水納島の魚たち

ハクセイハギ

全長 35cm

 ハクセイハギは、ソウシハギほどではないけれどけっこう大きくなるカワハギの仲間で、リーフの上で小魚たちに混じり、ホンワカしていることが多い。

 こんな顔をしてホンワカしているわりには警戒心は強く、そうやすやすとは近寄らせてはくれない。

 仲良くペアでホンワカしているところを撮ろうとしても、近寄ると逃げてしまうものだから、遠目から邪魔しないようにと気を遣うと……

 手前にいる他の小魚に邪魔をされてしまうのだった。

 プカプカしているときは滅多に立てることはない第1背ビレも、ホンソメワケベラにクリーニングしてもらっている時などにはピヨヨンと立ててている。

 それでも警戒心は強いから、たとえホンソメワケベラにクリーニングしてもらっている時でさえ、周囲への警戒は怠らない。

 そんなに警戒心が強いわりには、食事の際はけっこう大胆で、何を目当てにしているのか、サンゴを勢いよくバリバリボリボリ齧りまくっている。

 ポヨヨ〜ンとしているように見えて、ハクセイハギの歯は不気味なほどに存在感がある。

 けっこう口を半開きにして泳いでいることが多いハクセイハギ、なにげにこの不気味な存在感を醸し出す歯が武器なのかもしれない。

 こんな歯で噛み砕かれるものだから、この時齧られていたハナヤサイサンゴはというと……

 先端が白くなっている部分が、ハクセイハギに齧られたところ。

 リーフ上のサンゴを眺めていると、台風が来たわけでもないのに妙にその群体だけ枝がボロボロになっているミドリイシを観ることがある。

 かねがね首を捻っていたところ、その原因のひとつがこのハクセイハギであることを知った時は驚いた。

 まるでチエちゃんの親友のヒラメちゃんが塩せんべいを食べる勢いで、テーブル状に育っているミドリイシのひとつの群体に執着し、枝という枝をバリバリ齧っていたのだ。

 ↓この写真のテーブルサンゴも、一部剥げたように損傷しているところは、おそらくハクセイハギがガシガシ齧った痕と思われる。

 目立つけれど個体数はそれほど多いわけではないハクセイハギ、これがテングカワハギ並みに団体さんになって行進していたら、リーフ上のサンゴたちは大変なことになってしまうだろう。

 そうはならないような個体数の配分。

 自然は、そーゆーふーにできているのだ。

 ところで、昔からハクセイハギの名の由来が不思議で仕方がなかった。

 体後半部に見られるシワのような縞々模様が、ちょっと出来の悪い剥製チックだから?

 という推測は見当違いも甚だしい。

 実はこのハクセイハギ、幼魚の頃は黒っぽい地に細かい白点ビッシリの模様で、その点々を「星」に見立てたうえでの「白星(ハクセイ)」ハギなのだとか。

 これがまたオトナの姿からは想像もできない可愛い系のチビターレで、見たい観たい会ってみたいと思わず駄々をこねたくなるほど。

 でもあいにくチビターレは流れ藻など洋上を漂うものに寄り添って生活するらしく、オトナがいるような環境で出会うのは難しそうだ(台風後の桟橋脇はチャンスかも)。

 ネット上に転がっている、幼魚模様をしたハクセイハギを観ていると、中には手のひら大のサイズなのに幼魚模様の子もいた。

 リーフ上でも手のひら大くらいの若魚を稀に目にすることがあるけれど、彼らはこんな感じだ。

 オトナに比べれば可愛らしくはあるものの、「白星」は跡形もない。

 同じサイズでも、リーフ上にたどり着いたものはオトナの道を歩み始めているのに対し、いつまでも流れ藻に頼り続けているものは長いモラトリアム期間を過ごしているということだろうか。

 たくましくも健気にオトナになろうとしている彼には敬意を表しつつも、できることなら「白星」のままでいてほしかった……。

 追記

 今年(2019年)1月、リーフ際で上の写真と同じくらいの小さなハクセイハギに出会った。

 最初は表に出ていたのだけれど、近づくと警戒して岩の隙間に逃げ込み、まったく出てこない。

 覗いてみると……

 アッ!!白星模様が!!

 意地でも外に出ないぞ、と身構えている警戒心満々状態を示すものなのか、外に出ているときはまったく無かった無数の白星が、濃い目に変わった体にクッキリと浮かび上がっていた。

 このサイズの頃は、体の色を幼魚バージョンからオトナバージョンに自在に変えられるらしい。

 全身余すところなく…というわけにはいかなかったものの、とりあえずハクセイハギの白星模様を観ることができてよかったよかった。

 追記(2020年9月)

 今年(2020年)、ほぼオトナサイズにもかかわらず、白星模様を出しているハクセイハギを見た。

 ひょっとして、夜寝ているときは白星模様なのか??

