全長 20cm(写真は4cmほどの幼魚)
2013年の8月、カメラを携えて潜っていたら、見たことがないイトヨリダイ系の幼魚らしき魚に出会った。
見たことがないのになんでイトヨリダイ系のチビだと思ったのか、その時は深く考えなかったため、後年写真を見るだけではその根拠がわからなくなってしまった。
そのため謎の魚のままになったこの幼魚、実は同じ年の5月末に、もっと小さな3cmほどのチビターレをオタマサが撮っていた。
この写真じゃ仲良く2匹でいるっぽく見えるけれど、他の写真も見てみると実際は同じところに4〜5匹集まっていたようだ。
その2年後、2015年4月には、スナイソギンチャクに寄り添うようにしていた1cmほどのチビターレの姿をオタマサは捉えていた。
そして同じ年の7月には、5cmほどの冒頭の写真の子が観られた。
他の稿でも触れているように、オタマサは撮った写真を本人も忘れるくらいに秘蔵するヒトなので、そういう写真があることをワタシが知るのは随分時が経ってからになる。
このチビターレたちの写真も、イトヨリダイの仲間をピックアップしようとして初めて世に出てきた(?)のであって、そんな機会が無ければ(撮影者本人を含め)誰も見る機会が無いまま0と1のデータ状態で終っていたところだ。
発掘に近い形でなんとか掘り起こされたそれぞれの写真は、撮っている場所はバラバラながら、こうして見てみると、春にチビターレとしてたどり着いたものたちが、夏までの間にある程度育っていることがわかる。
ただ、ワタシが出会ったのは2013年の8月の子だけで、その後は後年オタマサの写真で目にしただけ。
そのため海中での様子がどうだったか記憶が消えていて、オトナになると誰になるのやらさっぱり見当がつかないままでいた。
それが今回イトヨリダイの魚たちを振り返っていたときに、出会った当初にその場でイトヨリダイ系のチビだと思った記憶がふとしたはずみで甦った。
さっそくイトヨリダイ系のチビということを前提にして調べてみたところ、やっとその正体が判明した。
このチビターレ、その名をイトタマガシラというそうな。
オトナになると20cmほどに成長するそうで、伊豆あたりではごくごくフツーに観られる魚のようだ。
では温帯域限定の魚なのかというとそういうわけではなく、その分布域はオーストラリアや東南アジアまで及んでいるらしい。
ということは沖縄近海でも実はフツー種なのか…というとこれまたそういうわけでもなく、八丈島の変態社会大御所のサイトを拝見したところ、イトタマガシラは八丈でもかなり稀な魚のようで、それも幼魚しか観られないという。
そうそう、八丈島の変態社会大御所さん(これはもちろん敬称ですので誤解なきよう…)のサイトで、実に含蓄に富んだ一文を拝読したのでここに別して引用させていただこう(引用元はこちらです)。
いわく、
「(イトタマガシラは)すーって泳いでは止まる独特な泳ぎ方をします。
これ彼らイトヨリダイの仲間の特徴のひとつです。
何の種類だろうと色や形を見て図鑑調べますが、泳ぎ方でもある程度の種類まで調べられることも覚えといて下さい。」
なるほど!!
出会った当初にイトヨリダイ系のチビと思ったのはなぜかといえば、その場で動きを観ていたからだったのだ。
後年写真を見ただけではわからなくなったのも当然といえば当然。
西伊豆の大瀬崎あたりではフツーに観られても、沖縄ではかなり珍しいイトタマガシラ。
その動きにピンと来たら、クラシカルアイで機能不全の目のピントを素早く合わせてください。
※追記(2025年11月)
ダイバーにとってイトタマガシラがなぜレアフィッシュになっているのかというと、オトナは水深100mあたりを住処にしているために、出会えるのは幼魚期限定であるからにほかならない。
その幼魚の居場所もそれなりにこだわりがあるらしく、水納島の主な砂地のポイントの環境は、あいにく彼らにはそぐわないようだ。
ところが、とある砂底のポイントだけは別であることが今年(2025年)わかった。
砂底のポイントならどこであれリーフ際と砂底までの間に死サンゴ石ゴロゴロゾーンがあるのだけれど、そのポイントの死サンゴ石ゴロゴロゾーンはどういうわけだかかなり深くまで続いているため、ゾーンが広く深く、他のポイントに比べると死サンゴ石を拠り所にするものたちがよりたくさん観られるという特徴がある。
どうやらイトヨリダイチビターレも、そういうところが好きらしい。
それもこの場所にはこの1匹だけではなく、あれほどレアと思っていたイトヨリダイチビターレが、同じ場所に何匹もいた。
上の写真の3匹すべてがイトタマガシラだと誤解される方がいらっしゃるかもしれないから念のために触れておくと、左にいるのは数多いキスジキュウセンのチビターレですからね。
同じ環境を愛するチビターレたちは種類を問わず同じ場所で仲良く(?)暮らしているので、特定の種類を見ているだけでも、他の種類のチビターレに遭える。
イトタマガシラを見ていたら、今度はキツネウオのチビターレと鉢合わせた。
ここには他にもカメンタマガシラのチビまで登場するなど、イトヨリダイ類チビチビだけでもお祭り状態であるほか、他の様々な幼魚たちも多く、ちょっとした揺りかごになっている。
パッと見は美しくもなんともない死サンゴ石ゴロゴロゾーンながら、生き物たちにとってはなくてはならない大切な環境のひとつなのである。