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ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

241回.侮るなかれ新聞&古新聞

月刊アクアネット2023年6月号

 紙媒体がどんどんと廃れていると言われる今の世でも、アナログな私はかたくなに新聞を購読している。

 いくらアナログとはいえ少なくとも日に2度くらいはネット上のニュースを目にしているので、たとえ新聞を読まなくなっても大きく世の中と隔絶してしまう恐れはない。

 しかも水納島の場合新聞が届くのは最速で連絡船の一便目が到着したあとだから9時過ぎだし、台風や季節風で連絡船が欠航すれば、3~4日分が届いた時点で古新聞になってしまう。過去にはひと月のうち「新聞」として届いたのは10日ほど、あとの20日分はすべて「古新聞」だったことすらある。

 それを考えれば、新聞に世の中の最新情報を求めるのは無理というモノ。にもかかわらずただでさえ厳しい家計の中から、ひと月3千余円を投資し続けているのはなぜなのか。

 高校生の頃まで新聞とは無縁だった私は、学生時代にとある先生から生物学的な方面での新聞のスクラップの効用と楽しさを教わって以来、新聞、それもローカル新聞の面白さにハマった。

 インターネットなど存在しない当時、新聞紙上の動植物関連の記事や連載は貴重な情報源で、沖縄ならではの話題が盛りだくさんなうえ、亜熱帯のマニアックな生き物たちの情報が豊富だったのだ。

 南方系の面白い生き物たちを目当てに沖縄の大学に入学した私には、それらの記事は魅力あふれるものばかりで、気に入ったものをスクラップしては、秘蔵の生き物情報コレクションにしてとても重宝していたものだった。

ローカル新聞の地域版の小さな記事で、コスモス畑で有名な名護の水田地帯にヒシクイなる水鳥が渡ってきていることを知った。さっそく現地を訪ねてみたところ、コスモスを背景にヒシクイたちの姿が。新聞記事を見落としていれば、コスモスに目を奪われて気づくことはなかったことだろう。野鳥や植物をはじめとする季節の風物、美味しいお店、各種イベント情報などなど、地元ならではの見逃せない記事が目白押しのローカル新聞なのである。

 島に越してきてからは、なにぶん経済的に不安定な暮らしだから、新聞を購読するなんていうのは学生の頃以上にかなりゼータクな話ではあった。けれど当時島内の新聞配達係だった島のおばあに勧められたのをきっかけに、再び新聞をとることになった。

 学生の頃にハマった生き物ネタその他は、今やネット上で得られる時代になっているから、その方面での新聞の重要性は低くなってはいる。けれど生物情報以外にも地方新聞には県内各地域のローカルな話題が溢れていて、ローカル新聞の地域版が実に楽しい。

 一方で、那覇にある老舗食堂が創業60年を迎え、「変わらぬ人気 山盛りメニュー 客とりこ」なんて小見出しを並べつつ、創業者は今もお元気というほのぼのニュースが、なんと1面トップになっているなど、ローカル新聞は記事の取り上げ方も意外性に満ちている。

 このようなローカル新聞ならではの記事はもちろんその土地その土地にあり、地方ごとの「ならでは」が感じられておもしろい。そのため旅をするときも、なるべくその土地の地方紙に目を通すようにしている。

 そして新聞は、古新聞になってからも活躍する。その最たるものが飼い鳥用の敷き紙だ。

 代謝の高い鳥さんたちは毎日の糞の量も多いから、ケージの底に紙を敷き、それを毎日取り換えることによって掃除の手間をはぶくことができるこの敷き紙で、古新聞はかなり重宝する。

 古新聞をケージサイズに折っている際に、未読の面白い記事に気づいて思わず読みふけることもあり、古新聞もバカにならない。

 その他、野菜の保存や窓ガラスの掃除、塗装作業時の養生など、情報ソースとしての「新聞」以外にも活躍の場が多い新聞紙。ハエとり紙がエコ的観点から近年復活しているように、新聞もまた今後その実力が再評価されてくるかもしれない?