。 
  
 ところで、はいむるぶしといえばシオマネキのロゴマーク。 
 でも陸水環境がなさそうなこの小浜島に、シオマネキが住めるような干潟があるの?? 
 あるのだ。 
 それも、立派なマングローブ林が生い茂った干潟が。 
 どういうわけか長大な護岸が設けられて陸地と区切られてしまっているものの、たしかにそこはマングローブの密林だった。 
  
 護岸から階段で降りられるようになっている。 
 ここから見ると奥行きがさっぱりわからないけど、このあとで別の場所から遠望してみると、やや窪んだ地形のこの海岸一帯に、マングローブ林が。 
 これだったら、たしかにシオマネキもたくさんいることだろう。 
 護岸のそばでは、トントンミーがピョンピョン跳ねていた。 
 その後立ち寄ったのは、細崎集落というウミンチュの町。 
 糸満漁師が移住してきてできた集落なのだとか。 
 当然ではあるけれど、農家の集落とはまったく違うたたずまいだ。水納島はもともとは農業の島だとはいっても、誰もが海と密接に繋がった生活をしているだけに、どちらかというとウミンチュの集落のほうが我々には馴染みがある。 
 そんなウミンチュたちの漁港が、ここ細崎漁港だ。 
  
 他の有人離島の漁港同様、集落はけっして多くはないけど港はとても立派だった。 
 ホント、スロープ一つない有人離島の港って、水納島くらいなんですぜ……。 
 で。 
 上の写真でうちの奥さんが指差している防波堤。 
 これこそが! 
 「ちゅらさん」でえりぃが去りゆく船に乗っている文也を追って、「結婚しようねぇ!」と言いながら走っていた防波堤。 
 まぁしかし、世の中「ゲゲゲ」だ「てっぱん」だって言っている時代に、今さらちゅらさんでもないか……。 
 そんなこんなで、日帰り予定のために駆け足ではあったものの、島P一家のおかげで人生初の小浜島探訪を終えた。 
 連絡船が出るまで少々時間があったので、ターミナル内の小さな売店で、何か小浜島ならではのお土産はないかいなぁ……と物色していたら、 
 あった!! 
  
 くば屋ぁ製手作り「小浜島のアイスクリーム・黒ごま」。 
 フタを開けると、まるで白いドラゴンフルーツのよう。食べてみるとたしかにゴマの味! 
 美味いッ!! 
 ……でも、融けるまで固くてなかなか食えん。 
 やはりアイスは、固くもなく融けすぎてもない絶妙のタイミングで食べるのが一番オイシイ。 
 おっ!そろそろいい感じになってきた♪ 
 …と思ったら乗船開始。 
 え?え?ともさコキながらターミナルを出ると…… 
  寒ッ!!
 ターミナル内は暖房が効いているからアイスを食べようなんて気になったのに、外に出たら寒いわ、乗船している間にアイスはどんどん溶けていくわ… 
 なんとも間の悪いことをしてしまったのだった。 
 小浜島を後にし、再び石垣に戻ってきた我々は、島Pに送ってもらってとあるリゾートを目指した。 
 はいむるぶしには泊まれない我々が、のんびりゆっくりぐーたら過ごすことができる魅惑のリゾートとは??  |