2・運天港へ〜おにぎりリョウ君〜

 シーズン終了を無事終えた10月31日も、このところ連日通っている体育館に行き、いつものように卓球をした。
 そのあとはシーズン終了を祝うシェフの料理が待っている。
 どうだキッズ、今宵はきっとご馳走だからを食べに来るか?

 「うん、ハロウィーンだからね!」

 なんだかよくわからないけれど、そういうわけでシーズン終了を祝うお食事会をした。
 この頃にはもう、伊平屋行はすべて順調に予定通り進んでいる。

 「あとは植田さんのオコナイだけだね」

 ニャ、ニャニヲ〜?
 小学4年生にしてそんな言い回しを知っておるのか、君は。

 言われてみればたしかにそうだ。
 あとは天候のみ。
 船に関していえば天候というよりは海況。でも、海況ももちろんのことながら、どうせなら晴れ渡る空の下、島の空気を吸ってみたい。
 はたして僕のオコナイは……?

 5日の朝は、雲が空を覆っていた。
 あれ?たしか晴れという予報だったのに……。
 オコナイ悪かったかなぁ…。
 そんな心配は、水納丸の第1便が出る頃にはすっかり必要なくなっていた。
 晴れ!!
 なんと爽やかな風だろう…。

 8時25分までに桟橋に来なかったらたたき起こしに行くからね、と前日に告げてあったものの、はたして時間までに来るかなと思いつつ桟橋まで行くと、いたいた、少女も少年も荷物を抱えて歩いている。
 リョウ君の荷物がありえないくらいに大きいのには笑ってしまった。
 なんで1泊だけでこんなに荷物がいるのだ?
 たしかに卓球用品はラケットもシューズもあるから荷物は大きくなるのはわかる。でも、そのサイズはなんで??

 きっと少年の夢もたくさん入っているのだろう。

 卓球用品といえば、この日絶対に僕が忘れちゃならないグッズがあった。
 少女のラケットである。
 実は前日もいつものように練習していたところ、僕のあまりに厳しいコーナーへの攻めに窮した少女は、思わずラケットを放り投げてしまった。<手が滑っただけともいう。
 宙を舞ったラケットは無事床に着地したのだが、その衝撃で柄の部分の接着面が剥がれてしまったのだ。
 その日それを僕が持って帰って修理した。修理したはいいけど、持って行くのを忘れたら大変なことになってしまう。
 といいつつ、忘れるわけないじゃん、そんな大事なものを。
 と思ってたのはどうやら僕だけだったらしい。
 桟橋で会うなりいきなりリョウ君は

 「修理したラケット持ってきた?」

 そう訊くのである。
 お前、少しは信用しろ。

 水納丸が渡久地についた。
 さあ、いよいよ出発だ。
 目指すは運天港!
 その前に、コンビニによって買い物をしておこう。
 なにしろ水納島に毛が生えた程度であろうと思われる伊平屋島だ。現地についてからあれがないこれがないじゃどうしようもない。
 すると、人一倍購買意欲を燃やしているヤツがいた。
 リョウ君だ。
 今回の旅行に際し、お父ちゃんから小遣いをもらってきたらしい。
 普段島にいると駄菓子屋さんで何かを買うなんてことができないから、こういうときになると目にするものすべてが欲しくなる。それが子供の人情であろう。
 それはわかっちゃいるけれど……。
 リョウ君はあればあるだけ、それも細々と使ってしまうタイプなのだった。
 きっとお腹が減るであろうことを見越し、おにぎりとかおやつとかジュースとか、買いたくて仕方がないらしい。
 ま、そんな高価なものじゃないから、好きにさせてあげよう。

 ジャスコで手土産代わりの菓子詰めなどを購入し、伊差川方面から運天港へ。
 そうこうするうちに、リョウ君がポソッとつぶやいた。

 「酔って来た…」

 おいおい、もう?
 聞けば彼は、船に酔ったことはないけど車だと酔うらしい。
 時間にはたっぷり余裕があったので、運天港展望台で風に当たることにした。そうすれば酔いもさめるだろう。
 晴れ渡る空の下、一望に見渡せる古宇利大橋。
 海はどこまでも青く、雲はゆっくり流れている。
 これだったら、少年の酔いもすぐに醒めるかな?
 ……と思う間もなく、

 「お腹減った。おにぎり食べていい?」

 お、おい、お前たった今まで酔ったって言ってたんじゃなかったか?

 「大丈夫になった」

 そういっておもむろにおにぎりを食べ始めるリョウ君。
 このスーパーB型的チェンジペース少年は、この先あらゆるところでいかんなく本領を発揮するのであった。


モグモグ…

 やがて、眼下の素晴らしい景色の中に、1隻の美しい船が通りかかった。
 フェリー・ニュー伊是名だ。
 フェリー伊平屋よりも一足早く運天港に到着する。
 9時に伊平屋を発つフェリー伊平屋は、10時20分に運天港に到着する。運天出港は11時なので、我々が乗るべきフェリー伊平屋をここで見てから港に行くことにしよう。

 そうやって余裕を決め込んでいるというのに、ここに一人そわそわし始める人がいた。
 うちの奥さんである。
 齢をとるとせっかちになるというけれど、どうやら本当だ。どう考えてもここから港までなんて5分もかからない距離だというのに、10時20分近くになってもフェリー伊平屋がなかなか姿を現さないのをうけ、

 「そろそろ港に行っておいたほうがいいんじゃない?」

 って、船自体が来てないんだから慌てて行ったってしょうがないじゃん。

 「大丈夫、時間はたっぷりあるんだから」

 そうオチアイに諭されながらも、まだ不安げなオタマサ(オタオタするマサエ略してオタマサ)なのだった。
 そうこうするうちに、やってきました、我らがフェリー伊平屋。
 さあみんな、フェリーをバックにハイチーズ!!

 さあ、運天港へ行こう!