12・葉牡丹

 ここ高知の街には、近年できたひろめ市場だけではなく、昔から昼酒OKな居酒屋があるという。

 その名も葉牡丹。

 かの有名な酔っ払い御用達番組、吉田類の酒場放浪記で、吉田類が里帰りした際に立ち寄った店でもある。
 創業60年超、ウソかマコトか、現在の高知市街で2番目に古い居酒屋だという。 

 高知市街で酒を美味しくいただいている我々としては、避けては通れない店のひとつになっていた。

 だからこの日は、なにをさておいても

 昼は葉牡丹で!

 というのが大前提で、そこに他の予定を入れたのだから、レンタカーを朝から借りたからといって、いつまでも車を乗り回している場合ではないのである。

 というわけで、やってきました葉牡丹。

 …って、もうすでに何度もこの近辺を歩いてるんですけどね。

 ちなみに、夜はこんな感じになる。

 味のある古風な作りの建物なんだけど、大きなビルに挟まれて肩身が狭そう。
 しかも隣の高知銀行だかなんだかが工事中なので、市街屈指の老舗店舗が、なんだかガード下的なイメージになっていた。

 ともかくも引き戸を開けて、暖簾をくぐる。

 周りのビルが大きいから意外に思ってしまったことに、店内は2階席もある広々とした作りで席数はかなりあり、まだ昼前だから空いている。

 カウンター席を選ぶと、フツーに昼食を摂りに来た客と思われていたからか(定食メニューや丼物メニューもフツーにある)、やや意外そうな顔をする女将さん。

 そうです、我々は「飲み」に来ているのです。

 なにはともあれ初葉牡丹に乾杯。

 こちらのお店の生ビールは、アサヒかプレモルを選べたので、プレモルをチョイス。
 ちなみにサントリーには、「ビールいうたらワシじゃき!」といった土佐言葉のキャッチコピーはない。

 そしてもちろん、なにはともあれカツオのタタキ!

 withウツボのタタキ。

 高知ではなんでもタタキになるのである。

 冬場でも大量消費されるカツオのタタキの正体を昨夜うかがってしまったとはいえ、とにもかくにもこの「タタキ」の調理法はこちらでしか味わえないから(それでも店ごとに違う)、カツオのタタキビギナーのワタシには充分に美味しい。

 ウツボのタタキは、ゼラチンの食感を楽しむって感じ。
 身はわりと淡泊なくせに、ゼラチン質がやる気系に導く。

 その他、頼めばすぐに出てくるのれそれ♪

 どて焼き、

 それにモツ煮のポン酢風味

 などを。

 のれそれはやはりそれなりの値段がするけど、どて焼きやモツ煮といったカウンターで用意されている系は、どれもこれも破格の安さ。

 こうなるといつまでもビールを飲んでいる場合ではないから、さっそく日本酒をお願いしてみる。

 土佐にこの酒ありと知られる司牡丹に…

 豊の梅のおり酒。

 昼から酒といったって、まぁ軽く一杯程度で……のつもりだったのに、なんだか本格的に飲みモードになってしまった。

 席数の多い店舗でランチメニューまで取り揃えているくらいだから、スタッフの数は多い。
 厨房にも各種専属スタッフがいらっしゃるようで、ちょうどワタシの席から見える厨房の奥では、スレンダーな女性がキャベツ千切りマシーンと化していた。

 それはそれは鮮やかな手つきで、ときおり他のスタッフと会話をしながら、目線まで他所に向いているというのに、手元ではしっかりとキャベツが千切りになっていく。

 大きな器が千切りで一杯になるまでずっと同じ作業をしていたと思えば、今度は小麦粉をひたすらネリネリしていた。

 そんな様子も肴にしつつ、こうなるともう1品2品ほしくなり、沖ウルメの干物を焼いたものに…

 メヒカリ。

 メヒカリもまた深海魚らしいのだけど、なにやら顔がとてつもなく怖いからという理由で、干物が売られている店頭でもこういう居酒屋でも、必ずといっていいほど頭がついていない。

 あのヤケドの形相でさえOKなのに………

 いったいどんだけコワイ顔してるんだろう、メヒカリ。

 メヒカリ対沖ウルメということでは、干物を焼いたモノに関するかぎり、メヒカリの勝ちってところか。

 そのヤケドちゃんも再び。

 やっぱり怖い顔。
 怖い顔のくせに、まるで食べてもらうために生まれてきたかのような食感と味という、実はいいヒト、なのである。

 勢い余ってカキフライまで頼んでしまった。

 大好物なのに百発百中でアレルギーを起こすためにカキを食べられなくなって久しいオタマサだから、ワタシにとっても普段は縁遠いカキフライ。
 個人的には、年に1、2度あるかないかのスペシャルメニューなのである。 

 どれもこれも調理がどうとか味がどうとか、特別にスペシャルななにかがあるというわけではけっしてないんだけど、なんだかとっても楽しい昼のひととき。

 そこに最も欠かせない肴は、なんといっても隣にお座りになった常連さんたちだ。

 気がつけばフツーに飲み友達になってしまう高知の酒社会なので、隣りに座った年配の方が「高知のヒトじゃないよね?」的に声をかけてこられたのをきっかけに、その方は実はここ葉牡丹の40年もの長きに渡る常連さんである、ということをいつの間にか知るところとなっている。

 そしてなんとも驚いたことに、彼は御年80才!!
 しかもお隣の南国市からだとか。

 「昔は車で通ってたけど、今は電車!」

 と笑いながら、手にした骨付き鳥もも肉にガシガシかぶりつく肉食系である。

 こんなに飲めて食べれたら、80になっても楽しかろうなぁ!!

