15・アクアライナー
過去の旅行記でも何度か触れたとおり、国内を旅行する際、目的地や飛行機、宿の手配はワタシがするのだけど、途中陸路海路の移動がある場合は、時刻表マニアのオタマサが嬉々として計画を立てる。 今回の場合、当初の予定ではここ出雲大社からバスに乗ってJR出雲市駅まで出て、そこから電車に乗り換え次なる目的地を目指すことになっていた。 大きな荷物をガラガラと引きずって歩くのが面倒だったから、宿からすぐ近くにあるバス停からバスに乗るほうが便利だろうとの配慮だ。 乗るバスの時刻も決まっていた。 しかし。 散歩中に立ち寄った一畑電車の駅、そして単線をゆく一両編成の車両を見てしまったオタマサは、にわかにムクムクと鉄旅願望が芽生え始め、結局一畑電車に乗って電鉄出雲市駅まで行くことになってしまった。 というわけで、昼食後宿に立ち寄って荷物を受け取り、午前中訪れた一畑電車の大社前駅を再び目指す。 結局ガラガラガラと大きな荷物を引きずって歩くことになってるんですけど……。 もっとも、当初の予定のバス停から大社前駅までさほどの距離があるわけではなく、再開発後の神門通りは歩道も広く石畳様の道はなめらかで段差もないから、スーツケースを引きずっていてもほとんどガラガラしないほどで、まったく不便を感じずに済んだ。 単なる冷やかし客だった先ほどとは違い、今度は利用客として駅舎に入る。 一畑電車の切符売り場は、券売機だ。
なんだか食堂で定食でも買うような雰囲気……。 切符購入後、まだ電車の時刻までは間があったので、ベンチに座りつつ昭和モダンな構内を眺めていると、気になる貼り紙に気がついた。 その名もばたでんNEWS。
毎週金土日曜日の試乗体験のほかに、デハニの運転競技大会なるものも開催されているそうで、賞状を手にしておられる方は、つい最近開催された第3回大会の優勝者なのだとか。 記事いわく、参加者の皆さんは「充分に気合いが入りとても真剣な顔つき」だったそうな。 世の中にはたくさんいらっしゃるんですねぇ、運転鉄。 でも我々はなんちゃって乗り鉄、飲み鉄で充分です、ハイ。 といいつつ、「充分に気合が入りとても真剣な顔つき」で飲み鉄になるオタマサではあるけれど……。 やがて時間となり、改札が開いた。 ICOCAだのSuicaだのといったICカードは当たり前、たとえ切符でも自動改札機という世の中になってしまって久しいというのに、ここ一畑電車大社前駅の改札は、なんと……
駅員さんによる入鋏スタイル!! 懐かしい!! いったい何年ぶりだろう。 切符に刻まれた鋏のあとが、なんだかものすごく新鮮だ。
リアル三丁目の夕日。 2両編成の客車はデハニの中とはまったく違い、プライベートスペースが優先された作りになっていた。
こういう作りだと尾行するのも大変だろうなぁ、刑事さんたち。 そんな客車で我々が座ったのは、ある意味ポールポジションの特等席。
これだったらいっそのこと、進行方向に向いて座れるカウンター席にしてくれれば、ゆっくり飲みながら景色を眺めていられるのに(九州あたりにはそういう客車もあるらしい)。 もっとも、乗車時間はせいぜい10分チョイなので、たとえカウンター席でもゆっくり飲んでいられないけど。 ともかくもポールポジションからの眺め。
やっぱり単線って素敵だ。 こういう席に座っているものだから……
リアル中井貴一がすぐそこに。 こちらの運転士さんが何歳でこの職に就かれたのかは知らない。 でもお顔を拝見できたことにより、見逃しかけていたジジツに気がついた。 この運転士さんて、先ほど改札に立っていた駅員さんなのでは?? ミラーに映る姿は、どう見ても同一人物。
人件費抑制の流れのなかで、よくもまぁ切符入鋏係の駅員さんまで確保できるものだなぁと感心していたのだけれど、あれって出発する電車の運転士さんがそれぞれやってるんですかね?? 他人の空似かもしれないから詳しいことは不明ながら、ひょっとすると映画「RAILWAYS」を観れば判明するかも。 一畑電車大社線は、大社前駅と川跡(かわと)駅を結ぶ路線なので、電鉄出雲市駅に行くには、終点の川跡駅から乗り換えなければならない。
