14・エビとカメラの水揚げ

 養殖場の朝は早い。
 まだ空に「朝」の気配がないうちから、水揚げ作業が始まる。

 そんな時刻にもかかわらず、スタッフたちはキビキビと動き回り、昨夕沈めたカゴを揚げていく。
 池沿いの道にフォローが1人、そしてボートに乗った数名がカゴを揚げては、生簀にどんどん投入していく。

 この日最初のミッションは、このカゴ揚げ作業の撮影だった。

 朝6時から始まるこの作業にあわせ、5時半に目覚めた我々。
 この日のミッションには、いささか考えるところがあって、僕はウェットスーツで望む予定でいた。

 カゴ揚げするところを、半水面の位置から撮ってみたい。

 企画倒れになる可能性大ながら、「おっ!?」と思ってもらえる写真というのは、えてして「えっ!?」という方法で撮られるものなのだ。

 というわけで迎えたこの日の朝だったのだが……

 雨。

 夕べは十六夜の月が煌々と照っていたのに。

 半水面ぽい写真のためのハウジング入りのカメラのほかに、違う画角のレンズでも撮りたいなぁと思っていたものの、これではさすがに陸用カメラは厳しい。

 えび屋−Mさんもそれを心配してくださって、早朝にもかかわらずお電話をいただき、カメラに無理はさせなくていいから、とおっしゃってくださった(ちゃんと起きているかどうかの確認のためだったという話もあるけど)。

 そんなこんなで、まずはボートに便乗させてもらい、カゴ揚げ作業の撮影開始!!

 けっこう強い風と雨の中にもかかわらず、カゴ揚げ作業もやはり、熟練スタッフたちの手によって、流れるように進んでいく。
 池沿いの道でフォローをしている若手スタッフたちの、キビキビとした動きもまた、見ている者には心地いい。

 一夜にして気温が下がってしまったせいか、あいにく肝心のエビちゃんたちは前日ほどの入りではなかったものの、次々に揚がるカゴ、そしてエビで溢れていく生簀。

 それやこれやを、ハウジング入りのフィッシュアイでパシパシパシッ!!

 養殖場のカッパをお借りしたオタマサも、ディヒューザーどんべえを手にしつつ、いつものようにオタオタと「照明さん」を頑張っている。

 と、そのときだった。

 「アッ!!」

 一同を凍りつかせるオタマサの叫び。

 ナニナニ、どうしたの??

 「カメラが落っこっちゃった……」

 え゛――――――ッ!?
 
(ボートの上にいた全員の叫び)

 いったい何がどうしたらカメラが落っこちるというのか。

 そのカメラとは、僕がミッションのために使用しているカメラではなく、我々のプライベート用にと用意していたオタマサのコンデジINハウジングのことだ。

 一応僕の間接照明優先のため、ディヒューザーどんべえの役割を果たしている間はコンデジの撮影は無理だから、邪魔にならないところに置いていたらしい。

 その邪魔にならないところとは、すなわちボートの舳先付近。
 ミスクロワッサンならいざ知らず、養殖池専用の筏型ボートの場合、速度を増すと流体力学的に前のめりになる。
 カゴを次々に揚げている間は微速だから大丈夫でも、少し離れたところへ急ぎ駆けつけるときには前のめりに。

 そんなこととは露知らず、そっと置いてあった舳先のカメラ。
 あ、これだとやばいかな……とさすがのオタマサも考えたその時、すでにカメラは池の中なのだった。

 心配してくださるスタッフのみなさん。

 これが水納島の桟橋から海に落っこちたというのならともかく、なにしろ昨夜あれほど苦労したほどの透視度である。
 スタッフのみなさんがおっしゃるには、誤って海中に没してしまったカゴが発見されたのは、数ヶ月経ってから池の水を抜く作業をしているときだったという……。

 いくら大体の場所の見当がつくとはいえ、池の底に沈んでいる10センチ立方のカメラを発見するなんてのはまず無理。

 でもまぁいっか、役立たずのカメラだし!
 (この後、た〜ちゃんさんのおかげで実は役立たずではないことが判明したのだけれど、当時は役立たずと信じられていた。その理由は
こちら。)

 氷雨振る中という悪条件、そしてコンデジ行方不明というアクシデントがありはしたものの、カゴ揚げ作業の撮影は順調に進んだ。

 ハウジングのポートに雨滴がつきまくるので、ちょっと難しいかなぁと覚悟していたものの、それが逆に、雨の中の作業という臨場感、それに水揚げされたエビちゃんたちが生簀に投入されているときの飛沫を上げる勢い、というような演出効果に。

 当初予定していた半水面写真も、思惑とは違うところでいい感じの写真になっていたので、まぁ結果良しとしよう。

 惜しむらくは、そういった写真のほかに、違うレンズでスタッフのみなさんのポートレート風作業シーンを撮れればよかったのだが………。

 そんなこんなで、この日のファーストミッションは終了。

 そして、出荷作業を再び撮影し、スタッフのみなさんの集合写真を撮るべく準備していたときのことだった。

 昼食前に潜水作業をしていたジュンさんが、なにやら右手を高らかに上げながら、ボートを操縦して我々のほうにやってきた。

 ん?何を持っているんだろう??

 ア―――――――――――ッ!!!

 その右手に掲げられているのは……

 今朝消えたはずのコンデジ!!

 いくら池のどのあたりかってことはある程度わかっていたとはいえ、この透明度ですぜ。
 それにもかかわらず、こんな短時間で、しかもジュンさんいわく、潜り始めてから3分で見つかっただなんて!!

 ミラクルッ!!

 スタッフのみなさんはタダモノではないと思ってはいたけれど、これには心底驚かされてしまった。

 ジュンさん、ありがとうございます!!

 しかし驚きはそれだけではなかった。

 帰宅後、件の出戻りコンデジ君の画像もパソコンに取り込むべく、モニター画面で眺めていたときのこと。

 ん?こんな写真いつ撮ったっけ??

 アッ!

 当初我々が、ジュンさんのことを「シャイ」だなんて思ったのは、大きな勘違いだったってことが如実にわかるこの一枚。


撮影:ジュンさん

 コンデジを発見直後、すぐさまお撮りになったのであろうご自身の写真……。

 ジュンさん、ネタ提供重ねてお礼申し上げます♪