10・黄昏の出雲大社

 お宮通りをそのまま歩いていくと、やがて先に紹介した四つ角に合流する。

 そして四つ角を左に曲がると、出雲大社へと続く神迎の道になる。

 神迎の道も、お宮通り同様趣のある佇まいの家や店が多く、おもてなしの一輪挿しがそこかしこに飾られている。

 我々がこの日宿泊する宿はこの神迎通りにある。

 なのでチェックインすべくいったん宿に入り、お部屋に案内してもらうのもそこそこに……といいつつ、女将さんに素鵞社の砂のことを教えていただいたのはこの時のこと……、再び散歩に繰り出した。

 体力的にはもうそろそろ風呂に入ってゆっくり休憩……と行きたかったところながら、夕刻の出雲大社も観てみたかったのだ。

 なにしろ我々が泊まる大島屋旅館さんから出雲大社正門までは、歩いてものの5分もかからない。

 その昔ローマに滞在していた時、宿から近いのをいいことに何度も何度もトレビの泉を訪れたのと同じように、出雲大社に何度も通える距離なのである。

 というわけでやってきた夕方の出雲大社は……

 誰もいない。

 いない。

 いない。

 ……いない。

 閑散期の平日のこと、昼間も混雑というほどの人の入りではなかったけれど、こうまで誰もいないと周囲のすべてがよりいっそう神々しい。

 実は平成の遷宮工事がまだ終了しておらず、日中は境内西側で重機が頑張っていた。

 それが午後5時を過ぎた今はすっかりヒッソリーヌで、ただ野鳥のさえずりが聴こえるのみ。

 静かだ……。

 神社とはかくあるべきかも。

 ただし、このステキな時間帯には弱点がひとつある。

 午後4時30分(冬期)を過ぎると、本殿裏側に回る回廊は立ち入り禁止になってしまうのだ。

 うーん、ひっそり静まりかえった本殿の佇まいや素鵞社を観てみたいなぁ…。

 警備員さんがいたので尋ねてみた。

 朝も裏側には回れないんですか?

 「朝は6時から大丈夫ですよ」

 お!

 ご本殿ヒッソリヒッソリーヌは、明朝に期待しよう。

 黄昏の出雲大社をあとにし、再び正門前から神迎の道をゆく。

 この時点ですでにだんだんわかってきたけれど、宿から正門まではたしかに近くとも、そこからの参道が長いから、歩く距離はかなり長い。

 すでにこの日は相当歩き回っているから、そろそろこのへんで宿でゆっくり……

 ……したいところながら、まだ我々には大事な用事が残っていた。

 今回の旅行では昨年の高知旅行とは対照的に宿で食事をいただくことにしているため、食事内容によっては飲み足りない、食べたりないなんてことになるかもしれない。

 そんな時のために、部屋飲みセットをスタンバっておかなければ。

 酒はもちろん地酒でいい、肴は炙ったイカでいい……って、地酒はたっぷりあっても炙ったイカはないので、スーパーで何かテキトーに地のものを。

 四つ角のちょい先にスーパーと酒屋があることは先の散歩ですでに確認しており、酒屋がこの時間も開いていることも店主に確認していたし、スーパーは一度覗いて買うモノのめどは立っているから、買い物はとっとと済むだろう。

 ……と思いきや。

 目当ての酒屋「山崎酒店」のご主人がたいそう親切な方で、部屋飲み用に300ml瓶程度の地酒を1、2本求めていることを告げたところ…

 出雲の地酒の有名どころをたくさん試飲させてもらっちゃった…。

 それぞれのお酒について熱く語るご主人、なんだかご本人もすでに一杯二杯ひっかけているっぽかったおくつろぎタイムにもかかわらず、300mlの小瓶を買う程度の客にご親切にどうもありがとうございます。

 試飲の結果、えりすぐりの2本を購入。

 ご主人も一緒に写ってくださいよ、とお願いすると、

 「いやいやいや、もっとシャキッとしているときに!」

 といって背を向けてしまった。

 やっぱけっこう召し上がってたんだはず(笑)。

 今宵は大島屋旅館泊である旨告げると、

 「あ、そこの女将さん、小中高の同級生ですよ!」

 ご主人も地元の方なら、女将さんも地元の方、それも旅館の娘としてこの地で育った方だったのか。

 地元愛に満ちた地酒のお店、山崎酒店。

 出雲でお酒に困ったら、迷わずこちらのお店にどうぞ。

 四つ角から市場通りに入ってすぐ、千鳥そばのちょい先にあります。

 このあと、このお向かいにあるスーパー・ラピタ大社店にて肴を購入。

 買い求めたのは練り製品ながら、鮮魚コーナーに並んでいた地魚のひとつが初めて目にする地方名で、かなり気になったのに何て名前だったか忘れてしまった。

 四文字だったと思ったけど、なんだったかなぁ……。

 さてさて、これで食後の心配は無くなった。

 後は今宵のメインイベント、風呂&食事が待っている!!