 ほぼ同年齢というさらにその隣の方は、その昔は茨木市の総持寺にいたことがあるということで、高知の居酒屋でなぜだか北摂のローカル話になってしまった。

 なんだか楽しいぞ、葉牡丹の昼酒。

 妙にショボくれた老後の世界ばかり見せつけるマスコミ映像とは違い、ゲンジツのなかにはとてつもなくうらやましい老後もあることがよくわかる。

 かといってカウンターには高齢者ばかりが集っているわけではなくて、お仕事上平日が休みでこういう時間帯でも飲むことができるらしい若者もいる。
 我々が遠路はるばる沖縄から来ているのに昼間から酒を飲んでいる、という話を知った彼は興味津々といった呈で、カウンターの向こうから身を乗り出しつつフツーに話しかけてくるのであった。

 これが「おきゃく」なのだなぁ…。

 せっかくだから、みなさんに一緒に写ってもらった。

 昼間の店を切り盛りしている元気な女将さん(?)も愉快な方で、彼女も話に加わるカウンターは、とても正午前後とは思えないほどの酒席だ。 

 後日、自身も通ったことがあるという、とある居酒屋の大将が、葉牡丹を評していわく

 「旨い不味いなんて細かいことに関係なく、とにかく一度は行かなきゃいけない店!」

 力強く断言されていた。
 その言葉に激しく納得したのは言うまでもない。

 葉牡丹。
 
 桂浜が観光客のマストな名所であるならば、ここ葉牡丹もまた、酒飲みが高知でスルーするわけにはいかない土地の「顔」なのである。

 シメに、ちらし寿司と名のついた品をハーフでお願いした。

 ほどよく漬けになった魚が、酢飯の上にテンコ盛り。

 これ、魚はなんですか??

 「なにかなぁ?いろいろ!」

 アバウトな豪華さが素晴らしい。 

 充実した夜を過ごしたような錯覚を覚えつつ外に出てみると、まだ13時過ぎの明るい空が。

 前日駅で確認しそびれたことを再確認するついでに、酔い覚ましをかねて高知駅まで散歩する。

 駅構内の土産屋にてローカルスイーツを購入し、日当たりのいいベンチで食べてみた。

 ウワサに名高い、ミレービスケットアイス。

 「まじめなおかし」っていうのは元祖ミレービスケットのキャッチコピーだ。

 朝の桂浜で初めて食べたミレービスケットが、高知アイスとコラボした変化球系バリエーションである。
 
 フタを開けてみると……

 ビスケットが載っているだけだった(アイスの中にも入ってます)。

 冗談なのか??

 と思いきや、塩味が利いているビスケットだから一緒に食べると塩ミルクアイスのようなもので、ビスケットとともにアイスを食べれば、森永のビスケットサンドアイスのような、なんだか得した感もある。

 フム、たしかに「まじめなおかし」だ。

 ちなみに、絵柄をみれば言わずもがなだろうけど、このミレービスケットのキャラクター・ミレーちゃんも、故・やなせたかし氏の手によるもの。

 これほどまでに故郷で仕事をしている有名作家を、ワタシは他に知らない……。 

 一方ぼうしパンは…

 こまめに成形しないままの商品といってしまえば身もフタもないこのご当地ソウルお菓子、その取り忘れたかのような耳の部分の食感がサクサクしていて香ばしく、フワフワの本体と2種類の食感を楽しめるスグレモノだ。

 その他芋ケンピなど、昔から愛されているお菓子類が今もなおベストセラーのまま、というローカルお菓子がとっても多い高知県。

 コンビニの増殖で全国区のお菓子にいくらでも席巻されそうなものなのに、今に至るまで素朴なお菓子が生き続けているのは、それだけご当地ラブな方が多いということなのだろうか。

 ケンタッキーが流行らないドイツとか、マクドナルドがいつも空いているイタリア、みたいな雰囲気だ。

 その後いったんホテルへ戻り、下調べしておいたコインランドリーで洗濯タイム。

 荷物を極力減らすためには、旅の途中の洗濯は欠かせない。

 あらかじめ付近のコインランドリーの店舗の場所をいくつか調べていたところ、ホテル室内のテレビを利用する形で閲覧可能なインフォメーションに、ホテル近隣の地図が紹介されており、そこにはちゃんとコインランドリーもあった。

 ホテルのすぐ裏の通りだから、これまでのように大きな袋を抱えながら遠くまで歩いて行ったり、レンタカーに載せて行ったりする必要が無いのがありがたい。

 洗濯終了を待つ間、街中をまた散歩してみる。
 いろいろなチンチン電車を眺めたり、はりまや橋をまた観たり、再び宮田小鳥店で鳥と戯れたりしていると、あっという間に洗濯終了。

 乾燥終了後のことはオタマサに任せ、ワタシは一足早くホテルに戻って昼寝。

 夜に備えるのである。

 この日の夜は、どこも予約をしていなかったから、何時までにどこそこへ、というしばりは無い。

 6店ラインナップしておいた「行ってみたい夜の店リスト」のうち2店しかまだクリアしていないわけだから、4店舗候補があれば、平日のこと、開店時刻に行けば、きっとどこかしら空いているだろう。

 ただ、モンダイが。

 昼寝もシャワーも済ませてスッキリした午後5時過ぎ、普段ならすっかり腹が減って悶絶状態寸前になっているはずの時刻になっても、いっこうにお腹がすく気配がない。< そりゃ当たり前だ。

 かといって腹が減ってからスタートしたのではどこも満席になっているかもしれず、ここでグズグズしているわけにもいかない。

 まぁこの日は昼間にメインイベントを過ごしたようなものだから、今宵は軽く一杯程度にするかぁ、と、気軽にホテルを出た我々だったのだけど。

 まさかメインイベントが今宵に待っていようとは…。