川跡駅は一畑電車の重要な分岐点の駅で、ここで松江・宍道湖方面に行く路線、出雲市街地に行く路線、そして出雲大社方面に行く路線が合流している。
この川跡駅の3番ホームから、電鉄出雲市駅行きに乗り換える。
川跡駅から電鉄出雲市駅までの乗車時間は9分。 それまでずっと水田地帯だった景色がにわかに都会に変わっていった。 都会にある電鉄出雲市駅は、よりいっそう立派な姿だ。
一畑電車電鉄出雲市駅とJR出雲市駅は同じ建物ではないので、改札を出てから駅まで歩かなければならない。 とはいえ2分ほど歩くだけで、JR出雲市駅に到着。
出雲大社仕様の相当立派な玄関だった。 こういう作りの場合、柱などは木に似せて作ったコンクリートというのが定番なのに、こちらの玄関は……
ホントの木なのだった。 もっとも、もちろんのこと太い柱じゃなくて、表面に板をはりめぐらせてあるだけっぽいけど、ホントの木にこだわるあたりが素晴らしい。 でもせっかくこんなに立派な玄関をこしらえておきながら、木材のヤニ止め処理をする予算はケチッちゃったんだろうか、出雲市都市計画課。 あと一歩の手間をかけたがらない、それがお役所。 乗り換え時間にはわりと余裕があったのだけど、切符を買ったあとすぐにホームに降りて電車を待つことにした。 いや、JRのこのあたりの線路は、電車じゃなくてディーゼル機関車か。 まぁ、一般社会人はそういう細かいことを気にしてはいけない。 ほどなく、我々を次なる目的地に運んでくれる、快速アクアライナーが到着した。
石見神楽デザインの車両、超ハデ。 石見神楽といえば神話を題材にしたものが主で、いくつもある演目のうち、ヤマタノオロチと戦うスサノオを主人公にしたものも相当有名だそうな。 大都会(?)出雲市駅を出たアクアライナーの窓外は、あっという間に田園風景になった。
今どきこんなに広い水田地帯を眺めるには、こういうところまで来なければ無理なのかも。 有名ブランドじゃないのかもしれないけど、出雲の米も美味しかったです。 さて、アクアライナーで山陰本線を西進するので、当然ながら座席は右側、すなわち海側を確保していた。 といってもオタマサ計画のこと、本人が思っているほどには海は近くないかも…… というのは、まったくもって見当はずれな予想だった。 山陰本線、海が近い!!
近い!!
近い!!
そして屋根が……
赤い! 三州瓦、淡路瓦と並び、日本三大瓦のひとつとされる石州瓦である。 江戸の昔から石見地方の地域ブランドとして確立している瓦だそうで、独特な赤い色は、出雲地方に産する鉄含有量の高い土を釉薬として使用しているからなのだとか。 このあたりの海岸線は、島根県全体が見られるような地図だと一直線に見えるけれど、グーグルマップなどで拡大すると、とんでもなく細かく入り組んでいることがわかる。 そんな入江のうち、ある程度土地が広いところごとに集落や漁港があって、窓外の景色を観ながら石丸謙二郎化している目に飛び込んでくる、赤い屋根の集落が素晴らしい。
もっとも、石州瓦といえば赤、というイメージが強いけれど、実は旧大社駅の真っ黒な瓦も石州瓦。 このような海辺の集落の中にも、黒瓦率が高いところもある。
集落によっては、見事にほぼすべてが真っ黒というところもあった。 集落全体が喪に服しているような妙な迫力があって、赤い瓦を見慣れてしまうと一種異様ですらある。 そんな海辺を眺めながらの50分、旅のお供になったのはこちら。
出雲地方の米どころ、奥出雲で作られている名酒「七冠馬」。 七冠馬とはもちろん、シンボリルドルフのことである。 なぜに奥出雲の酒造所が千葉の牧場の名馬の酒を? 山崎酒店のご主人に教えてもらった理由はけっこう有名な話のようで、ネット上でもいろいろ語られているエピソード、それもまた出雲の縁結びの力なのかも。 旨い酒には美味い肴も。
山陰の味「のどぐろ」。 これも前日のうちにスーパーラピタで買っておいたもの。 のどぐろといつつ、練り製品にのどぐろがいったいどれほど使用されているのかはわらかないけど、なんだかクセになるほどに美味しい。 景色に酔い、酒に酔い、いいコンコロモチになったところで、アクアライナーは目的地に到着。
いったいここはどこだ? ここだ。
温泉津駅♪ |