●海と島の雑貨屋さん●
写真・文/植田正恵
月刊アクアネット2010年9月号
だんだんと日が短くなり、秋の夜長の過ごし方が気になる季節となってきた。
基本的に肉体労働者に生まれついている私は、お日様が出ていると外で働かなければ、という脅迫観念にとらわれている。
そのため日が短くなる秋は、私にとっては読書やガラス細工、映画鑑賞などといった、春夏にはあまり時間を割けないことをのんびり楽しめる季節だ。
また、忙しかった夏が終わってほっと一息、涼しい風に吹かれ、ゆっくりと月でも眺めながら庭先で一杯、という季節でもある。
そんな秋の夜長にお家でのんびりしていると、夜更けに島の南側の浜へ行く数台の車の音がすることがある。
最初は非常事態かと心がざわついたものだったが、実はこれ、大潮の夜間の干潮時に合わせて行われる潮干狩りへの出陣(?)なのだ。
事情がわかってからは、「今夜は随分たくさん行くなあ」とか「今夜は海が少し荒れているから少ないな」なんて冷静に車の音に耳を澄ませていたりする。
沖縄での潮干狩りは本土の潮干狩りとはずいぶん趣が違っている。
ナイフやドライバー片手に潮が引いたサンゴ礁の上を歩いて、サザエやシャコガイ、タコなどを獲るのが一般的だ。
潮がたくさん引いたほうが、広い範囲を長い時間楽しめるので、大潮、それも最干時の潮位が通常よりはるかに下がる日々を狙う。
地軸の傾きの関係で、それは春だったら日中、秋だったら真夜中になる。
秋の真夜中の潮干狩りのことを、特に「いざり」と呼び、水納島では男女を問わず楽しんでいる。
越してきたばかりの頃は、皆が夜な夜な繰り出して、次の日には誰それがサザエをたくさん獲っただの、あの人はイセエビをゲットしただのと盛り上がっているのが少しうらやましかった。
そこで私も当時一度だけいざりにトライしてみた。
すると昼間は岩陰に隠れているサザエが夜は表に出て動いているし、月夜は月明かりが幻想的で美しく、新月の夜は満天の星空がそれこそ降るように瞬いている。
ところがこれがなかなかつらい。
なにしろ獲った獲物を担いで2時間以上歩き回らなければならないのだ。これだったら、昼間泳ぎながらサザエを獲るほうがよっぽど楽ではないか。
そんなわけで1度きりで気が済んだ私なのだが、おばあたちは年季が違う。
とはいえ、70歳を越えた人が夜な夜ないざりに出かけていくなんて、都会の元気のないお年寄りを見慣れている方には想像を絶する姿かもしれない。
真夜中に懐中電灯の光だけを頼りに、岸から200mくらい離れたサンゴ礁の上まで歩いていって、様々な獲物を山のように獲ってくるのだもの。
普段の生活では、桟橋まで歩くだけで腰が痛い腰が痛いと嘆いているおばあたちが、いざ海へ行くとなると3~4日間続く大潮の期間中、毎晩のように元気一杯で出陣するのだから、これぞまさしくタラソテラピー。
ところが大潮が終わり普段の生活に戻ると、再び腰が痛い、足が痛いといい始めることが多かったりする。
それっておばあ、夜に海を歩きすぎなんじゃない……??
そんな風景を見たり、前夜の成果を聞いたりするのもまた、私にとっては最高に贅沢な、秋の楽しみの一つなのである。