全長 40cm
釣り人にとってのイシダイが温帯域の「磯の王者」であるならば、亜熱帯の暖かい海ではこのイシガキダイがその地位を占める。
老成すると黒くなることからガラサーミーバイ(カラスハタ)と呼ばれたり、口だけ白くなることからクチジロなどとも呼ばれているイシガキダイ。
そのような老成個体のなかには60cm以上の超ド級サイズもいるそうだけど、海の中でそこまででっかいイシガキダイには出会ったことがはない。
見かける場所は水深を問わず、浅いところにも深いところにもいる。
ただし中層を堂々と泳いでいることなどまずなく、隠れ家になるような広い暗がりから出たり入ったりを繰り返していることが多い。
その様子はコショウダイ類のオトナに通ずるものがあり、好みの居場所も似ているからだろう、冒頭の写真のイシガキダイは、リーフ際の暗がりをチョウチョウコショウダイのオトナとシェアしていた。
群れることもなく、複数いたとしてもせいぜい3匹くらいだから目立つこともなく、冒頭の写真こそ40cmほどある大きめサイズだったものの、よく出会うのはそれよりも若く、25cmくらいのものが多い。
彼らの警戒心はかなり強く、ひと目姿を見せるだけですぐさま奥の暗闇に逃げてしまう。
となると、釣り人にとっては「石もの」としてイシダイとともに2大巨頭をなすイシガキダイも、ダイバーにとってはほとんど興味の対象外なのかもしれない。
…と、イシガキダイについては長らくそのような印象で接していたのだけれど。
昨年(2019年)6月のこと、桟橋脇のほとんど波打ち際という浅いところに、こんなイシガキダイがいた。
10cmほどのチビターレ!
島の桟橋脇にボートを泊める本島の業者が利用していた防舷材を拠り所にしていて、防舷材に寄り添っている彼はほとんど水面下を右往左往していた。
これまで出会ったことがあるイシガキダイはすべて20cmオーバーだから、これは断トツ人生最小級だ。
それまでまったくこのサイズのチビを目にしたことがなかったってことは、これくらいのサイズの頃は本来、沖で流れ藻など表層を漂う漂流物に寄り添って過ごしているのだろうか。
本来の暮らしぶりは謎ながら、藻が生えまくっている防舷材をとりあえずの暮らしの場にしているイシガキダイ・チビターレは、この場を縄張りとしているらしく、小さいくせに対抗心丸出しで、カメラに全然動じなかった。
それにしても、オトナの模様だと「石垣」というのはイメージしにくかったところ、このチビの模様ならその名もナットク。
紛うかたなき石垣模様だ。
もっと小さな頃なら目を通る帯が入っているそうで、そこまで小さなチビも観てみたい…。
※追記(2025年4月)
水納島で日中に出会うイシガキダイといえば、たいてい岩陰の暗がりに潜み、狭いところをグルグル泳いでいる。
ところが先日(2025年4月)見かけたイシガキダイは、昼日中から外をうろついていた。
それも40cmくらいある大きめの個体で、そんな大きなイシガキダイが昼間っから明るいところをウロウロしているというのは、それはそれで不思議的光景だった。
しかも、ワタシの姿を察知してすぐさま逃げていくかと思いきや、リーフエッジに沿って右往左往するだけで、遠くへ逃げようとしない。
そういえば、この少し前に泳ぎ去っていくネムリブカを見たっけ…。
ひょっとして、岩陰でくつろいでいたところをネムリブカに邪魔され、慌てふためいて外に出てきたまま、ずっと慌てふためいていたとか。
理由は不明ながら、おかげで近くから観ることもできた。
近くから目にして初めて知ったことに、イシガキダイの歯は明石家さんまのようになっていた。
イシガキダイの外見のイメージ的に、クチバシに見える部分がホントに鳥たちのクチバシのように思えて、歯があるという当たり前のことに思いが至っていなかったため、なんだか意外。
ちなみに口唇(?)で隠れている下の歯のほうが強大で、彼らはこの強靭なアゴと歯で、ウニや貝、甲殻類などを貪り食べるという。
そのクチバシ部分はやはり英語圏のみなさんの目にも鋭く見えるらしく、イシガキダイは英名ではSpotted Knifejawと呼ばれているそうな。
ナイフのアゴだなんて物騒な…。
でもなるほどたしかに、こりゃ噛まれたらただでは済まなそう…。
…と思っていると、ようやく落ち着きを取り戻したのか、ワタシを見て不敵にニヤリと笑うイシガキダイなのだった。