写真・文/植田正恵

130.船の台風避難
月刊アクアネット2014年3月号

 

 一昨年の秋のこと。
 ダイビングシーズンも残すところあと一か月という頃に、その年3度目の猛烈台風が沖縄本島地方を襲った。

 その猛威により、我がダイビングボートは避難港の中であえなく転覆してしまった。
 それに気づいた本島の方から電話を受けた島の人が、ピークは去ったとはいえまだ暴風吹きすさぶなか、わざわざ我が家の玄関先まで伝えに来てくれたおかげで、島にいる間に我々の知るところとなった。
 何も知らずに船を取りに行っていたらそのショックは……。

 水納島には船を陸揚げするためのスロープがない。かろうじて大潮の満潮時に船を持ってくることができる、先人たち手作りのなんちゃってスロープが裏浜にあるものの、台風は潮のタイミングを選んではくれないので、避難場所として使うには制約がありすぎた。

 そのため我々はこれまで、天然の良港である本島の港に大きなアンカーを設置して、台風中はそこに船を係留して難を逃れてきた。
 ただし台風中は、かつてこの稿で触れたとおり家にも被害が出る恐れもあるから、船を本島に避難させた後、そのまま本島に留まっているわけにはいかない。

 となると、連絡船がまだ島への運航をしている間に船を避難させなければならず、我々の船を避難させるのは、まだピーカンベタ凪ぎの絶好のダイビング日和、となってしまうこともザラだ。
 本島のダイビングボートが島まで来て潜っている快晴の日に、「台風のために今日のダイビングは中止です」とゲストに伝えることの気まずさといったら……。 

 それでもなんとか17年間耐えてきたというのに、昨今の異常気象がもたらす特大スペシャル猛烈台風は、これまでの経験値を鼻で笑うかのように猛威をふるう。
 おかげで前年の自宅崩壊に続き、とうとう船までも……。

 2年連続の災難に人生楽観主義の私もさすがに少しへこんだけれど、へこんでばかりいてもしょうがない。この先また同じ方法で船を避難させていたら、いつまた同じように転覆してしまうかもしれないから、今後は陸揚げして船を避難させることにした。

 そのためには船台と牽引車の購入&維持費という費用がかかるということもさることながら、これまで旦那一人で手早く済ませていた避難作業が、陸揚げするとなると牽引車の運転手と船台の方向転換要員の二人必要になる。

 しかもかなり時間を要する作業となるので、作業後島に戻ることを考えると、従来よりもさらに早い段階でダイビングの中止を決定せざるを得なくなってしまった。

 それもこれも、ひとえにちゃんとしたスロープが水納島にないからである。
 そもそも有人離島でありながら船を揚げるためのスロープがないという島が、沖縄県にいったいいくつあるだろうか。

 ちなみに宮古島地方の多良間島近くにある離島(そこも水納島という名前)には一家族しか暮らしていないというのに、豪華クルーザーが20隻は停められようかというほど広く、立派なスロープも当然のように完備されている港が近年造られている。

 台風最接近中に海に浮かべっぱなしにしていることに比べれば、陸揚げしたことによる安心感はなにものにも代えがたい。
 それが島で実現できれば、どんなに素晴らしいことか。

 一家族だけの島に造れるのなら、水納島でも可能だろうになぁ……と、老朽化にともなう豪華庁舎への建て替えが決まった本部町役場の工事現場を見ながら思うのだった。