●海と島の雑貨屋さん●

ゆんたく!島暮らし

写真・文/植田正恵

277回.カニステル大豊作

月刊アクアネット2026年6月号

 昨年の沖縄本島地方にはひとつも本格的台風が来なかったから、水納島の果樹は大事な時期にまったく被害を受けずに済んだ。

 そのおかげで、シークヮーサー、タンカン、そして島バナナといったおなじみの果物たちが、秋以降冬になっても軒並み大豊作。そうすると自家消費が追いつかなくなり、ありがたいことに我が家にもおすそ分けの声がかかることになる。

 突然玄関先に持参してくれることもあれば、好きな時に勝手に採って、という場合もり、お言葉に甘えて大喜びでいただく私。そして貰い物でさえ夫婦二人には大量だから、そのまま食べるだけではとても追いつかず、ジュースやジャムやお菓子にしてかなり楽しむことができたのだった。

 そんな大豊作の果樹の中でも、誰もが思わず瞠目するほどに大大大豊作状態なのがカニステルだ。

 それは我が家の裏手の隣家にもうずいぶん前に植えられた数本の木で、すでにどれも見事に育っているものながら、ここまで鈴生りになったことがかつてあったろうかというほどのたわわぶり。

 ところが、家主は連絡船の船員さんで、母港が本島になって以来、月に数度のお休みの日にしか家に帰って来られない。庭木がたくさんある広い敷地の維持管理だけでも大変そうで、草刈りやガジュマルの剪定など、たまの休みにはそういった作業に追われてしまうため、鈴生りカニステルにまではとても手が回りそうにない。

 多くの方にとって聞き慣れないと思われるカニステルは中央アメリカ原産の果樹で、生長すると7mほどの高さになり、特徴的な形をした10cmほどの黄色い実をつける。

カニステルが鈴生りの隣家と未舗装路を挟んで面している我が家のあたいぐゎ(家庭菜園)で土を耕していると、カニステルの根が道を通り越して思いっきり我が家に侵入しているのがわかる。どうやら私は野菜に肥料を与えながら、実はカニステルの豊作にひと役買っていたようだ。半端ない鈴生り状態が余計なひと役のせいかどうかはさだかならないものの、梅雨に入った今でも木は依然として鈴生り状態で、ちょっと強めの風が吹くと、熟れたものからボトボト落ちてくる。カメに与える以外に、なにか有効な消費の仕方はないものだろうか…。

 その実は食用ということになっているものの、一般的にイメージする南国フルーツとはいささか趣が異なり、サツマイモとカボチャとアボカドと茹で卵の黄身を合わせて調理を施したような不思議な食感&味。

 それも完熟していなければ味わえず、たとえ完熟していても個体ごとに微妙な当たりはずれがあるとあっては、沖縄のスーパーではなかなか目にしないのも無理はない。産直市場のようなところでも、今年のように大豊作の年以外ではまず目にしない、ある意味ちょっと残念なフルーツではある(※個人の感想です)。

 そんな微妙なカニステルだけに、たまにしか来られない家主氏としても是が非でも収穫を…というわけでもなく、むしろ我々を含めた近隣住民に「いつでも好きなだけ採って」と言ってくれている。

 ただ、民宿のおかみさんは何でも収穫するのが大好きで、物珍しさもあって民宿のお客さんたちにはわりと好評らしいのだけど、とてもじゃないけど消費しきれるものではない。

 となると、せっかくの鈴生り状態なのに、大地の肥やしになるしかない…。

 ところが、そんな微妙なカニステルを、誰よりも愛している者がいる。本稿でも過去に何度か紹介している、ケヅメリクガメのガメラ君だ。

 どんなに栄養豊富でも毎日クワの葉ばかりだと飽きるのだろう、おめざ、おやつ、デザートと朝昼夕にカニステルを与えると、主食そっちのけで口の周りを真っ黄色にしながらかぶりつき、とても満足そうな顔をする。

 そんな彼の嗜好にいち早く気がついてくださった民宿のおかみさん(大の生き物好き)は、ついにカニステルの消費先を見つけたとばかり、自分は召し上がらないのに時々熟れて落っこちたカニステルをビニール袋いっぱい拾い集めては、ガメラ君のために我が家まで持ってきてくれるのだった。

  追記

 昨年はひとつも襲来しなかったというのに、今年は6月で早くも二度台風の影響下に入った沖縄本島地方。

 その最初の台風で…

 …大豊作状態のカニステルは、ほぼほぼすべて落果してしまったのだった。

 さすがにこれらすべてを腐る前にガメラ君が食べきれるはずはなかった…。