 それとは関係ないけれど、この年の7月のこと。

 いつものようにリーフの上に、ハクセイハギが仲良くペアでいた。

 ただ、その様子がいつもと違う。

 リーフの上には生い茂るサンゴの合間に、スポンジのようにも苔のようにも見える質感の海藻がよく生えているのだけれど、この時のハクセイハギのペアは、その海藻にやたらと執着していたのだ。

 すぐそばのヘラジカハナヤサイサンゴを縄張りにしているイシガキスズメダイから何度も剣突を喰らっても、頑としてその場を離れようとはしないハクセイハギの目は、双方ともなんだかテンパっているように見える。

 こういう目をしている時の魚といえば……。

 …と考えているうちに、やおらペアのうちの片方がお腹をその海藻にあてがい、しばらく同じポーズのまま静止していた。

 その顔は恍惚としているようにも見え、あえて吹き出しでセリフを付け足すなら

 「アヘ〜……」

 といったところ。

 その後ハクセイハギのペアはその場を去っていった。

 するとその海藻に……

 たちまち群がる他の魚たち。

 ヤマブキベラときたら、顔を奥まで突っ込んでいる。

 普段彼らがこの海藻をエサにすることなどまずなく、海藻以外の何かエサになるものが海藻の奥にある様子がうかがえる。

 それってつまり………

 ハクセイハギの卵??

 ひょっとして先刻のハクセイハギたちの行動は、産卵だったのか???

 そういえば、以前もこの海藻にやたらと執着しているいろんな魚たちの集団を観たことがあった。

 この前段階を観ていなかったものだから、なんでだろうと当時は不思議に思ったものだったけれど、これも場所的にはハクセイハギがいてもおかしくない浅さだ。

 撮影日時は7月25日で、ほぼ同じ季節である。

 この海藻、ひょっとしてハクセイハギ御用達の産卵床なのだろうか?

 群がる魚たちには申し訳ないものの、海藻の枝(?)をかき分けて奥を覗いてみたものの、卵らしきものはついぞ見えず(表面に見える白い点々は砂粒だと思います…)。

 カワハギの卵ってとっても小さそうだからなぁ……。

 というか、ハクセイハギのアヤシイ動きに最初に気づき、一部始終を動画で撮っておくくらいのことをしておけば、あの「アヘ〜……」顔を紹介できたのに。

 あ、それで思い出した。

 6月にもこういうシーンを観ていたのだ。

 ハクセイハギたちは生きているサンゴをガシガシ齧って食べる魚なのに、この時はペア揃って死サンゴの表面に生えた藻に拘っているように見えていた。

 これもやっぱり、産卵床の整備作業だったのだろうか。

 よく見るとペアで尾ビレの色が違っている。

 その後ハクセイハギのペアの尾ビレに注目してみると、みんな黄色と褐色のペアだった。

 これはきっと、オスメスの特徴なのだろう。

 お腹の膨れ具合からして、黒っぽくなるのがメスか?

 ともかくも、これがハクセイハギの産卵に至る事前行動なのだとすれば、次回はけっしてチャンスを逃すまじ。

 さらに追記(2021年10月)

 リーフ上でプカプカしているときも産卵時も、ペアでのんびりしているハクセイハギにも、時と場合によっては燃える闘魂状態になることがある。

 縄張り争いなのか、三角関係なのかは不明ながら、激しくバトルを繰り広げることもあるのだ。

 いったい誰が何を巡って争っているのかわかりづらいこのバトル、ともかくも戦いが終了すると、またもとの穏やかなカップルの姿に戻っていた。

 もう一度追記(2022年11月)

 梅雨明け後の明るく穏やかなリーフエッジ付近で、いつものように(おそらく)メスのハクセイハギがサンゴをバリボリしていた。

 そこへ別のカップルがイチャモンをつけにきた。

 縄張りが重なっているお隣さんだろうか。

 のんびり食事をしていた(おそらく)メスも自分の縄張りにいるわけだから何も悪いことをしているわけではない。

 という自覚があるのだろう、イチャモンカップルに毅然とした態度をとろうとする。

 しかし2対1では分が悪かったようで、せっかくのお食事タイムを邪魔されることになってしまった。

 ところがそこに、ちょっと離れたところで同じように食事をしていた(おそらく)オスが、ホワイトナイト化して颯爽登場、イチャモンカップルを追い払ってくれた…

 …という一連の様子を動画で。

 頼りがいのある雄々しいオスの姿を目にし、あらためてダーリンに惚れ直したハクセイハギ子なのだった。