●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2024年4月号
沖縄県でたびたび新聞の1面を飾る話題といえば、辺野古の米軍新基地関連がダントツ1位といっていい。
ところが今年3月に入ってから、基地問題とはいささか様相を異にするモンダイが出来している。
水不足である。
昨年8月末から9月頭にかけて本島地方に襲来したのを最後に、その後台風はひとつとしてかすりもせず、冬に入ってからもまとまった雨は全然降らず、次第次第に本島のダムの貯水率は低下の一途をだどっていたらしい。
それが3月になってから突如、「夜間断水の検討」という非常事態レベルになってしまったのだ。
9月10月に台風ゼロというのもたいがい異常事態なんだけど、たしかにこの冬の降水量の少なさは半端ではなく、雨続きのために庭仕事ができずに私が不貞腐れる日などまったくなかった。本島地方は9月からずっと少雨傾向が続いているのだ。
その結果ダムの貯水率は、これまでの過去10年間で最低を記録した2018年以来の低水準だという。
ただし2018年当時は梅雨時のことで、その後6月に台風が襲来するなど命の危険を伴うほどの大雨が何度も続いたこともあり、劇的なV字回復が見られた。
その点梅雨にはまだ間があるこの時点での低水準となれば、行政が夜間断水を検討するのも無理はないというところか。
砂丘を覆う防風林の合間に高くそびえる水道タンク。3月とはいえまだまだ厳しく冷え込む日もあるなか、螺旋階段の取り換え工事は、雨の日も風の日も高所作業が進められていた。このタンクがあるおかげで夜間断水の影響はないものの、これが真夏に日中も断水となれば、大勢の日帰り海水浴客がコインシャワーを利用することによって、島民用の水の確保もおぼつかなくなることは想像に難くない。男性でさえ海遊び後のシャワーでシャンプーまで使う今の世の中で、はたしてシャワーの利用制限という選択肢はアリなのだろうか?
水不足が日常だった半世紀ほど前の沖縄であれば、断水は暮らしの中に時々あること、という認識だったかもしれない。
ところが近年の沖縄本島ではダムがいくつも造られたことによって、狂ったように建設され続ける巨大リゾートホテルがフル稼働しても水に困ることはなくなり、断水はすっかり過去のモノというイメージになっている。
直近の断水でさえ94年ということだから、今回実に30年ぶりの断水が現実味を帯びてきたわけだ。
事ここに至り最も泡を食ったのは、ほかでもない、市町村の担当部署の職員たち。そりゃあ30年間無かった断水だもの、その段取りからなにからすべて熟知している職員などいるはずもなく、断水未経験の職員たちが慌てて断水計画を立てる一方、断水バルブの開閉担当のアルバイトの確保を、というレベルでてんてこ舞いしているという。
昔は天水と潮混じりの井戸水で凌いでいた水納島も、現在は本島~瀬底島軽油で海底送水管による水道が敷かれている。
そして海底を通って島に来た水は、島内に設置されている大きな水道タンクに貯水され、そこから各家庭に届く仕組みになっている。そのためもし夜間断水が実施されようとも、タンク内の水をひと晩で消費できるものではないから、暮らしにさほどの影響はないという(我々は未経験)。
それもあって、沖縄県渇水対策協議会が焦って節水を呼びかけようとも、私を含めそれほど真に受けているヒトはいない。
その水道タンク維持管理用に併設されている螺旋階段の取り換え工事が、今年3月に行われた。
ついでということなのか、経年劣化で腐食している水道管連結部の取り換え工事も同時に行われ、その工事のために島民は、ひと足早く日中に2時間の断水を体験した。
その甲斐あって工事は滞りなく終了し、蛇口をひねるとちゃんと水が出てきたのはいいものの、その水圧が異常に高い。聞けば、本来はこれがデフォルトの圧力なのだという。腐食の影響、恐るべし…。
とはいえ節水を呼び掛けているくらいなのだから、無駄に水を使わないで済むよう、水圧を低くする方が正しい選択なんじゃないの?と素朴に疑問に思ったのはいうまでもない。