1・始まりはキレンジャー

 ただでさえ時化に弱い水納丸だというのに、このオフシーズンの連絡船は、例年以上に欠航率が高くなっていた。

 2月10日の朝イチの連絡船で島を出て、その日午後イチの飛行機にて羽田へ向かう予定の我々としては、連絡船にはなんとか10日の朝イチだけでも運航していただきたいところだ。

 天気予報上の雲行きは10日よりも9日のほうがアヤシく、すでに8日の時点で、前日9日は朝イチの一往復のみで終了と決まっていた。

 でも時化は長引くことはなさそうで、10日朝には回復していそうな気配。

 これなら朝から通常運航かも?

 が。 

 変更が利かないエアチケットという我々の事情だけに、船長カネモトさんとしては、9日朝の段階で安易に10日の朝の便を確約するわけにはいかなかった。

 万全を期すなら9日のうちに島を出ておくべし、という結論を船長カネモトさんが電話で伝えてくれたのは、9日朝7時のことだった。

 朝イチのみの運航が確定しているため、島発の便は9時のみ。

 これが寝耳に水なら、2時間で旅行の用意をイチから調えるのは到底不可能だったろう。
 もちろんのこと想定の範囲内なので、すでに用意してある荷物を手早くまとめ、スタコラサッサと島を後にした。

 ただ、前日のうちに不在になることを伝えておこうと思っていたあの方にもこの方にも挨拶ができなかったため、他の誰かから事情をお聞きになるまでは、我々は夜逃げしたと思われていたかもしれない…。

 というわけで、本来の予定よりも24時間早く島を脱出することになったのだけど、ケガの功名というかなんというか、この余分な1日のおかげで、旅行中にも手軽にメールチェックできる装備を身に着けることができたのは幸いだった(余分な1日についてはこちらをご参照ください)。

 島を9時に出ても間に合う便を予約してあったから、朝8時過ぎに本部の秘密基地を出たら余裕綽々で那覇空港に到着(ちなみに10日朝の海はベタ凪でした…)。

 とっとと機内預けの手続きを済ませた後は、当然ながら……

 黄金のブラウマイスター生@キリン・ビア&スナック♪ 

 そのあと車の運転が控えていない場合、我々の空港におけるマストといっていい店である。

 旅行のたびに言っている気がするけど、キリンの生ビール伝道師(正確な名称ではありません)がカウンターで注いでくれる泡のキメ細かいことときたら!

 その昔、アルプスの少女は雲の上に乗っていた。
 ワタシはこの泡のベッドで夢を見てみたい…。

 ところでこのキリン・ビア&スナック、本来はこういったキリンが誇るビールを飲ませることが主目的のはずなのに、空港レストランコーナーに居並ぶ他飲食店とのランチ戦争に参戦して以来というもの、訪れるたびに食事メニューが大幅にアレンジされるようになっている(我々の来店が年に1度だからともいう)。

 そのため、ランチだけを所望してビールなど一切飲まないお客さんが増えているという、なんだか本末転倒的な現象も起きているものの、おかげでこういった珍品もメニューに加わっていたりする。

 春巻きタコス(正式名称は知りません…)。

 ビールのアテには最適でございます。

 中華なメヒコをつまみながらグビグビと生ビールを流し込んでいるうちに、メインディッシュが登場。

 いつからだったか、生地から焼き方からトマトソースから、妙に美味しく変身しているマルゲリータ。

 そして、この先に待ち受けているであろう酒タダレの日々に供え、今のうちからディフェンシブ・キレンジャー御用達のカレーで、肝臓の鉄壁防御。

 といいつつ、あっという間に一杯目が無くなってしまったから……

 一番搾りスタウト。

 まぁ昼間から飲むにはいささか量が多すぎたか…という気がしなくもないものの、体が求めている時はたいてい大丈夫なのだ。

 それになんといっても、飛行機の中でスヤスヤ眠れるし…。

 …と安心していたら、例によって「使用機材」の到着が遅れたために、那覇発は定刻より1時間近く遅くなり、羽田着は午後4時過ぎになってしまった。

 眠らせてくれすぎ。

 夕方もこんなに遅くなってしまうと、いくら連休中とはいえ、空港リムジンバスがゆく首都高は混むんだろうなぁ…

 …と思いきや。

 久しぶりに窓外の「大都会」を観賞しようとちょっぴり楽しみにしていた田舎者が眺める景色は、延々とトンネルの中なのだった。

 地上に出てきたのは板橋あたりだろうか。

 こんなトンネル道、いつからできてたの??

 この首都高ワープトンネルのおかげか、連休だからか、空港リムジンバスはほとんど渋滞に巻き込まれることなく、運転士が当初告げた到着予定時間よりもかなり早く西武線所沢駅東口に到着。

 所沢駅東口といえば、かつては球団事務所くらいしかなかったのに、駅ビルがやたらと立派になって、なんだか別の街みたい。

 行く先々で浦島太郎気分を味わいつつ、やがて到着した元加治駅は……

 まったく変わっていなかった。

 小刻みに目まぐるしく街が変わっていく世の中にあっては、ある意味ホッとする風景だ。

 さてさて、オタマサの実家に着いたらひとっ風呂浴びさせてもらって人心地つけて、それからゆっくり晩酌でも……

 …というわけにはいかない。

 というのも、2泊の予定で訪れている今回は、この日が日曜、翌日が祝日で、オタマサが帰省のおりにはけっして外せない「鳥吉」は、なんと祝日休みなのである。

 すなわち、鳥吉に行くならこの日しかない。

 ワタシとしては、なにもそこまで無理無理の予定にしなくても…という気も多少はあったのだけど、事前にオタマサが実家に「鳥吉に行きたい!」となによりも最優先事項としてリクエストしていたらしく、気を遣ってくれた若夫婦が我々の到着見込みに合わせて予約してくれていたのだった。

 というわけで久しぶりに……

 鳥吉で乾杯!(父ちゃんは我々同様昼間にも酒席があったそうで、写真を撮るころにはすでに撤収してます)

 小さかった姪っ子たちも、今ではJD&JK。

 我々も年を取るはずである。

 いやあそれにしても、やっぱり鳥吉の焼き鳥(含む焼きとん)は美味いッ!!

 しかしその味は変わらないけれど、お店が玄関から店内まで全面的にリフォームされていてビックリ。

 鳥吉でも浦島太郎になってしまった。

 聞けば、マスターが体調を崩され、表舞台から身を引いておられるそうで、言われてみれば厨房にも、若いスタッフの姿が見えていた。

 おまけにこんなものまで登場していた。

 鳥吉オリジナルボトルの焼酎。

 ラベルを見ると宮崎県の有名酒造所、神楽酒造の焼酎のようだ。

 生ビールが美味い、焼酎が美味い、焼き鳥も美味い。

 酒が進まぬわけがない。

 鳥吉がお開きになったあとは、オタマサの実家にて2次会。

 埼玉へ帰省するのは2年に1度ともなれば積もる話もたくさんあるのは当然で、また酒を勧めてくれるものだから(間髪を入れずグラスに酒を足す弟氏のリズムは、まるで絶頂期のごっくん隊リーダーT沢さんのような勢い)、ついついついつい過ごしすぎてしまった。

 気がつけば午前様。

 まだ旅の途についたばかりだというのに、もうゴールは目前!のような気分になってきた……肝臓だけが。