8・1月30日

キリンもジャンボ!

 一応旅行社のパックツアーで、現地の旅行社を雇う以上は空港とホテルの送迎だけじゃあ芸がないってことだろうか、余った時間に寄ってくれる場所が用意されている。
 その一つがジラフセンターだ。

 キリンがエサを食べに大接近してきます!

 ……と言われてもなぁ。
 沖縄こどもの国のカンペイくんにだってエサはあげられるぞ。
 と、我々はそれほど期待していたわけではなかった。でも、仕事とはいえ我々二人のためにこうして来てくれているのだから、テンションを高めに維持して楽しむことにしよう。

 と思ったら。
 これが思いのほか面白い。
 飼われているキリンさんとはいえ、その敷地は沖縄こどもの国の比ではない。こどもの国の飼育スペースに比べれば、ここのキリンさんは野生といっても過言ではないだろう。
 そんなキリンさんたちに、目の高さでエサを与えることができるのだ。
 池に水鳥がいると見ればすぐさまエサをやるうちの奥さんである。キリンさんに餌をあげるのが楽しくないはずはなかった。

 でもそこはそれ、野生動物の保護に力を入れているケニアのことだから、エサをあげるにも何かと制約がうるさいかもしれない。

 ジラフセンターにつき、では30分ほど楽しんできてくださ〜いというジャクソンに見送られ、園内へ。
 おお、キリンさんだ!!
 おお、ジョセフィーヌだ!!
 「ナマケモノが見てた」という、くだらなくも面白いヘンテコな漫画をご存知だろうか。すべてが動物キャラなのだが、そのなかにイボイノシシのジョセフィーヌという子が出てくるのだ。
 その漫画を読んで以来我々は、イボイノシシのことをジョセフィーヌと呼んでいたのだが、そのイボイノシシ、つまりジョセフィーヌがキリンの足元でウロウロしていたのである。
 へ〜んな顔!!

 さあ、エサをあげるフロアに行こう。
 すると、係りの人がたちまちやってきて、餌を渡してくれた。
 なんだか砂糖が入っていないシリアルを無理矢理固めたような不思議なエサだった。
 そして係りの人=ダニエルがキリンさんを呼ぶと……

 わっ、やってきた!!
 その巨大さゆえのスローモーな動きは貫禄たっぷりだ。
 遠目に見ると比較対象物が無いから、どれくらい大きいのかなかなか実感が湧かない。でも、ここまで近寄るとその巨大さは一目瞭然!!

 
                      
お茶目なダニエル(右)と

 キリンはやっぱりでっかい!!<うちの奥さんの小ささを差し引いても。
 文字通りジャンボ!である。
 キリンさんとも、このあとたびたび出会うことになる。ただしいくら写真に納めてもさすがに対人比は撮れない。だからその巨大さをイメージするためにも、この写真をよ〜く覚えておいてね。

 観光客に分けられる一人当たりのエサの量には制限があるのかと思いきや、係の人ダニエルは次から次へと我々にエサを渡してくれるし、自らキリンを誘導して上の写真のような状況を演出してくれた。
 キリンの舌がまた長い。
 棘だらけのアカシアの葉っぱを食べるために、舌がピニョニョニョニョンと長いのだ、なんて説明を子供の頃に読んだ記憶がある。
 ところで、アフリカに旅行するに際し、生水だけは飲まないようにしようと心に誓っていた。
 アフリカの水を飲むとまたアフリカに戻ってくる…といわれているとはいえ、旅行しょっぱなに腹を壊しては、旅行の記憶はトイレの壁……なんてことになってしまう。
 それだけは避けたいので気をつけようね、腹を壊さないようにしようね…と固く誓い合っていたのに、こんなことまで!!


デイジーとチュウ!!

