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ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

266回.ハイシーズン前の草刈り

月刊アクアネット2025年7月号

 今年の沖縄の梅雨明けは6月8日。観測史上最も早いそうだ。

 もう梅雨に入っているんじゃないの?というお天気が続いていた時に沖縄気象台が「平年」にこだわってグズグズしたものだから(※個人の推測です)、遅ればせながらもようやく梅雨入りを発表した途端、あっという間に梅雨明け。

 実感としては、平年にこだわらずにとっとと梅雨入りを発表しておけば、かなり前倒しながらも期間の長さだけは平年どおりで済んだのに…。

 沖縄の梅雨といえば、寒い季節から暑くなる季節への緩衝期間で、それまで冬を引きずる冷たく乾いた北風が多かったものが、湿りというよりぬめりを帯びた暖かい南風が卓越するようになってくる。

 いわゆる高温多湿の亜熱帯が、いよいよ本気を出してくるのだ。

 冬の間は枯れはしないまでも生長が抑えられていた雑草たちにとっても、そんな高温多湿環境は願ってもないパラダイス、待ってました!とばかりに雑草たちはグングン生長し始める。

 そのため毎年梅雨時期は、家や沿道の草刈りをしっかりきっちりこまめにしなければ雑草の生長に追いつかない。梅雨が明けて連日カンカン照りの真夏になれば、今度は暑すぎて雑草の生長が鈍くなるから、勝負は梅雨の間ということになる。

 例年なら沖縄の梅雨明けは6月後半だから、梅雨が明けて繁忙期になる前、梅雨中のまだそれほど暑くはない曇り空くらいのときにシメの草刈りをしておけば、スッキリした気分で夏を迎えることができる。

雑草が勢いよく伸びて、軽自動車1台がかろうじて通行できる程度に狭まった道も(写真上)、島じゅう総出の共同作業で再び拡幅された(写真下)。梅雨時のパラダイス気候を経た雑草たちは道幅を極端に狭くするほど繁茂し、丈高く育った雑草のせいで特にカーブや十字路では見通しが悪くなるから、危うく車の正面衝突事故を起こしそうになるほど。そこまでひどくならずとも、未舗装路の草が伸びすぎてしまったら、観光客はもちろん島民でさえ道を歩けなくなってしまう。そのため我々の生活道路に関しては、共同作業のお声掛けが無くとも、なるべく早めに自主的に草刈りをするようにしている。

 ところが今年は誰も予想だにしていなかった6月初旬の梅雨明け。シメの草刈りはまだしばらく先でいいよね…と思っていた人々は、かなり調子を狂わされ、炎天下に草刈りをせざるを得ない方々も多かったことだろう。

 各家の敷地内でさえむしり取る程度では埒が明かない亜熱帯の雑草は、草刈り機で刈り払わねばその生長に追いつかない。

 敷地内のことだけであれば草を刈る範囲もしれたものだけど、なんでも行政サービスの手が行き届く都会とは違い、水納島のような離島の場合は公道の雑草も地元住民が管理しなければならない。

 草刈り作業に関わることができる住民の数など我々を含めてさえ全員揃ってなんとか二けたに達する程度だから、公道も含めた広範囲の雑草対策となると、草刈り機からもう一段レベルアップしてユンボとトラクターの出番となる。

 トラクターで大雑把に草刈りし、際はユンボで奥に押し込むだけで、未舗装路は生まれ変わったかのごとく見事に拡幅され、またしばらくは人が歩ける状態を保ってくれるようになる。

 ただし、大型機械の手を借りるといってもそれぞれ1台ずつと限りがあるから、主な道路だけでも数日がかりの作業になってしまう。

 もちろんのこと行政からなんらかの手当てが出るわけでもなく、自前でなんとか維持できているのは小さな島なればこそ。

 でも小さな島だからこそ限界集落化にリーチがかかっている今、重機に重大な故障が発生すれば、たちまちギブアップとなってもおかしくはない。

 それを思えば、なにかと物議を醸す水納島リゾート開発話も、少なくとも草刈りにかぎって言えば最後の切り札なのかもしれない。

 今年は梅雨明けがやたらと早かったものの、またトラクターとユンボが頑張ってくれたおかげで、ハイシーズンを迎える前に各道は元の広さを取り戻した。

 梅雨明け後の青空の下で、心ひそかにホッとしているのだった。