E海幸三昧♪

 舟宿太平荘の食事は部屋食だ。
 海に面した部屋の掘り炬燵で、ぬくもりながらいただけるようになっている。

 風呂に入って浴衣に着替え、今や遅しと臨戦態勢で待機しているところへ、いよいよお夕飯登場!!

 まずはお造り系である。
 これがまた、ひと目見ただけでヨダレが……。

 なんといってもこのお刺身!!

 シメ鯖に鰆、白イカと呼んでいたけどきっとアオリイカであろうイカ、それに鯵、そして炙った鯵。

 どれもこれも美味しい……。
 そりゃ水納島にいても新鮮なお魚の刺身はいただける。でもいわゆる光物のメジャーなお魚となると……。

 シメ鯖なんて、今の世の中日本全国どこに居たって食べられるけれど、たいていの場合、「酢でシメてあります」的な色と味。
 ところがここでいただいたものは、身はあくまでも活きがいい赤味をおびつつ、表面にほんのり酢ジメがなされているもので、保存のためではなく味付けのためでしかなさそうなシメ具合。まさに地元ならではの逸品。
 これまでの人生で食べたシメ鯖のなかで最も美味しかった……。

 一方、冬の味覚を代表するカニさん。松葉ガニだ、なんてことになると一気に主役になってしまうところ、あくまでも脇役に甘んじてくれるのがこれ。

 このあたりでは「コッペガニ」と呼ばれているセコガニ。
 実はセコガニの存在をこの冬帰省した実家で初めて知ったんだけど(生前の祖母の好物だったらしい)、まさかそれがズワイガニの雌のことだったなんて!!
 言われてみると、「松葉ガニの卵」なんて見たことなかった。

 逆にセコガニ=雌なので、当然ながら卵があり、珍味として重宝されている。このお皿にも、ビッシリと卵が(右端)。

 どうやら世間では超有名らしいセコガニ。
 なんで今まで僕は知らなかったんだろうと不思議に思い調べてみたところ、どうやらその理由はこのカニさんの禁漁期間にあるようだ。
 資源保護のため、このセコガニは11月上旬から1月上旬までしかその漁が許されていないらしいのである。
 その間に内地にいる機会が少ない我々が知らなかったのも無理はない。

 オスに比べて遥かに小さなボディなれど、ほぐされた身とミソが合わさったお味は酒が進む進む。

 そうこうするうちに、焼き物系も登場。

 レンコダイと呼ばれる、キダイの塩焼き。
 黄色い模様が背中に入っているので、鯛というよりは深海性のハナダイのような趣もある、一人分にちょうどよいサイズのお魚だ。

 ヒレの辺りがやけに塩が多いなぁと思っていたところ、ヒレの形を綺麗に残すために、塩でコーティングしてあったからではないかと、うちの奥さんが珍しく論理的に推察していた。
 なるほど。

 美味しかったあらゆる料理のなかでも特にうちの奥さんのお気に召したのがこのレンコダイの塩焼きで、釣りバカ日誌の浜ちゃんもビックリするくらいに綺麗に片付けていた。

 たしかに美味しかったからその気持ちもわからないではない。
 しかし、その他いろいろ料理があるのだから、とりあえずそれぞれをいただいてから集中すればいいものを。
 最初に一極集中するものだから途中でお腹一杯になってしまい、結局手を付けられなかった料理が出てきたりする始末である。
 推察は論理的だったけど、食べ方はそうではないあたり、やはりオタマサ。

 お次は煮付けがご登場。

 カワハギ(の仲間)の煮付け。

 そのうえ鍋物も。

 そして、この一連の流れにいまひとつそぐわないような感じで突如現れたのが、

 「白イカのムニエルです」と仲居さんが紹介してくれたけど、どう見てもソテーに見えるイカの丸焼き。
 ひょっとするとこの料理は、例によって心づけ代わりに女将さんにお渡ししたナンチャッテ手土産の返礼かもしれない。

 以上すべて、一人前ですぜ。
 とてもじゃないけど、もし昼間天橋立でいつものようにバカ食いしていたら、とうていゴールまで達することはできなかったことだろう。

 というか、オタマサが完食できたのはレンコダイまでで、鍋に至ってはお魚に到達できなかったんだから。
 おかげで、その大きな切り身のお魚さんが、鯖なのか鰆なのか、はたまた別のお魚なのか、僕の舌では結局正体不明のままで終わってしまった(仲居さんに尋ね忘れた)。

 味も量もさることながら、これで酒飲まなくていつ飲むの?ってなくらいの酒の肴オンパレード。
 夕刻に酒を買いに行って正解だった。

 この宿には、オプションとしてブリしゃぶとかカニ料理、ふぐ料理などが選べるようにもなっている。
 でも、現地でフツーにいただけるフツーの食材を求めていた我々は、ノーマルバージョンの夕食で大満足なのだ。
 とはいえ、ノーマルバージョンでこれほど美味しいのなら、それら旬のスペシャル料理って、いったいどれほどおいしかったんだろう……。

 沖縄に戻ってきた今になって、ブリしゃぶに心惹かれている我々なのだった。

 ところでフツーの食材とはいっても、イカとか鯵とか鰆とか、このあたりの海でフツーに獲れるんだろうか?
 そんな素朴な疑問は、翌朝一気に解決することになる。

 心もお腹もこれ以上ないほど満たされた夕食を終えた頃、伊根湾の上には十五夜のお月様がポッカリ浮かんでいた。

 月明かりに照らされて、淡くホンワリとたたずむ舟屋群。
 波音というには大げさすぎる、静かに戯れているかのような海の音が、子守唄のように縁側から聞こえてくるのだった。