 腹具合のことを心配するのなら、これは水どころじゃないんじゃないのか??
 ちなみにここでキリンさんにあげているエサは、コーンとサトウキビを粉末にして練り合わせた乾燥餌だった。食べてみてとダニエルがいうので食べてみると、見たまんまシリアルのような味だった。

 いやあそれにしても、さすがというかなんというか、たしかに沖縄子供の国でもカンペイおじいキリンにエサをあげることができるけれど、あれはたしか曜日と時間が限定されていた。それにくらべると、ここジラフセンターはたかだかエサをあげる程度のことでもったいぶったりはしないらしい。

 はるばる野生の王国を味わいに来たというのに、こんな飼育施設で満足していていいのだろうか?………でも楽しんだからしょうがないじゃないか。
 写真で見る限りではキリンさんはとても友好的だが、彼女たちは何も我々人間と親睦を深めようと異常接近しているわけではない。目当てはただひとつ、我々が持っているエサだ。
 そのため、なかなかエサをあげないでいると、

 ブルルルルルルルッ

 と不機嫌そうに咳き込み、ボボ・ブラジルばりのヘッドバッドを仕掛けてくるのである。
 そこは係の人ダニエルが気配を察知して我々には危害が及ばないようにしてくれるとはいえ、「キリンさん」のやはり侮れない野生を垣間見た思いがした。
 そういえば、いかな百獣の王ライオンといえどもキリンの大人を襲うことはないらしい。メガトン級のかかと落としを食らったら、命を落とすこともあるからだという。
 うむむむ……。

 去り際、来訪者が書き残すノートがあり、訪れた様々な国の人々がいろいろ書き残していた。ダニエルに勧められるまま、我々も住所氏名と一言を書くことに。
 「Long Tang!!」
 「Nice Kiss!!」
 というマヌケな書き込みがあったら、それは我々です。

がんばれステゴザウルス!

 ジラフセンターを離れ、定番コースであるらしい土産物屋センターらしきところに寄った。

 いかにもアフリカ、ケニア、マサイって感じのお土産屋さんがテナントになってたくさん入っているところだ。予定的に帰りはこういうところに寄っている時間はないかもしれないから、買うなら今のほうがいいよ、とジャクソンは言う。
 でもついたばっかりでお土産ってのものなぁ……。
 ストロング・テッコーツアーズが自身のツアーで普段やっているように、マサイマラやその他国立公園や保護区まで陸路で行く場合、途中の道々にいろんなお土産屋があり、観光客はそこで休憩を取る形でお土産を物色するらしい。
 でも我々はマサイマラまで軽飛行機で行ってしまう。
 でもまぁ、いざとなれば最後に空港で買うって手もあるから、まぁここは見学でいいや……といいつつTシャツを一枚だけ買ってしまった。

 買い物するに際し、僕は結局旅行後に至るも1ケニアシリングが日本円にしていくらになるのかということを深く考察しなかった。朧な記憶で、だいたい1ドルくらいだろうと理解していたのだ。
 ケニアでは、観光客を相手にしている店だったらほぼどこでもドルが使える。でも、値段表示はケニアシリングだけという場合が多く、もともと算数が苦手で、おまけにレートを把握してない僕は、その表示がいったいいくらになるのかイマイチ解らない。
 このお土産センターで買い物をしたときも、1100ケニアシリングほどだったTシャツが18ドルだと聞いても、僕のステゴザウルスなみの小さな脳では、いったい1ドルが何シリングになるのか瞬時には理解できなかった。
 だから、18ドルのものを買うのに20ドルを出し、お釣りで渡されたのが200シリングだったとき、僕のステゴザウルス脳は素直に「そうか、2ドルは200シリングなのか」という結論に達してしまった。
 ちなみに僕のステゴザウルスは、1ドルは100円と決めている。だから200シリングは200円なのである。
 この時点で正確なレート的にはすでに150円もの誤差が生じているのだが、ステゴザウルスにはとんと理解できないのだった。

 よく考えたら……よく考えなくても明らかに損な買い物だったけれど、おかげで僕は現地の通貨を手にすることができた。ケニアシリングだと紙くずになってしまうので、両替ではドルにしか替えていなかったのだ。
 この200シリングのおかげで素敵な寄り道ができた。

 道々でずっと気になっていた露店、そこに是非寄ってみたかったのである。
 こういう現地の何気ない果物屋ってとっても魅力的なんだもの。
 でも、そういう店に観光客なんぞが押しかけていいのだろうか。ジャクソンさん、マンゴー買いたいんだけど大丈夫?

