水納島の魚たち

ミヤコキセンスズメダイ

全長 5cm

 水納島の場合普段ボートダイビングばかりしていると、ついつい疎遠になるのがリーフの中やリーフ上の浅いところでしか観られない魚たち。

 リーフの中は、時化ていてボートが出せないときとかあえてビーチ内で潜るときなど多少の機会はあるけれど、潮が引けば波が立つリーフの上は、ほぼ無縁の世界になる。

 ところが、おりにふれ実行されるターボスネイル生息密度調査は、まさにそのような場所がフィールドだ。

 おかげで普段のダイビングではまず会えない魚たちを、素潜りをしながら新鮮な目で眺めることができるのだ。

 コロナ禍で完全休業状態だった今年(2020年)5月にも、ターボスネイル生息密度調査を行った。

 その際、見慣れないスズメダイが、存在感たっぷりに多数集まっていたので、手にしていたコンデジでとりあえず証拠写真をパシャ。

 ベタ凪ぎというわけではなかったから、波が来るたびに押したり引いたりする流れに体の向きを合わせつつ、なにやら忙しない様子でヒレを動かしながら集まっていたこのスズメダイたちは、とにかくエラあたりの黄色い模様がよく目立つ。

 はてさて、どこかで見た覚えがあるような気はするんだけど……なんだったっけ?

 帰宅後調べてみれば、これこそがミヤコキセンスズメダイのオトナの姿なのだった。

 図鑑で見たことがあったのだ。

 スズメダイ類にはよくあることながら、このミヤコキセンスズメダイもチビターレの頃がスター時代なので、ワタシも幼魚の姿は以前から認識していた。

 実際この時も同じような場所のそこかしこで幼魚の姿を見かけたから、これまた証拠写真を撮っておいた。

 この時もこの幼魚がミヤコキセンスズメダイであろうということは認識していたものの、すぐそばにたくさんいる見慣れぬスズメダイたちが彼らのオトナの姿だなんて、まったくわかっていなかった……。

 恥ずかしながらというか遅ればせながらというか今さらながらというか、それらを全部ひっくるめてとにかくそういう次第で、初めてミヤコキセンスズメダイのオトナを確認できた。

 こりゃさっそくちゃんとした装備でその姿を……

 …というわけにはなかなかいかない。

 なにしろターボスネイルがいるようなリーフ上の浅いところだから、満潮時でもないとカメラを携えて潜っていられないし、そもそもそういうところにあえて行く機会がなかなかない。

 それから半年経ってシーズンオフとなり、ようやく現地(?)を訪れることができた。

 さてさて、ミヤコキセンスズメダイのオトナは、半年前の梅雨時のようにたくさん集まっているかな?

 …と期待していたところ、案に相違してポツ…ポツ…ポツ…と、みんな単独で暮らしているものばかり。

 幼魚にいたっては、70分潜ってかろうじて2匹に会えたのみだった。

 季節が異なると、かくも様相が違ってくるのですね…。

 ともかくもようやくチャンスを得たミヤコキセンスズメダイとの再会。

 単独で暮らしているオトナは、同じような場所で暮らすハクセンスズメダイに邪険にされながらも、健気にプルプルしていた。

 このような静止画像でもやけに目立つ鰓ブタ付近の黄色い模様は、実際に海中で観るといっそう目立っている。

 それは、彼らがこの黄色模様がある鰓ブタを、外に広げてフカフカ動かしているからだった。

 すると、ちょうど黄色い模様部分がピラピラ動くことになる。

 熱帯魚を飼育している方がこの1匹だけ見れば、エラに炎症を起こしているんじゃないかと、さぞ心配されることだろう。

 5月にたくさん集まっていた時には、みんなこのようにエラを広げてプルプルプルプルしていた。

 メスに対するアピールなのか、他のオスに対する縄張り誇示なのかわからないけど、エラ付近の黄色い模様にはどうやら意味があるらしい。

 一方、70分潜ってたった2匹にしか会えなかった幼魚はこんな感じ。

 これで15mmくらい。

 ミヤコキセンスズメダイの幼魚ときたら、忘れちゃならないのが↓イチモンスズメダイの幼魚だ。

 イチモンスズメダイの幼魚は、水納島ではリーフ内の浅く穏やかなところを好んでいて、カモメ岩の浜に潜るとフツーに会うことができる。

 ただ、そっくりなミヤコキセンスズメダイの幼魚とどうやって区別したらいいのだろう?

 図鑑によれば、ミヤコキセンスズメダイの幼魚のエラのあたりは他に比べ黄色が目立つ、とあるものの、イチモンスズメダイの幼魚と思われるチビチビの中にも、鰓ブタのあたりが周辺よりも黄色味が強いような気も……

 …なんて悩みは、ひとたびミヤコキセンスズメダイの幼魚と出会ってしまえばたちまち解決。

 エラのあたりの黄色味、明らかに違うでしょ?

 もっとも、10mmほどのミヤコキセンスズメダイのチビターレは微妙ではある。

 微妙ではあるけれど、全体的な体色が青味がかっているし、そもそも居場所で区別がつくような気も……。

 青い線に気を取られてついつい見逃しがちだけど、これくらいのチビターレの頃は、頭頂部から背ビレにかけて、けっこう鮮やかなオレンジ色が入っている。

 なので正面から観ると……

 …なんだか別の魚みたい。

 ミヤコキセンスズメダイ・チビターレとしては、おそらく人生初であろう注目を浴びてしまって緊張したのだろうか、気張ったポーズを決めてくれるのかと思いきや……

 …ホントに気張っていたのだった(ウンコしてます)。

 これがオトナになると本当にミヤコキセンスズメダイのオトナになるのか、体色がそこまで激変するということに若干の疑念を抱いている方もいらっしゃるかもしれない。

 そういう疑念は、オトナになりかけの子にあえば、たちまち氷解する。

 目の上から後方にかけてうっすらと残る青いライン、そして眼状斑。

 幼魚時代の名残りがまだ見える若魚だ。

 チビターレ時代の色彩を知らずにオトナだけ見ると、ビミョーに地味なスズメダイという存在でしかないかもしれないミヤコキセンスズメダイ。

 けれど、チビチビの頃を踏まえつつオトナを見れば、それはそれでなかなかきれいなスズメダイに見えてくる……………かも?