写真・文/植田正恵

110.沖縄余興考
月刊アクアネット2012年7月号

 

 沖縄の結婚披露宴が、本土のそれと比べるといろいろとケタ違いであるということはつとに有名だ。
 「乾杯」の前からすでにみんな飲み始めているというのは当たり前で、人数が200人じゃ少ないといわれるほどの披露宴会場では、座るべきテーブルは決まってはいるけれど席は決まっていないこともあるとか、服装がセミフォーマルでまったく問題ないとか、挙げていけば枚挙に暇がない。

 そんな驚きの特徴の一つに、余興に割り当てられる時間が異常に多いということがある。
 式場には余興のための舞台が欠かせず、大きな会場だと緞帳つきの舞台が会場の前後に用意されている。舞台の傍らには余興をする人の控え室まであるほどで、その余興時間の関係で、結婚披露宴は3時間余にも及ぶのが普通だ。

 石を投げれば親戚縁者に当たる、というくらいに誰も彼もが親戚といっていい狭い社会なので、親類縁者に著名な郷土芸能人がいることもしばしば。
 また、たとえ素人であっても余興に命を賭けていそうな方々が、新郎新婦の縁者に少なからずいるのである。場合によっては、「なんで私に余興をやらせなかった!!」というクレームまで出るほどだという。
 披露宴は、余興のためにあるといっても過言ではない。

 水納島では、さすがに島内で結婚披露宴を開催する機会は滅多にないけれど(過去に2度あり)、それでも余興を見る機会はわりと多い。
 先生方の送別会や歓迎会、学習発表会や運動会の反省会、敬老会、卒業・合格祝い、誕生祝、新築祝い、おじいのトゥシビー祝い(還暦の後
12年ごとにするお祝い)などなど、宴席の規模の大小こそあれ、やはり余興は欠かせない。

 なかでも学習発表会の反省会のときなんて、どうせやるなら反省会の場じゃなくて、本番のほうで発表したらいいのに、といいたくなるくらいに本格的な音楽のセッションだったりすることもある。

 とはいえ結婚披露宴とは違い、誰も彼もが余興をやりたがるというわけではなくて、三線が得意な島のヒト、学校の音楽のセンセイ、島の子供たちなどなどがメインで、音頭をとるセンセイがいれば、それらを合体させたバンド演奏などもある。

 最近は子供たちがダンスにはまっていて、先生方の歓迎会の際に、誰が強制するでもなく、自発的に余興としてダンスを披露してくれていた。ちゃんと週末ごとに本島まで習いに行っている本格的なものなのでなかなか見ごたえがあり、ものすごくかっこよかったので驚いた。

 ことほどさように、何か趣味として芸を持っている人間がいると、それを披露する場がいくらでも用意されているのが沖縄だ。
 その場を盛り上げたい、楽しくしたい、楽しませたい、という気持ちと、そういった場があるからこそ、芸を持っている人間が多く育つのだろう。そういったこともまた、沖縄の文化を形作っている重要な要素のひとつであるのは間違いない。

 その昔沖縄の職場では、「結婚式の余興の練習があるので今日は残業できません」という話が普通に通用すると知ったときは、ずいぶん仕事に対してゆるい社会なんだなあと思った。
 けれど島で暮らして余興のありようと身近に接しているうちに、それは大切な文化継承のひとつなのだとも思えるようになってきたのだった。