 「大丈夫でーす!ノープロブレム、ハクナマタタ!」

 ん?
 最後のは何?

 「ハクナマタタは、ノープロブレムという意味です、問題なーい、大丈夫!!」

 Hakuna matataと書くらしい。
 ジャンボ!に続き、その後とっても活躍する言葉となり、ついにはこの旅行記のタイトルへと昇華した。

 寄るからには写真も撮りたいのでその旨ジャクソンにお願いすると、

 「オーケー、私が話しまーす」

 あ!!
 でも僕たちには今ケニアシリングが200シリングしかないや。これで足りるかな、ジャクソンさん?

 「おー、充分でーす。マンゴー1個20シリングくらいねー。100シリングで5個買えます(笑)」

 え!?マンゴー一個20円!?<ステゴザウルスはまだこの頃そう認識していた。

 でも5個も食べられないよなぁ。じゃあ、3つ買ってお釣りは撮影させてもらうお礼にしよう。
 というわけで、きっと滅多に日本人客のリクエストはないであろう、ナイロビのアイスクリンともいうべき果物屋の露店に寄ってみた。

 おお…。
 ついに無防備なままで施設内でもなんでもない空間に降り立ってしまった。
 気のせいかそこらじゅうから視線が集まっているような……。
 中津江村に初めてカメルーンの選手が来たときは、きっと村中の人がこういう目で眺めていたに違いない。今僕たちはまったく逆の立場にあるのだ。

 ちょっと緊張しつつ露店の前で待っていると、ジャクソンが店番の婦人に話をつけてくれた。
 こういうところで観光客が買い物をすることは滅多にないのか、彼女はちょっと戸惑っているようだ。でもその分観光客向けにふっかけたりすることがない。
 僕らがマンゴーを選んでいると、ビジネススーツに身を包んだ女性がフラリと立ち寄り、スライスされたスイカをサッと買って去っていった。
 うん、僕はこういう地元に根づいた南国のフルーツの在り方が大好きなのだ。
 その昔バンコクで同じように買ったフルーツの盛り合せは美味かったもんなぁ……。

 さて、ずらりと並ぶマンゴー、ジャクソンと店番ネェネェに厳選してもらい、3つ選んでハイチーズ!!


左端がジャクソンさん

 100シリングには撮影代も入っているということはジャクソンは伝えていなかったらしく、店番女性は100シリングからマンゴー3個分の代金を引いたお釣りを渡してくれた。すかさずそれを、お礼代わりに彼女に渡す。彼女にパッと笑みがこぼれる。

 彼女の娘であろうか、この小さな女の子のかわいいことといったらなかった。
 あとでまた触れることになるだろうけど、この地で見るキッズはみなかわいい。誰も彼もマルコメ頭ってこともあるけど、とにかく明るい。子供ってかくあるべしって我々が普段勝手に思い描く期待どおりに元気一杯なのである。
 ナイロビは危険が一杯、歩けないほどデンジャラスだとはいうけれど、それは旅行者にとってであって、この地に暮らす人々にとっては穏やかな土地なのではあるまいか。この先何度も出会うことになる元気で明るいキッズを見るにつけ、それは次第に確信に変わっていった。

 たった数百m先の幼稚園や小学校に安心して子供を送り出せない我が日本のほうが、よっぽど危険が一杯、デンジャラスな異常世界であることは間違いない。
経済的に発展途上の国であるから、幼いうちに病気で死ぬ危険性が高いということは否めない。
 また、街中いたるところにある豪邸やそれなりの施設の敷地は、鉄条網を擁した高いフェンスでガードされているということや、街中に、まるで銀河鉄道999に出てくる機械人に支配された地球の人間居住区のような空間として存在するスラムの現実を知れば、生易しいことは言っていられないかもしれない。
 でも、親や近所の顔見知りやフラリとやってきたキチガイに危害を加えられるのではないか、そんなことでビクビク暮らさなければならない国に比べれば…………。

 いったいどちらがシアワセなんだろう?